第22話 無言の業火
カイとノユラがノゾムを追いかけて行った頃。
ユリとマルは敵の一人と戦っていた。
「あんたさっきから黙ってないで、なんか言いなさいよ‼︎」
敵の飛ばして来る炎の塊を避けながら、氷の剣を飛ばして対抗する。
「…」
「あー!腹たつわねー。あんた絶対友達少ないでしょ!」
「…」
どんなに話しかけても、一向に返事をしない。
ただひたすらに能力で作り出した炎の竜で攻撃をしてくる。
本体に近づき攻撃しようとしても、竜が邪魔して攻撃が当たらない。
しかも、ユリの氷の能力では相性が悪く、炎の竜の熱で氷が溶けてしまう。
時々飛んでくる火の玉を、マルはバクバクと口に頬張って処理している。
「マル、あんたそんなもの食べてお腹壊さないの?」
「ちょっぴりピリっとしてなかなか美味しいんだよ」
炎に触れることは出来ないので、直接口に持って行き、飛んでくるものをひたすら美味しそうに食べている。
「確かに、あんたみてるとちょっと食べてみたくなるわね。まぁ、食べないけど」
相変わらずひっきりなしに飛んでくる火の玉を避け、たまに来るブレスを氷の壁でなんとか防ぐ。
けれども、流石に体力が持たなくなり火の玉も氷で防ぎ始めている。
「そろそろ、なんとかしないとまずいわね〜」
「僕はもう少し食べても大丈夫だよ」
マルが舌をペロリとしながら、こっちを見る。
「あんたも食べてないで、少しは攻撃しなさいよ!」
「そんな事言われても、僕のスキルじゃ攻撃手段無いし〜」
うつむきながらも口に入っている炎をもぐもぐとしている。
「全くどいつもこいつも、変な奴ばっかりね!なら、こっちも氷で竜を作って戦うしか無いじゃない。創造!」
敵の炎の竜に負けないくらい大きな竜を作って見せたが、案の定熱で溶け始めている。
「あー‼︎せっかく造ったのに!ほら、マル!あんたのアイテムでなんとかしなさいよ!」
マルはアイテムのダイヤルをカチカチといじって、ユリの造った氷の竜に向かってトリガーを引く。
アイテムから放たれたビームが氷の竜に命中し、さっきまで溶けていたのが嘘のように固まる。
「良くやったわ!これで、何も恐れる事なくあの無言野郎をボッコボコに出来るわ!どう?これから倒される気分は」
「…」
ユリが踏ん反り返りながら指を指して威勢良く言い放ったが、敵は相変わらず一言も喋らない。
「キィーー‼︎ほんと腹たつわねー!もういいわ、さぁやってしまいなさい!」
氷の竜の拳が炎を払い、敵の竜が倒れこむ。
周りの草が焼けて、辺りが明るくなっていく。
敵の竜がブレスを放ったが、マルが全部吸い込み溶けずに済んだ。
「さぁ、フィナーレよ!」
氷の竜のブレスが炎で出来た身体さえも凍りつかせ、本体が無防備になったところにマルの柔いパンチが炸裂する。
敵はその場に倒れこみ、結局一度も口を開く事なく終わった。
「最後まで一言も喋らないなんて、それにあんなへなちょこなパンチで倒れるってどういうことよ」
「ふふっ、僕の拳には脂肪がたっぷり詰まっているのさ!」
マルが誇らしげに拳を掲げながら言った。
「いや、そんなにかっこよく無いわよ。まぁ、そんな事どうでもいいわ。私達もカイ達を追いかけるわよ!」
「えぇー⁈お腹いっぱいで走れないよ〜」
お腹をさすりながらその場にに座り込む。
「食べてなくてもどうせその身体じゃ走れないんだから大した変わらないわよ!ほら、カケル達もいつまでそんなところで突っ伏してないで早くしなさいよ〜!」
「この状況でそんな事言うなんて、あなたは鬼ですか!頑張って倒すんで、先に行ってて下さい」
カケルが突っ伏したまま返事を返す。
「分かったわ!ほら、行くわよマル」
「ふぉえぇ〜」
マルの手を無理やり引っ張りながら、二人はカイ達を追いかけ始めた。
何とか二人目を倒して、残る敵は一人となった。