第一章・日常の不快指数
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流石はバスケの強豪チームとして名の知れた高校とでも言ったところか。バスケ専用の体育館が用意されているのは勿論、コートに至っては三面もある。サブコートと呼ばれる三面コートのほかに、観戦向けのメインコートにも変わる仕様になっておりバスケットの環境としては申し分のない施設だ。
この体育館の空気が、まるで緊張の大波が広がってるようにみえるのは私だけじゃないはず。そんな大波の中に自分がいるという現実は何とも言いようもない戸惑いを作り、私は終始圧倒された。そこにあるのは、一切の甘えがない弱肉強食の世界。言うまでもなく、実力がないものは戦う権利さえなくなる─────いわばここはバスケの戦場だ。
「では、新しいマネージャー二人を紹介します。」
幸恵の彼氏である前島先輩が、副キャプテンだと事前に本人から聞かされていた。キャプテンは三年生、そして副キャプテンは三年生にもいる。三年生のキャプテンと副キャプテンが引退をすると、前島先輩がキャプテンを勤めることになってるのは既に決定事項だ。私達二人を紹介をしたのは、前島先輩。
「じゃ、二人とも前に出て。」
そう言われて、幸恵と二人で前に並んで立つ。先に自己紹介をしたのは幸恵だ。
「朝宮です。中学の時は、女子バスケ部のマネージャーをしてました。今回男子部のマネージャーは初めてなので、分からないことがあると思いますが、宜しくお願いします。」
ほんの少しだけざわついたのは、幸恵の外見を高く評価しただけじゃないと思う。挨拶後にアイコンタクトをしていた幸恵と前島先輩の姿に、きっと誰もが確信したんだと思う。これが、次期キャプテンになる"女"なのかと。明らかに残念そうに肩を落とす男子を見て、次に自己紹介をする私をなんとなく気落ちさせる。だって一応、私も"女"ですから・・・・。
「虹羅です。マネージャーは初めてなので、色々とご迷惑をかけると思いますが、宜しくお願い致します。」
私の自己紹介を聞いてた部員達が、今度は声を潜めて話しをする。微かに聞こえたのは、何て言った?と耳打ちする男子の会話だ。恐らく、私の苗字が珍しく何かを確認しているのだろう。大方予想はできるが、どういう漢字を書くのか、純粋に聞き間違いをする人が周りに確認をとってるとでもいったところか。そのざわつきは次第に大きくなり、キャプテンがその雰囲気を破壊するように罵声に似た言葉を投げる。
「じゃ、インターハイ予選も近いから早速練習を始めるぞッ! 皆も気を引き締めろッ────!」
軍曹バリのキャプテンの命令に、従順にハイッ!と応える部員。今にも敬礼しそうな勢いの部員もいるぐらい、軍隊バリのチームだ。スポ魂のこういう関係はあまり好きじゃない。規律を守ると言えば聞こえはいいが、単なる上下関係をハッキリさせるための後輩いびりにも見えてしまう私。歪んだ性格をしている私だから、そう感じても仕方ない。
「大江、二人を宜しくな。」
「はい、二人ともこっちにきて。」
キャプテンが声をかけた人物が、私達の目の前に歩み寄ってきた。ショートカットの彼女は、先輩マネージャーなんだろうか。私達は、彼女の後ろを小走りに歩きながらついていく。
「私はマネージャーをやってる二年の大江です。とりあえず、簡単に施設の案内をするからついてきて。」
見た目はカワイイ系の幸恵と同じ系統、でも性格はクール系で幸恵と違うなぁと思いながら大江先輩の話を聞いていた。テキパキと説明をする大江先輩の姿は、とても二年生とは思えないほど大人の女性に見える。
幸恵は中学の頃に女子バスケのマネージャーをしていたが、こんなテキパキとこなすようなタイプではなかった────と、言ったら本人には失礼なのだが…。何となく上の空の私に、一瞬キッと大江先輩に睨まれた気がしたので脳内散歩をやめた。
「二人とも、マネージャーだからと言って男子にチヤホヤされると思ったら大間違いよ。うちは強豪チームだから、甘えは一切ないからね。」
これは、幸恵に対して言ったのだろうか。大江先輩の幸恵をみる目に、どことなく威圧感を感じる。嫉妬とかでもない、何とも言えない─────そう、熱いものだ。今は、恋愛カテゴリーをシャッターアウトしろと言ってるみたいに思った。幸恵はどんな想いで聞いていたのだろうか。大江先輩が思う以上に、幸恵はバスケのマネージャーに誇りを持っており、何よりもバスケが大好きだ。だから、幸恵はマネージャーの仕事に甘えたりはしないと私は分かっている。
