第19話 宝箱とアメ
目を開けるとそこには突っ伏したままの仲間達と、忌々しいあいつらがいた。
「ここは…戻ってこれたのか?」
服も元のオレンジ色のパーカーに戻っているし、確かにあの世界に戻ってこれたみたいだ。
「ノゾム‼︎大丈夫か!」
「あぁ」
「おやおや?いい表情になって帰ってきましたね〜。絶望に満ちたその顔…たまりません‼︎」
「そうだ!そうだ〜‼︎」
相変わらず、腹立たしい奴らだ。
人の顔を見て喜んでやがる。
「それでは、あなたの返事を聞かせてもらいましょう!」
「ノゾム!あいつらにガツンと言ってやれ‼︎」
「……」
「…おい。どうしたノゾム」
ノゾムは下を向いたまま、黙り込んでいる。
「早く、断るって言ってやれよ!」
「すまん…カイ…みんな…」
小さく震えた声で、ボソボソと呟く。
「嘘だろ…」
カイの顔が引きつり、全身の力が抜ける。
「ありがとうございます‼︎それでは、さあさあこちらへ」
「ごめんカイ。だけど、すぐにでも願いを叶えたいんだ…」
二人に連れられてノゾムが扉の中へと消えていく。
何もなす術なく、仲間を連れて行かれる屈辱。
そして、その仲間から直接言い放たれた言葉への絶望。
敵の能力から解放され、自由に動けるようになったが、皆しばらくそのまま呆然と座り込んだ。
「帰るか…」
最初に口を開いたのは意外にも、カイだった。
その事に、みんなはとても驚いた。
「ちょっと、あんたふざ…」
ユリがカイに対して怒りを向けたが、カイの顔を見て、その言葉は途中で途切れた。
二つの絶望を味わった後とは思えないほど、カイはとても冷静な表情をしていた。
「そうですね。とりあえず今は帰りましょう」
カケルが立ち上がり、みんなに呼びかける。
「宝箱の中身だけ貰って、さっさと帰ろう」
みんなは、そういえばそうだった!みたいな顔をしている。
「すっかり忘れてましたよ。けど、まだアイテムなんて入っていますかね〜。それに宝箱は二つありますよ?」
二つの宝箱を指差しながら、カイに尋ねる。
「両方一気に開けよう。俺が左の方でカケルが右の方な」
「分かりました」
「それじゃあ、行くぞ〜。オーーープン‼︎」
蓋を思いっきり上にあげた。
砂埃が多少舞って、ゴホゴホと咳き込む。
「あっ!入ってましたよアイテム‼︎まさか、取らずに入れっぱなしにしてあるなんて」
おもちゃの銃の様な形をしたアイテムが入っていた。
カケルが床をめがけて引き金を引くと、ビビビッとオレンジ色の光を放って床に当たる。
すると、床がポヨポヨとした感触にかわった。
それを見て、カケルの仲間達が喜び合っている。
「えっと、俺の方は〜」
宝箱に手を突っ込むと、突然宝箱の蓋が閉まった。
「いって‼︎蓋が突然閉まりやがった!」
カイが挟んだ手を摩りながら、宝箱を蹴り飛ばす。
『イッてーな馬鹿やろー‼︎』
なんと、宝箱がいきなり喋りだしたではないか。
「ったく、最近のガキは物を大事にするって事を習ってないのか‼︎」
「なぁ、もしかして今こいつが喋ってる?」
カイが、踏ん反り返った宝箱を指差しながらみんなに問う。
「えぇ、確かに聞こえましたわ」
「私にも確かに聞こえたわ」
もう一度宝箱を蹴ってみる。
「だから、痛いっていってんだろーがコンチクショウ‼︎おいらはな〜!偽物の宝箱として、もう何年も経つベテランなんやぞ‼︎そ〜のおいらに向かって、なんて事してくれてんのや!」
喋る宝箱が、とても偉そうに話しだした。
「えっと、その、すいません」
素直にカイが謝る。
「分かればいいんや!分かれば!ところで、腹減ったんやがコイン持っとらんか?コイン!」
「え、あっ…持ってますよ。はい」
カイがポッケから30ポカニョンほど出して、宝箱の口と思われるところへ投げ込む。
「おー!こんなにくれるとは気前ええなー‼︎それにしても、お前さんの仲間はえらい落ち込んどるけど、どうかしたんか」
後ろを振り向くと、ノユラとユリが床を見つめて落ち込んでいた。
それを見て、周りの雰囲気も悪くなる。
「あ〜‼︎辛気くさくて苔生えそうやわ〜。しょうがない、おいらがアメちゃんくれてやるから元気出しな‼︎」
ガタガタと揺らしながら、中から何かを取り出そうとしている。
「ほらよ!」
そう言って、箱の中からベロを出し、その上にアメが乗っかっていた。
「一個かよ‼︎」
あまりに期待外れで、テンションが下がった。
「贅沢言うな!このアメはおいらのコレクションの一つで、めっちゃくちゃレアなんだぞ‼︎」
「へぇー」
本当の事を言うと、あまり興味がない。
「ピンチの時に舐めると、効果があるらしいぞ‼︎さっ、用が済んだらさっさと帰りな‼︎出口はそこの壁のスイッチを押せば帰れるから」
「ありがとな」
「もう、くんじゃねーぞ‼︎」
壁のスイッチを押すと、足元が光始めた。
「言い忘れてたけど。ここの奴らはいろんなとこを転々としてるから、次来てもきっといねーぞ」
「いい情報を有り難う!」
そう言い終わると光に包まれ。
次に目を開けた時には入り口に立っていた。
「さて、この後どうします。って、聞くだけ野暮ですよね」
「あぁ、ノゾムを引きずってでも取り返す‼︎」
ーー真っ暗な夜空に、星が輝く。