第25話 最後に伝えたいこと
「はぁ、はぁ…やっと追いついたわ。あんた歩くの遅すぎ!」
「そんなこと言われても僕にはどうしようもないよ〜」
ユリとマルが息を切らしながらやっとカイ達に追いついた。
というか、ユリが無理やり引きずってきたに近い感じだ。
「あんたが痩せればいいだけでしょ!ほら、早く二人に加勢するわよ‼︎って、ノユラ‼︎どうしたの⁉︎何があったの⁉︎」
カイに倒れかかるノユラを目にして、急いで二人に駆け寄っていく。
「あら、遅かったですわねユリ…ちょっとばかし派手に転んじゃいましたの…ゴフッ!」
腹部を抑えながら、途切れ途切れになりながらも話続けた。
「なにカッコつけてんの‼︎あんたがどんな状態かなんて見ればすぐにわかるわ‼︎今すぐにでも傷口を凍らせればまだ助かるかもしれないわ!」
「いいですわ…わたくしはきっともう助からない…だから、せめてノゾムだけでも救ってあげ…ゴフッ」
何度も血を吐きながらそれでも必死に伝えたいことを伝える。
彼女の服はもう半分以上血に染まり、もう長くはないことが見てとれるほどだった。
「ノゾム‼︎あんたも何してんの!早く来なさいよ!いつまでそんな馬鹿やってんの」
「ノユラは僕のせいで…僕がこんなことしなければ…なんてことを……僕は…僕は‼︎」
「いいから早くしなさい‼︎」
ユリの一喝に渋々近寄っていくノゾム。
だが、ノユラと顔を合わせることが出来ないでいた。
「ねぇ、ノゾム?あなたには感謝していますのよ…」
その予想だにもしなかった言葉にノゾムは顔を合わせる。
「僕に感謝を?」
「えぇ、そうですわ。あなたはひとりぼっちでいたわたくしを仲間にしてくれたわ…」
「それはノユラのスキルのことを聞いていたから!…」
「それでもいいですわ…例えそうだとしても…誰かに必要とされる事はとても嬉しかったですわ…」
ノユラの優しい言葉に胸が握り潰されたように苦しくなり、涙がとめどなく溢れてくる。
自分の身勝手な行動のせいでこんな目にあっているのに、それなのにこんな僕に…
「あなた達と一緒にいれた時間はとても短かったけれど、それでも…ゴフッ‼︎」
「ノユラ‼︎もういいから!それ以上は」
ノユラの冷え切ったからだに抱きつき、最後に母に触れた時を思い出す。
「それでも…一緒にいた時間はとても楽しかったですわ…これが最後の思い出に出来て良かった…本当に…良かった」
「最後なんて言うな‼︎まだ……まだ‼︎これからもっといろんなとこ冒険して、色んな珍しいものを見て、美味しいものを食べて…もっと…もっといろんな‼︎」
まだだ。まだ伝えきれないほど言いたいことが…
だが、この世界はそんな時間を待ってはくれなかった。
ノユラの身体が光り始め徐々に薄くなっていく。
「どうやら、お別れの時間みたいですわね…」
「嫌だ‼︎もう少しもう少しだけ待ってくれーー‼︎‼︎」
「最後までそんなんじゃカッコよくないですわよ…グズズッ‼︎」
ノユラの涙が頬をつたり地面へと落ち、細かく散らばり光りながら空へと上がって行く。
「ノゾム…最後に一つ質問してもいい?」
「あぁ!一個でも百個でも何千個だって…」
もうほとんど消えかけている彼女を強く抱きしめ直す。
抱きしめられているのかどうかも、分からないくらい彼女は消えかけていた。
「わたくしを誘って…わたくしを仲間にして良かったと思っていますの?わたくしはあなたの役にたてまして?」
「当たり前だ…何一つ後悔なんてしてない。もし、違う出会い方をしていても僕は必ずノユラを仲間にしていた。だからそんな悲しいこと言わないでくれ」
「それが聞けただけで十分ですわ…ありがとうノゾム……」
『さようなら』
その言葉を最後に光は弾け、空へと上がっていった。
「ノユラァァァァーーーーーーー‼︎‼︎‼︎」
弾けた光を必死にかきあつめようとしたが光の粒は手の隙間をすり抜け、空高くに消えていった。
光が消え、辺りはもとの静寂に包まれた。
「送別は終わりましたか?」
彼の言葉で、また三人に緊張が走る。
「あんたのせいで…あんたのせいでノユラはー‼︎創造‼︎」
ユリは氷の剣を造り、杖持ちに向かって構えた。
「だから、私のせいじゃないと何度言ったら…はぁ。全く、やめておきなさい」
そう言って杖をユリに向かって構えた。
「離れろユリ‼︎」
ーードシュ‼︎
カイのおかげで、なんとか避けることには成功したが。
避けた際に足を痛めてしまった。
「痛いっ」
「なんと運が悪かったですね。さぁ、トドメです」
またもや杖をユリに向かって構えた。
「あのままじゃユリが…けど俺の足では絶対に間に合わない」
今何が出来るかを必死に考えた。
すると、ポッケの中に飴が入っているのを思い出した。
これでなんとか!なるか〜?
だが、仲間を救うには今頼れるのはこれしかない。一か八かこいつに託す。
飴を口に頬張り噛み砕く。
おっ‼︎ぶどう味だ。
そんなことを考えていると。突然目の前が真っ暗になっていった。