そんな幸恵をふと見ると、顔付きが全く違うのに私自身が驚いた。自己紹介直後に彼氏に見せた甘い顔の幸恵は、もうそこにはいない。もしかしたら、場違いなのは私の方かも?だって、マネージャーになった動機があまりにも不純だからだ。本当は女子バスケに入りたかった私。でも、強豪チームのバスケ部となると、家事などが疎かになってしまうのは目に見えてる。そんな理由で、体力が削られないであろうマネージャーならいいかなと、幸恵の誘いにのった私。
「とりあえず、虹羅さんは、スコアーの付け方を彼女に教わって下さい。ここまでで何か質問は? 」
「あ、いえ…今は…。」
「まっ、やってみないと分からないわよね。とりあえず、二人にはシューティングのリバウンドをとって選手に渡してあげて。早速コートに入ってもらうけど、良いかな? 」
「「はいッ!!」」
私達の威勢のいい返事に、大江先輩はニッコリと微笑んでくれた。思いも寄らない笑顔に、ちょっと戸惑ってしまう。悪い感じではない─────ただ、厳しい人だとは思った。そして、何よりもバスケに対する熱い想いがあるのはヒシヒシと伝わる。気が引き締まるような指示に、複雑な感情を持って幸恵と一緒にコートに立った。
コートの外からは新入部員なのかどうかは分からないが、ドリブルをしながら掛け声をしている。強豪チームにはよくあることだが、レギュラーと呼ばれるのは必ずしも最初の試合に出る5人を指すわけではない。強豪チームは予選での戦い方をよく熟知しており、スタメンも対戦相手によって変えてくるのがセオリー。戦術の中に、あえてベストメンバーを揃えないこともある。なのでベンチに入れるメンバー15人が、実質上のレギュラーみたいなものだ。
このチームはベンチ入り出来たものが、勝ち組と言えるだろう。つまり、今コートにいる人はレギュラーと呼ばれるメンバーと、予備メンバーと呼ばれる20人がコートにいるのだ。大江先輩が言ってたのは、この20名以外で残る部員は一年生以外ほとんどいないとのこと。つまり弱肉強食の世界で弾かれた先輩部員は、後に退部する人がほとんどらしい。
しかし、このコートの中に無数に広がる炎の塊はいったい何だろうか。上下関係がコート外では感じるものの、ここにはそんな事が微塵も感じないのだ。この戦場には、ヒエラルキーなるものは完全に崩壊している。先輩や後輩も関係ない。あるのは、ライバルという熱い炎だ。戦場の中では、獲物を見つけた猛獣のようにゴールネットに次々とボールが吸い込まれる。そして、パスから放たれる澄んだボールの音色が四方八方から聞こえ、私はこの音にどこか懐かしい気分で胸が締め付けられた。
こんな熾烈な戦場に残った幸恵の彼氏である前島先輩も凄いが、私の不快指数が高くなる橘先輩も凄い。ポジションは、恐らくスモールーフォワードといったところか。スモールフォワードとは、チーム内のエースと呼ばれるポジションであり、俗に点取りやとも言われている。身長が高い割に、ドライブインしてシュートを狙ったり、ハイポストでのシュートを狙ったりと多彩なシュートを次々と繰り出す彼。そんな光景に瞬きするのも忘れるほど、釘付けになった私。
「虹羅さんだっけ? ちょっといいかな? 」
肩をビクッと動かしたのは、サボってるのがバレて注意される思ったからだ。いや─────別にサボったわけではないけけど・・・・。ゆっくり後ろを振り返ると、キャプテンが手招きをして立っていた。何かやらかしたのかと、ヒヤヒヤしながらキャプテンの元に走る。
「何かしましたか? 」
「いや、そうじゃなくて。君、バスケの経験者だって? 」
「あっ、はい。」
「ならさ、ちょっと啓吾のシューティングを手伝ってくれないかな? 真ん中のコートを使っていいからさ、パスを頼むよ。」
それだけ言い残すと、キャプテンは彼の前に走り込み、コートの外にいるメンバーにも声をかけている。注意されなくて良かったと安堵に胸を撫で下ろした私だったが、素早くこの状況を頭の中で整理してみた。まずは彼の名前が啓吾だと認識する。次に、彼のシューティングを手伝うのが私だと認識した。──────つまり、別メニューに入る彼のサポート役?
