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能ある虎は萌えをみる

のどかな昼下がりである。

今日の私は一味も二味も違う。

その証拠にムラの虎達のこちらを見る目の温さが半端ない。


私の首にはそこが定位置と言わんばかりに最近は更に自己主張の激しさを増した白と黒の婚約者ストラップ。そして頭上には、そこが己の縄張りと主張し、全身を使ってべったりと貼り付く黒と白の帽子ヴァル

見よ!このファンシーな我が装いを。

ネズミの国も真っ青である。ネコ科なだけに。


嘘である。


だから、「ああ、またか」みたいな目でこちらを見るのはやめてほしい。

何度でも言うが、私は乙女なのだ。


装うならもっと可愛く装いたい。いや、この2匹が可愛くないと言っているのではない。

この可愛い2匹をひっつけた()()()私に問題があるのだ。


ちょっと凹んだ瞬間、ふと視界の隅に引っかかったのは、お隣のさらにお隣の女の子。

アニラだ。ふと、脳内でクジャとヴァルとアニラを並べてみる。

その脳内の光景に、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。


何という黄金律!!


過去ぜんせの私が興奮の余り、激しく拳を突き出してゴーサインを出す。


まあ、とにかく落ち着け前世の私(わたし)。そんな勢いのまま近づけば、逃げられる事必至である。


私は心を落ち着け、なるべくゆっくりと彼女の元へ向かう。アニラはきょとんと首を傾げてこちらを見ている。その無垢な視線が痛い。


「アニラ」


私が声をかけるとアニラはびくりと体を震わせた。


コワクナイヨー、アヤシクナイヨー、と心の中で過去の私が怪しいポーズを取っているが、それには気が付かない事にした。


かさり、と近くの茂みで何かが動き、一瞬そちらに気がそれる。

虫が跳び立つ様を見て、視線を戻すと、何故か緊迫した空気が流れていた。


頭上のヴァルがアニラちゃんを警戒を込めて見つめていた。喉に食いつくクジャが唸りを小さく上げる。

アニラちゃんはそれに反応して身を伏せて本気の警戒態勢を取る。

刺激しないように近付き、親交を深めた3匹を並べて愛でる私の計画はどうやら最初から破たんしていたようである。


最大の誤算は人見知りの激しすぎるこの2匹である。大人のメス相手には大人しいのに何故同年代のメスに警戒するのか。


「クジャ、ヴァル」


このままではいけないと、私が呼びかけると二匹の警戒の気配がピタリと止む。


「私から降りてそこへ並べ」


首の1匹はうーうー唸り、駄々をこね、頭の1匹は私の頭に張り付いた四肢に力を籠める。


「そこへ並べ」


ぐるる・・・


私の不機嫌な唸りひとつで相変わらずの息のぴったり具合で素早く降り、しぶしぶ並ぶ。

白と黒のコントラスト、至福である・・・ではなく。


アニラが2匹から目線を外さないまま、私の陰に隠れると、こちらを見上げてきた。

もう、それだけでご飯3杯はいける・・・でもなく。


私は並ぶ2匹を見下ろした。


「何故、怖がらせるような真似をする」


「シャーナ!でもコイツが」

「だって、アニラが・・・」

「みゅう・・・」


2匹が何かを言い立てようとしたと同時にアニラが小さく鳴いた。

眼をうるうるさせ、こちらを見上げるアニラはチワワも裸足で逃げ出すに違いない。白と黒の可愛さ(せいぎ)すら凌駕する破壊力かわいさである。

私は正気を保てるぎりぎりまでそれを堪能し、並ぶ2匹に向き直った。


「怖がらせたのはこちらだ、アニラに謝れ」

「シャーナ、コイツだって・・・」

「しゃーな、あにらが」

「謝れ」


2匹は苦いものを飲み込んだ顔をしながら、アニラに向き直り、頭を下げた。


「ごめんなさい」

「ごめん」


根は素直な2匹である。


「私もすまなかった、ほんの挨拶のつもりで近付いたのだが」

「べ、べつに、シャーナがあやまるからゆるすんじゃないんだからね!」


私は再び雷に打たれたような衝撃を受けた。


下っ足らずのツンデレ、降臨。


それだけではない。

クジャとヴァル、それにアニラちゃんの配置がなんとも絶妙なのである。

黄金の三角形ゴールデントライアングルが完成した瞬間だった。


「では、詫びと言っては何だが、遊び相手になろう」

「ほんと!」


アニラちゃんの尻尾がぴょこんと跳ねた。

私はこちらの定位置に戻ろうとする2匹の背中をアニラちゃんに向けて押す。


「この2匹が」


そう言った瞬間、小さな3匹が固まった。


「どうした?」

「シャーナ、オレは」

「しゃーな、だって!」

「ありがとう!」


首をかしげて尋ねると、何かを言い出そうとした2匹を押しのけてアニラちゃんがキラキラした瞳で見上げてきた。


「さ、いくわよ!ふたりとも」

「しゃーな!」

「シャーナ!」


なおもこちらに縋ろうとする2匹をアニラちゃんは私の言質を盾にとり、最終的には有無を言わさず引き連れて歩き出した。その背中は将来有望な雌虎の鑑であった。


そして日が暮れ時に戻った2匹は私の家で元気にじゃれ合い続け、それぞれの母親達に咥えられ、泣きながら帰っていった。お互い、別れが辛くなるほど仲良くなったようで何よりである。

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