第10話 久しぶりの安眠
八人は町に着き、それぞれ宿に向かって別れた。
近くに宿があったのでとりあえず入ろうとすると、いつの間にかノユラがいなくなっていたことに気づく。
「あれっ?なぁノゾムー、ノユラの姿が見当たらないんだけど。」
「本当だ。さっきまで一緒にいたのにな〜」
三人は辺りをキョロキョロと見渡した。
「小っちゃいからこの人混みじゃ何処にいるか分かんねーなー」
カイがふざけた口調で言った。
「ねぇ、あそこにいるのノユラじゃない?」
「え?何処にいんの?あっ、本当だ。何であんな所にいるんだ?」
ノユラは、明らかに自分達が目の前にしている宿とはレベルが違う、とても豪華なホテルの前にいた。
そして、こっちに向かって見下すような顔をしながら手招きをした。
「おいおい、なんかすげー見下したような顔で手招きしてるぞ」
「ありゃ、下民を見る目だ。あいつ実は現実世界でも金持ちなんじゃないだろうなー」
「とりあえず行ってみるか」
三人はノユラについて行き、ホテルの中に入っていった。
「わぁ〜、めっちゃ綺麗じゃ〜ん」
「まったく、来るのが遅いですわよ!せっかく、このわたくしが立派なホテルに泊めてあげようというのに」
「本当に⁈いいの!」
三人は目を輝かせながら、今までの地面で寝ていた日々を思い返した。
横を見ればいつもそこに必ず君がいた。そう、雑草がな。
もしも、雑草アレルギーなら確実に悶え苦しむであろう、あの生い茂る一面緑のじゅうたんで。
「あー、ついにこの世界に来てちゃんとした所で寝れる時が来たか」
「長かったな…」
男二人で肩を抱き合ってなぐさめあった。
「ちなみに、ディナーはバイキングですわよ」
「なにぃーー‼︎」
カイとノゾムは喜びで涙が止まらない。
「ちなみに、朝の方は…」
恐る恐る聞いてみる
「もちろんありますわよ」
「「うおーー‼︎こんな贅沢があっていいのかーーー!」」
二人は泣きながら、まるで神を崇めるかのようにノユラ拝んだ。
「これだから貧乏人は…さぁ、早く部屋に行きますわよ」
少しばかり照れながら足早に部屋へと案内した。
「楽しみだなぁー」
部屋に着き扉を豪快に開ける。
「さぁ、ここがわたくし達の部屋ですわよ!」
「「うおぉー、めっちゃ広ーい‼︎」」
無駄に広いスペース、そして洗礼された家具がきちんと配置されていて、どう考えてもこれは高いなと見て分かる。
「ベッドもふかふかだー」
「キャー、お風呂もすっごい広いわー‼︎」
ユリも、キャーキャー言いながらはしゃいでいる。
「そんなに暴れると疲れますわよ!って、もう既に二人は寝てますの⁈」
ノゾムとカイはとても気持ちよさそうにぐっすりと眠っていた。
夢の中でノゾムは久しぶりに母の夢を見た。
いつもの家族揃っての穏やかな食事のシーンだった。
カレーに生姜焼き、もちろん豚汁も。どれもこれも母の作る料理の中で僕の大好物だったものだ。
そんなに経っていなのに何故かとても前のことのような気がするほど懐かしく、また、胸が苦しくなった。
ーーー次の日の朝
「何てこった‼︎もう朝じゃねーか!何で起こしてくれないんだよー」
「ふわぁ〜。どうしたんだカイ?パンナコッタがどうかしたのか〜」
まだ眠そうに目をこする
「パンナコッタじゃねーよ‼︎もう朝なんだよ!俺たちはディナーを食べ損ねてるんだよ‼︎」
よ!よ!よ!ってラップでもやってんのかこいつ。
「あ〜、うるさいなー。まだ朝飯があるだろう?昨日は疲れていたし、過ぎたことはしょうがない。二人も先に行っちまったみたいだし早く食べに行こうぜ」
食堂に着くと二人は既に食べ終わっていて、デザートタイムに入っていた。
「二人とも何で起こしてくれなかったんだよ‼︎」
「あ、パンナコッタだ」
どうでもいいことがつい声に出てしまい、一人で笑うのを抑えた。
まさかあるとは思わない。
「だってあなた達、凄い気持ちよさそうに寝てるんですもん。起こしたら悪いかな〜って」
「ディナー楽しみにしてたのに…てか、なんか二人とも髪濡れてね?」
二人の髪は少し濡れていて、ほんわりいい匂いがしてくる。
「朝風呂に入ってきたのよ。まさか、部屋に露天風呂が付いてるなんて思わなかったわー」
「聞いたかよノゾム‼︎お風呂だって⁈クッソーー‼︎すぐ近くで女子が風呂に入っていたのに、俺は何で寝ていたんだーー‼︎」
カイが、テーブルに頭を打ち付けながら後悔している。
さすがにこれは見るに堪えない。
「カイ、いいから飯取りに行こうぜ」
「ノゾム、何で今朝はそんなに気分が良さそうなんだ?」
カイは心底不思議そうに聞いた
「ちょっといい夢を見てな」
「いい夢ってまさか、いやらしい夢でも見たのか!」
バカやろう、変なこと言うから女性陣が睨みつけてくるじゃねーか。
「ちげーよ、まぁ秘密だ」
久しぶりに母さんの夢を見た何て言ったら雰囲気壊すだろうしな。
ノゾムは少し微笑みながら、カイを連れて料理を取りに行った。
ーーー四人は食事を終わらせ、町の入り口で待っているカケル達と合流した。
いつ見ても、個性豊かなメンツだ。
「昨夜はゆっくり出来ましたか?」
「あぁ‼︎最高にゆっくり出来たぜ!」
「では、行きますか‼︎」
「おぉーー‼︎」
八人はダンジョンに向かって元気よく歩き始めた。