第11話 真っ黒な壁の中
ダンジョンを目指し、八人はミント草原を歩いていた。
いや、正確には歩いているのは七人で、約一名筋肉マッチョだけは暑苦しく七人の周りをくるくると走り回っていた。
「なぁ、一つ聞いていいかカケル」
僕は、隣を歩いているカケルに質問する。
「はい。どうぞなんなりと」
相変わらず、礼儀正しいやつだ。
まるで執事みたいな喋り方をする。
「さっきから俺たちの周りをくるくる回っているのは何でなんだ?暑苦しくてたまらないんだが」
暑苦しいと言っても筋肉マッチョが走り回っているおかげで、それなりに風は来る。むしろそろそろ自分達の周りに竜巻でも出来るんじゃ無いかとすら思う。
「あぁ!それはですね!トムのスキルに関係してるんですよ」
「トムのスキルは走り回って風を起こす能力なのか?」
そんなスキルだとしたら、なかなか可哀想である。
「いえいえ、違います。トムのスキルはその日歩いた分だけ身体能力が上がるんですよ。その名も努力値」
トムは走りながらこっちを見てグッ‼︎っと親指をたててきた。
「歩いた分だけ上がるってどれくらい上がるんだ?」
「よくはわからないんですが、3キロぐらい歩くと石ころを握り潰せますね。」
またもや、トムがこちらを見ながら、実際に石を潰す様子を再現して見せた。
「でも、あのマッチョならスキル無しでも石くらいなら握り潰せそうだけどな」
カイが話しに茶々を入れる。
「けど、歩けば歩くだけ強くなるって事は、今はそうとう強くなっているんじゃ無いか?」
「いや、彼のスキルの継続時間はその日までで、次の日になるとリセットされてしまうんですよ」
「ほへぇ〜、スキルもしっかり調整されてるんだなー」
ノゾムはこの世界のバランスに少し感心した。
「他の仲間のスキルも教えてくれよ!」
カケルの説明はとても分かりやすいので、聞いてる僕としては助かる。
「そうですね〜、例えば彼女のスキルは使い方によっては結構使えますよ!」
「どんなスキルなんだ?」
また、カイが顔を乗り出して会話に割り込む。
「実際に試すのが一番分かりやすいですね」
カケルは少し考え
「では、カイさん」
「はい!」
「俺は女だ‼︎と言ってみて下さい」
カケルの意味不明な発言にカイは驚いている。
「おっ 俺は女だ…これでいいのか?」
「ダウトーーーーー‼︎」
クロの唐突な叫びが静かな草原に響き渡る。それに四人は驚き、一瞬体が飛び上がる。
「なんですの?急に大声を出さないでもらえるかしら!ビックリしたじゃ無いの‼︎」
あくびをしながら歩いていたノユラが、突然の大きな音に驚く。
「全くだぜ!どうしたんだよ急に…ってあれ?体が勝手に…うわぁ‼︎」
カイが突然奇妙な動きで踊りだした。
「何だよ‼︎これはーー!どうなってんだ⁈」
「それがクロのスキル、真偽です。嘘を付いた者にダウト‼︎と言うと、相手を1分間だけ操る事が出来るのです」
クロが不気味にフフフッと、笑みをこぼす。
「うわぁー!ちょっ!勝手に動かすなよ‼︎って、うわぁー‼︎」
カイが、コケるようにユリにのしかかり、両手が優しく胸を揉みしだく。
カイの顔が、この世界に来て一番の笑顔を見せた。
あれ?あいつ、願い叶ってね?
「ちょっと、何してんのよーー‼︎」
ユリの強烈な蹴りが、カイの腹部に直撃し、5メートル程吹っ飛んでいった。
「痛ってててて、しょうがないだろー‼︎操られてたんだから‼︎」
頭をさすりながら、カイは上半身を起こす。
「私の能力ならあなたを転ばした時にちょうど切れたわよ」
「えっ?クロさんっ‼︎⁉︎」
カイが恐る恐るユリの方を振り向くとそこには、見たことのある氷の剣がとんでもない数浮かんでいた。
「ちょっ⁉︎ユリ?待て、一旦落ち着こう。な?」
だが、カイの言葉は聞き入れられず。氷の剣が、カイに向かって躊躇なく降り注ぐ。
「痛ってぇぇーーーー‼︎」
さっきまでカイがいたところにはカイがおらず、代わりにカイそっくりの氷像が立っていた。
「どのスキルも強力だな」
僕はそれぞれの能力に関心した。
「そんな事は有りませんよ。先客達に比べればたいした事は有りません」
カケルの口から、初めて聞く言葉が出てきた。
「先客?」
「あ、そうでしたあなた達はこの世界に来たばっかりなんでしたね。説明しましょう‼︎先客とはこの世界に呼ばれた十人目までのことを言います。あの方達のスキルは僕たちのそれとは全く違いますよ」
カケルは、顔を引きつらせながら話しを続けた。
「わたくしたちも一度だけ会いましたが、アレは次元が違い過ぎます。空が光ったと思ったらいつの間にか町が丸々一つ消滅していました。残ったのはボコボコに空いたクレーターような跡だけ」
「一瞬で⁈」
ノゾムは驚いた、この世界の小さな町といっても、そんな簡単に、一人で消せる程小さくは無い。最初の町を探索した時だってひとまわりするのに二時間はかかった。現実世界にある、東京に無いのに東京とか付けちゃう遊園地と同じくらいには広かった。
それを一瞬でなんて、スキルの干渉範囲がとんでも無く広くないと出来ない芸当だ。
だが、一番恐ろしいのはそれが合わせて十人もいるという事だ。
「はい、正直何が起きているのか全く分かりませんでした。その人達はそれぞれチームを作り、散り散りに別れています。実際、バラバラになってもらって良かったですよ。もし、あんなのが集まっていたら…。 天変地異が起きていたらそれは、必ず先客が原因と言っても過言ではないでしょう」
息を切らしながら話しを終えた。
「そんなに凄いのがいるのか〜。でも、そんなに強くて、なおかつ最初っからいるのに何故未だにこの世界にいるんだ?」
「確かに…おかしいですね〜。何か理由が有るのかも知れませんね」
カケルは真剣に考え始め黙り込んでしまった。
「まぁ、とりあえず教えてくれてありがとう!」
「どういたしまして‼︎あっ!そろそろ見えて来ましたよ‼︎目的地が、いやダンジョンが‼︎」
ーーーそれは、お世辞にも立派とは言えない外見で、とても薄暗くどんよりとした風が入り口から足元にへばり付くように通っていく。だが、入り口の中は外からでは全く見えない程真っ黒で、風が吹いてこなければただの壁なんじゃないかと思ってしまう程暗い。
八人は改めて覚悟決めて、真っ黒な壁の中に足を踏み入れていく。