第12話 分岐された道の先
ダンジョンの中は相変わらず暗いがそれなりに見渡すことが出来るくらいには明るい。
例えるなら、夜の月明かりと同じくらい。
道は一本だけでひたすら歩いていくしかなかった。
「外の見た目と比べると、案外普通ですね。けど、こうも狭いとわたくしのスキルが何の役にもたちませんよ。」
「カケルのスキルは空を飛ぶ能力って解釈でいいのか?」
「はい。わたくしのスキル飛翔は空中を飛び回ることの出来る能力です。速度は最大時速100キロまで出せるのですが、攻撃にはそこまで使えず移動手段としか使えてないのが現状です。」
確かにこの狭い空間の中では全くと言ってもいい程役に立たない。
八人の中では、今最も使えないスキルなのは明確だ。
町に帰ったら、こっそりカケルに空を飛びたいって頼んでみよっと。
「でも、空を飛べるなんて現実世界では味わえないんだから、なかなかレアな体験をしてるんじゃないか?」
「そうなんですけど…やっぱドカーン‼︎とやりたいじゃないですか‼︎ ……そういえば、さっきからずっと同じ所を歩いている気がするんですが。」
「そうか〜?最初からずっと真っ直ぐな道だから、そう思っちゃっただけなんじゃないか?」
八人は周りをキョロキョロと見渡した。
「いや、確かにさっきここを通りましたよ!だって壁に…ほら!さっきこれと同じ壁の傷を見ましたよ‼︎」
暗くてよく見えなかったが、よく見てみると壁に大きな傷がある。
何も考えずに歩いてた者とは違い、このダンジョンの恐ろしさをしっかりと覚悟していたカケルだからこそ、細かい事に気づく事が出来たのかもしれない。
「マル‼︎そこの壁を食べてみて下さい‼︎」
聞き捨てならない言葉にノゾム達は驚いた。
いくらマルがデ…じゃなくて食いしん坊だからといって、そんな失礼な事を言ってはいけない。
「お、おいカケル。流石にそれは失礼じゃないか?」
四人でカケルを止めに入る。
だが、次にマルが放った言葉の方が、何倍もビックリした。
「うん、分かった。食べちゃうね!」
四人は、こいつらは冗談で言ってるんじゃないかと疑うレベルで驚いた。
「いやいやマル君、流石に今のは怒ってもいいんだぞ〜」
「ううん、大丈夫!これが僕のスキルだから」
マルはそういうと、壁に向かって歯を立てて、ガリガリと食べ始めた。
まるで、怪獣映画を見ているようだった。
驚き過ぎて、感動すらする。
むしろ、その壁には味が有るのかとか、食感的にはどうなのかとか、気になってしまってすらいる。
そんな事を考えていると、恒例の解説タイムがやって来た。
「驚くのも無理は無い‼︎コレがマルのスキル暴飲暴食‼︎」
「「え?デブ⁈」」
スキル名を分かりやすく訳すと、デブ。大切なことだからもう一度言おう、デブだ!
そのスキル名はあまりに安易安直で単純、もはやスキルがマルに選ばれたのではなくマルがスキルに選ばれたとしか考えようが無い。
そのまんま、見たまんま過ぎて笑いすら起きない。
だが、当の本人はそれを誇らしげに壁をガリガリバリバリとかじっている。
「うん…かっこいいね!」
どんなに頭を捻っても、出てくる言葉はそれしか無かった。
ガリガリバリバリとかじられていった壁は、ついに向こう側へと通じる穴が開いた。
向こう側の通路へと出ると、先ほどの道とあまり変わったところは無いが、少し先に台座のような物が見える。
「さっきの道の仕掛けはよくは分からなかったが、取りあえず進む事が出来たので良かったとしよう」
「ところで、今回の目当てのお宝は、どんな物なんだ?」
今更な気もしたが、突然気になってしまったのだからしょうがない。
「今見せたように、マルのスキルは食べ物じゃ無い物も食べる事が出来るという能力ですが。マルがかじる事の出来ない程硬い物は、食べる事が出来ないのです。そこで、物の硬度を自由に変えられるアイテムが有ると聞き、このダンジョンに来たわけです。」
「へぇ〜、この世界にはスキルだけじゃなくて、アイテムなんて物も有るのか〜」
壁はギリギリかじれるんだな…
「それでは、次へ行きましょう!」
八人は、台座の方へ向かって歩いていった。
台座の上には文字が書いてあった。
「えーっと、なになに?ここから先、道が分岐、半分に分かれ、入り口に立て。」
前回の森の立て札もそうだが、この世界の文字は日本語で書かれていないにも関わらず、不思議と読む事が出来た。
「それじゃあ、それぞれ四人づつ分かれるか!」
それぞれ、ノゾムのチームとカケルのチームに分かれ、道の入り口に立つ。
すると、突然カケル達の足元が崩れて下の階に落ちていった。
やり方がゲスい!わざわざ二組みに分かれさせてから落とすとか、初見殺しもいいとこだ。
「カケルーーー‼︎大丈夫かーー‼︎」
下の方から小さな声で何か言ってるのが聞こえる。
おそらく、カケル達は無事なのだろう。
一応空も飛べるしな。
「よし‼︎取りあえず先を進もう!きっと、お宝の所で待ってるに違いない!」
特に何も起こらないまま、周りを気を付けながら歩いた。
途中、何度か道が分岐したが、何かが起こるという事は無かった。
しばらく歩くと、真っ暗な道の先に薄っすらと人のようなシルエットが見える。
敵かもしれないので、警戒しながらゆっくりと近付いてく。
「やぁ、やっと人に会えた‼︎これで、僕が死ぬ事は無くなったな」
金色でサラサラの髪を持つそのイケメンは、とてもフレンドリーに話しかけてきた。
「お一人ですか?」
「もちろん!僕は一人が好きだからね。君達は幸せ者だよ!僕という最高の幸運の持ち主と一緒に冒険出来るなんて‼︎君達が死なない限り、絶対にゴールまで導いてあげるよ」
イケメンがいまいち何を言ってるか分からないが、お宝の場所まで連れて行ってくれると言うので、とりあえずついて行く事にした。
イケメンは、薄っすらと怪しげに笑い、道を進み始める。
ーー 優しいイケメンほど怪しい奴は居ない。




