お見合い妨害大作戦2
サロンにて。
「…で?なにこのすごい面子は。」
半ば呆れ声でつぶやいたのはエリックさんだ。
昨日の妨害大宣言から一夜明けた翌日の深夜。仕事と調査を終えた騎士団の面々がサロンでお見合い妨害大作戦を練るために集まっていた。アレクは確かに騎士団長達に集合時間を伝えはしたが、伝えていないはずの面々がなぜか会議に集まっている。
そう、あの某王子殿下とか、あたかも自分が呼びつけてやったといわんばかりにど真ん中に陣取っている。
「アレク、早く始めろ。私は忙しいんだ。」
無駄は省けだの、私を納得できなければ即刻クビだのとのたまっていらっしゃるのは、エレーナの兄であり、今回の裏の首謀者でもあるシスコン王子殿下のユージン様だ。
呼んでもいないのに来て、早速仕切っている辺りはさすがというかなんというか。
そして、ユージン様の隣で優雅に紅茶を入れているのが、ユージン様の右腕であり筆頭事務次官のローレンだ。
表向きの雑務(ユージンの使いっぱしりとも言うが。)をこなすのがアレクなら、ローレンは裏工作を一手に率いている。中性的で優しげな顔立ちをしたこの人が、実は裏でトンデモないことまでやっているという事実を知るものは少ない。もちろん俺も詳しくは恐ろしくて聞くことはできていない。
「は、はい!それでは、俺が入手したお見合い相手の人物像についてです。」
キース・マクレガー (男・30)
185センチ62キロ、栗色の髪に切れ長の藍色の瞳、美丈夫
魔導大国ナレジェシカの3大魔導士の一人
好きな事:鍛錬、勉強
嫌いなもの:女(男色家の噂あり。本人は否定済み。)
ちなみに、クライブ様の学生時代の同期。
「へぇ、あの超堅物男で有名な、キース・マクレガーがお相手だったんだね。魔導の腕は一流だけど舞踏会やパーティでも貴婦人を避けまくってるから、男色家だって有名な彼でしょ。あれじゃあ女の扱いを心得るどころか、童て…イタッ!!ユリア、何するのさ!」
「あまりにもお下品なことを昼間から言おうとした痴れ者に仕置きしただけです。わたくしはキース殿ならエレーナのお相手に賛成ですわよ。まぁ、男性がお好きではないということがはっきりしたら、ですけど。」
センスの角でエリックの頭を叩き、黙らせたユリアは、賛成の意を示した。
「ほぅ、ユリア、貴様は賛成なのか。…クライブ、お前はキースについてどう思う?」
面白い事を見つけたような悪い顔をしたユージン様がクライブ様に問いかける。
「キース・マクレガーに関しては、非常に真面目な男という印象です。エレーナが望んでいるのならば、間違いない相手かと。」
全く表情を変えずにそう言ったクライブ様に対し、ユージン様はどうやら納得していないらしく、周りの気温がグッと下がった。
ユージンはエレーナがクライブを好きな事を知っている。そして己の使命とクライブの事を思いあきらめてしまっていることも。クライブも無意識だろうが、エレーナの事を大切に思っていることが分かる。だからこそ歯がゆくお思いになっているのだ。
「そうか…だが、私はエレーナに見合うと決めた男でなければ、今回のお見合いは私のすべての力を持ってぶち壊す。」
「…ところで、ユージン殿下はどうしてユリアの見合いに反対ですの?そもそも、お二人って面識がおありでしたの?」
「…それは、「ユージン様はエレーナ様の大ファンなんです!!!」
シ―――ン
アレクの微妙なフォローのせいで、またユージンの眉間のしわが増えている。心なしかローレンも笑いをこらえているように見えるのは気のせいか。
自分の失態に早くも後悔しつつ、だが作戦について話しを進める。
「ともかくですが、明日、なんとキース様が調査が終わるユリア様を晩餐会へ招待されています。そこでその招待状を手に入れて晩餐会潜入大作戦を決行したいと思います!」
高らかに宣言すると、それまで黙っていたローレンが懐から封筒を取り出した。
「ここに人数分の招待状をご用意しております。それぞれ偽名を使用しておりますので、ご注意ください。」
作戦の内容など知らないはずのローレンがあたかも知っていたかのように招待状を準備している。
…なんてことだ。
「さすがはローレン。それではお前たちの空間転移は私が行おう。この人数位一度ではこべるからな。」
「おっ、王族の魔法を直に見れるなんてラッキー♪早速衣装の準備でもしようかな。」
そういって今日の会議は終了した。色んな人間が出しゃばってきたが、本当に大丈夫なんだろうかと一抹の不安を覚えつつも、アレクも皆と同じく準備に取り掛かった。