「虹羅、悪いな。とりあえず、ローポストでシュートを決めるんでアシストしてくれねぇか? 」
頭の中で状況整理ができたところで不意打ちの呼びかけに、思わず心で悲鳴を上げてしまった。ん?と、怪訝そうに私の顔を覗き込む彼に、姿勢をわざとらしくピシッと整えてから質問する。
「普通にパスをすればいいんですか? 」
「ん、まぁ…走り込みしながら前に出るんでタイミング見てパスを出してもらうと有り難い。」
言いたいことが分かるだけに───────怖い。ディフェンスとして借り出された人数は二人。つまり、彼がインサンド付近(ゴール下のあたり)からディフェンスを一人交わして、もう一人いるディフェンスを背にパスを受けたいと言うことだろう。そして、振り向きざまにシュート。バスケの経験があるからこそ、余計な知識が邪魔になる。深く考え過ぎるのも、あまりこういった練習には良くない。
それにしても彼が言うタイミングとは、最後のマークがつききれてない状態でパスをもらいたいってことなのか?難易度の高いシューティング練習は、中学時代にもエースを使ってよくやっていたこと。大概、こういう練習にはパスの技術が高いポイントガードが手伝うことが多い。できるか─────私。
「宜しくお願いします。」
ディフェンスをやる選手に頭を深く下げ、私にも同じように深く頭を下げる。傲慢なイメージもあった彼とはかけ離れた低姿勢に、私は正直驚きを隠せなかった。
スタート地点に立つ彼。始まったと思ったら、もう既にディフェンスを一人交わしていた。速いと感じた私は、本能的に今だ!と思い強めのパスを出す。
次の瞬間、私はハッと息を飲んだ。彼の前だけに、得体の知らないシールドがあるとでもいうことなのか。彼のディフェンスをしていた部員は、手を出すこともしなかった。いや、出せなかったのか?こんなにも高く空中を舞って、かつ手本のような綺麗なシュートフォーム──────こんなの見たことがない。しかも、パスを受けてのシュート動作があまりにも早すぎてよく見えなかった。その上、高く放たれたボールが放物線を描いて、ゴールネットに吸い込まれるように入るではないか。
「おい、虹羅! 早くパスを出せ! 」
「あ、すみません。」
しばし呆然とした私が現実に戻り、彼にボールを出すタイミングを掴むことに集中する。何度も、何度も、同じような動作を繰り返しパスを出し続けた。しかし、なかなか彼に出すパスのタイミングが掴めない。癖がありすぎて、どうしてもテンポよく出せないのだ。
「楓、ワンテンポ早くパスをくれ。」
「はい。」
この時彼のポジションは、スモールフォワードだと確信した。マークがきつい中でも、フィジカル面が強く息が全く上がらない。ディフェンスをしていた助っ人のほうが、息が上がってるほどだ。フェイクしながらのシュートや、ダブルクラッチという空中でシュートフェイクを入れたりと技術がかなり高い。────こいつ、何者?
