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とってもちっぽけな願いを叶える為に異世界に行くのはいけない事ですか?〜豚汁を求めて三千万里〜  作者: 藍白かいと
第一章 過去を振り返るのはいけないことですか?
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第16話 終わりの始まり

目の前で、眩い光と共に消えてしまったノゾム。


「お前、ノゾムを何処にやったぁぁーー‼︎‼︎」

カイの叫びが、静寂を壊し響き渡る。


杖持ちの男がニヤリと笑う。


「彼には、現実世界に還ってもらいましたよ」


「そうだ!そうだ〜!」


「そんなこと、どうやって…」

信じられるはずが無い、だが目の前でノゾムが消えてしまったのは事実だ。


「わたくしのスキル現実送還リターンの力で、彼には三日間の絶望の旅に出てもらいました」


「そうだ!そうだ〜!」


絶望の旅?ノゾムは三日間戻って来ないのか?


「今すぐノゾムを返せ‼︎」


「安心してください。彼には三日間でも、こっちでは三分間ですから。すぐに戻って来ますよ。」


「そうだ!そうだ〜!」


良かった。少しは安心する事が出来た。

けれど、あいつらは知らない。

ノゾムの過去を、そして叶えたい願いを。

知っているのは自分だけであり、他の仲間ですら知らない悲しみ。


知っているからこそ、容易に想像出来る事がある。

今現実の世界に戻ったら、ノゾムには絶望しか無いということが。

想像するたび、不安を一層掻き立てる。


「ですから、あなた方にはもう少しそこで地面にへばりついていてもらいますよ〜」


「そうだ!そうだ〜!」


「ふっ…ざけ…るな…」

どんなに立ち上がろうとしても立ち上がる事が出来ない。

自分達の無力さを痛感する。

床の冷たさが、体温によって徐々に温まっていくのが分かる。


「どんな顔で戻ってくるか、楽しみですね〜」


「そうだ!そうだ〜!」


「ノゾムは俺たちの事を捨てたりはしない!」


二人の薄気味悪い笑顔に、たまらなく腹が立つ。

今もノゾムは、苦しみに耐えてるというのに!何も出来ない自分が悔しい。


「ですが、絶望の前では人は無力です‼︎」


「そうだ!そうだ〜!」


「俺たちは、あいつを信じる‼︎」


信じる、ただただ信じる。

自分達に出来る事はそれしかない。




ーーその頃、ノゾムは家のベッドで目を覚ましていた。


「ここは…俺の家か?」


目の前が真っ白になり、気が付いたら家にいた。

その事実がのみ込めるようで、のみ込めない。

時計を見ると、お昼の12時。


「日にちは…7月10日。」


母が亡くなったのは9日なので、あれから1日経っている。


「それにしても、ここは現実世界か?それとも、幻とかなのか?」

どっちにせよ、ここは確かに自分の家で、自分の部屋だ。

懐かしい匂いがする。恨めしい匂いがする。

過去の自分が恨めしい。過去の自分が羨ましい。

何も出来なかった自分が、全てを与えられていた自分が。


思い出すたび涙がとめどなく溢れてくる。

だが、今はそんな事を考えている場合じゃない。


ドアを開け、家の中を探索する。

僕の家は三階建ての一軒家だ。

それなりに裕福で、よくあるごく普通の家庭だった。


「おはよう、やっと起きてきたか。」

聞き覚えのある声がした。

振り向くと、そこには父親がいた。

何日ぶりだろうか、一日ぶりか一週間ちょっとぶりか。

だいぶ老けたな父さん…


「帰って来たら、ずっと部屋にこもりっぱなしだから心配したんだぞ?」


「あぁ…ちょっとね」


そうか、この世界で僕はずっと寝ていた事になってるのか。



『ピーーンポーーーン‼︎』


家のインターホンが、部屋じゅうに鳴り響く。

誰か、来たようだ。

しょうがない…玄関まで足を運ぶ。


「ノゾムー!今暇かーー⁉︎遊ぼうぜー‼︎」


これまた、聞き覚えのある声だ。

そうか、友達か。


ドアを開けて、外に出た。聞き覚えのある声が三つほど聞こえる。

だが、もしかしたら幻かもしれないという考えが邪魔をして、友達の顔をしっかり見る事が出来ない。


「よっ!何度も電話したのに、返信こないから居ないのかと思ったぜ〜」


ケータイを開くと通知が20件くらい来ていた。


「ちょっと待ってて。今準備してくるから」


「オッケー‼︎」


特に遊びたいという気持ちは無いが、今はこの家から少しでも遠ざかりたい。

この家には、母との思い出の品があちらこちらにあって、見るたびに気分が重くなり、気持ちが悪くなる。


「あと、クウタも誘ってるんだけど返事がねーんだよな。ノゾム、お前クウタの幼馴染だろ。なんか知らないか?」


「幼馴染でもさすがにそんなことまで知らねーよ」


「だよな。すまんすまん。じゃあとりあえずどこ行く?」


ーーそれから、三人の友達と映画を観て、カラオケに行き、少しでも家にいる時間を減らそうとした。


けれど、何も面白く感じない。

とてもつまらない。

普段なら凄い楽しんでいるはずが、今日はまったく楽しめない。


早くあっちの世界に戻りたい。

願いを叶えなくては…カイ達が待っている。


いつになったら戻れるのか。

それすら分からない。


「じゃあなー」


友達と別れ、家に帰りベッドにダイブする。


お腹も空かない。

家に居てもする事が無い。


何も考えずに、今は寝よう。

そしたらきっと戻ってるはずだ。



ーー退屈な一日がやっと終わる。


終わる……はずだ…


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