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誰か
成長するにつれ、僕は人の感情が分かるようになりました。電話の概念も分かるようになりました。
なぜ、母はいつもこんな悲しい顔をしているんだろう。そうか。それは電話の向こうの「誰か」に虐められているからなんだ。また僕にとって「誰か」は、僕が大好きな母と話したいのに邪魔をする、母を奪ってしまう存在ともなりました。
ではその「誰か」とは誰なのか。幼い僕はこれが分かりませんでした。
幼い僕は、この「誰か」は、母以外の全ての人間だ。そう信じました。
時々帰ってくる父も(そもそもこの時は父を父とすら認識していなかったけど。)、お菓子をくれるお婆さんも、近所の家の子も、全員「誰か」。
この頃から僕は、母以外の人に対して敵対心を剥き出しにし、暴力的になって行きます。