他を圧倒するような技術に、彼の弱点が何となく分かった気がした。そんな彼に、私はパスを出すタイミングを掴みかけていた。二人の呼吸が─────重なる。
ディフェンスをやっていた部員は、肩で息をするようになり疲労困憊した様子だ。そろそろ限界かと思ったら、変わりの助っ人がもう既に待機して瞬時に入れ替わる。すると、ピーっと笛が鳴る合図がしたので周囲を見渡すと、どうやら休憩に入るようだ。しかし、なぜか彼はストップしない。
「楓、次はハイボール頼むよ。」
「はい。」
一瞬だけ、静寂がコートに漂う。隣のコートで練習していた女子バスケも休憩をとっているらしく、中央のコートに響く音しか聞こえてこない。静寂になって気付いたことは、スウィシュと呼ばれるリングに全く触れないシュートを彼はしていた。これは、シューターとしては何とも心地よいシュートとして知られている。このシュートは、高度な技術とより正確なシュートが出来る人じゃないと難しい。彼は、間違いなく─────エースだ。
もう、時間の経過もどのくらい経ったのか分からない。それほど集中していたと言うことだろう。いつのまにか周りが練習再開しているのも気付いてなかった私。それにしてもこの人って持久力あるなと思いつつ、次第に自分の集中力が消えかけ始めたのを認識する。
「啓吾、10分休憩入れろ。」
「はい。皆さんお疲れ様でした。」
キャプテンから指示を受けた彼が、また深々と私達に頭を下げる。私も正直言って息が上がっていた。休憩をここままとりたい。だが、大江先輩と幸恵が汗で流れているコートをモップがけしている光景を目撃する。見なきゃ良かったと後悔しつつ、急いで彼女達の側に行こうとした。が、私の腕を誰かに取られて動きを封じ込まれてしまう。
「お前も、休憩だから。」
「え? でも、大江先輩に…」
「大丈夫。マネージャーには楓と休憩を一緒に取るって言ってある。とりあえず、俺についてこい。」
何だ、この俺様的な感じ。しかも、勝手に呼び捨てされてるし。あれ?そう言えば、さっきの練習の時も楓と呼んでたっけ?いや、ちょっと待てよ。そんな事より、何で私が彼の別メニューに参加したんだ?バスケの経験なら、レギュラー陣以外にも沢山いるのでは?
頭の中であれこれと忙しく考えてると、頬に締め付けられるような冷たさが押し付けられた。
「ンガッ!!! 」
「ぷっ、何だその変な声。」
「ちょっ! 先輩こそなんですかッ────! 」
「ほら、これでも飲め。」
渡されたスポーツドリンクは、私の知らない間に自販機で買ったものなのか?
「・・・・お金は鞄の中に」
「いいよ。練習に付き合ってくれたお礼。とりあえず、お前とちょっと話をしたかったんだよ。いい? 」
「はい? 」
お礼言ってないけどいいのかと完全に言うタイミングを逃し、思わず心の中で舌打ちする。こういうのは、日常のなかでも慣れてない。それに男子と二人きりって、いつ以来かな?───と一瞬、父の後ろ姿を思い出した。が、首を横に振り残像を打ち消す。
私達は体育館の裏口にあるベンチに、腰をかけて並んで座る。彼は、手に持っている水筒に口をつけてグビグビと音をたてながら、渇いた喉を潤していた。そんな彼の姿にドキッと大きく波を打ったのは、口元に残った雫を手で拭った姿が色っぽいと感じたわけではない。きっと、疲れて脈が乱れただけだ!
「さっきのアシストを受けて思ったんだけどさ、やっぱお前はマネージャーよりも、選手側だろ? 何でバスケをやめたんだ? 怪我とかしていてできないのか? 」
完全に不意打ちだった。ガッツリ目があっていきなり話かけられたら、誰だって多少は動揺するもんでしょう。あまつさえ、彼を色っぽいなどど色眼鏡で見た私自身にも動揺したし。いや、だからそれは疲れていたからであり、彼を異性だと意識したわけじゃない。
「楓、熱でもあるのか? 顔赤いぞ? 」
「いえ、運動で熱くなっただけです。」
ギャー近い、顔が近いよ──────!!!!!!って心で叫んでるのを必死に隠し、何事もなかったように答えた。こういう時に、自身のお家芸が発揮できるのは我ながら感心する。冷静な振りを装いつつ、話題の軌道修正をはかろうと質問をした。
「そういう先輩は何で私を知ってたんですか? どこかの試合で会ったことありましたっけ? 」
学食で初めてあった時に感じたモヤッとした気持ちを、思いっきりぶつけてみる良いタイミング。すると、彼は明後日の方向を見ながら話し出した。
「俺が中学3年の時の神奈川全中大会の時、決勝戦でポイントガードをしていたお前をみた。俺は小塚中学校だったけど、男子はお前のところの三ツ川中学校に負けたんだよな。その後に女子の決勝戦があったから、そのまま見た。あの試合でのお前は───────そうだな、誰よりも上手かった。」
「え? 負けた試合ですよ? ポイントガードである私が上手かったら優勝できてましたよ。」
「そうか? むしろ、あそこまで小塚に食らいついた試合って三ツ川だけだったし、お前がポイントガードしていた去年と一昨年は、随分小塚は手こずっていたよ? お前あってのようなチームじゃん。」
────ああ、言われたくなかった。お前あってのチームなんて一番聞きたくない。だから何なの?と言えればいいが、そんなことは絶対に言わない。会って間もない人に、心が開けるほど素直な性格じゃないし、こんな歪んだ性格がバスケに影響していたなんて絶対に言いたくない。だから素直になる変わりに、自分が話せる範囲で彼に言った。
「怪我とかじゃない。単純にハードワークな生活が嫌いになっただけ。それと疲れるのが元々嫌いなんです。」
嘘を言ったわけでない、単に本音を隠しただけだ。そんな私の言葉にため息を漏らしたのは彼。不本意な回答だったのか、それとも私に幻滅した?
風に揺られた木々が、ザワザワと音を立てると熱くなった耳元がジンジンと痛み出した。モヤッとした霧の中にいるような感覚が、次第に悪事をした気分になっていく自分。こんな状況に堪えられなくなりそうになった頃、彼が沈黙を破るようにタオルで汗を拭って立ち上がった。
「時間だ。行くぞ。」
明らかに不機嫌になってる彼を見て、私はその背中に向けてため息をつく。バスケをやるのも辞めるのも、個人の自由。他人にとやかく言われる筋合いはない。地面に頭を下げていた自分にも、勝手すぎる彼に対しても、怒りの沸点がじりじりと忍び寄ってきた。
「橘先輩、何か怒ってます? 」
「別に、怒ってないけど。なんでそう思った? 俺を怒らせるようなことをお前は言ったのか? 」
何かを"した"ではなく、"言った"のかと聞いてくるところが、私の不快指数をMAXにしてくれた。つまり、彼を怒らせるような事を言ったということでしょう?何が正解の答えだったの?
横柄な態度で歩く彼を見て、脳内にある血管の一部がブチッと切れた。──────ジョウダンジャナイ。
「橘先輩、一人だけ点を取ればいいって思ってませんか? 一人だけ上手くなればいいって思ってませんか? 貴方はこのチームの最大の強みでもあると同時に、最大の弱みでもある。私が対戦相手なら、貴方を真っ先に潰しますよ。私、貴方みたいな人を知ってるんです。チームを信頼してないからこそ、チームの誰よりも動く。どんなパス投げられても、あなたは全力で取りに行く。そんなエースを止めるのは、簡単ですよ。貴方─────試合では、誰よりも早くガス欠する。違いますか? 」
「お前、何を言ってるんだ? 」
「ああ、違ってたなら、ごめんなさい。ただ、貴方と私のバスケスタイルがあまりにも似ているから言ったまでです。私、仲間を信頼できないんです。それがバスケを捨てた理由だと答えたら、さっきは満足しました? 」
ただ、呆気にとられて立ちすくんで私を見つめる彼。怒りをぶつけたことに、爽快感さえ感じる私。調子づく私は、彼の横を通り過ぎトドメの言葉を吐き捨てた。
「私、土足でズカズカ入ってくる人って大嫌いなんです。すみません、生意気な後輩で。」
吐き捨てるような台詞の直後に、何でここまで自分が傷ついたのかも分からない。でも、こんなに正面からぶつかっていったのも初めてなのかもしれない。あれは中学三年の神奈川全中の決勝戦。高校生になっていた彼も見にきていたのだろうか?
仲間というのを初めて強く意識し、そして仲間というのを初めて─────絶望した決勝戦の日だった。




