ルルアラン
「あと、……少しだね」
朝日が上る前の時間。
一人の少女が呟いた。
霜のせいですこし湿っているベランダの手すりに手をついてまっすぐに空を見た。
その場所はサレスハリート公爵家の別邸。
別邸にもかかわらず広い敷地はさすが国随一といわれる公爵家である。名門中の名門のサレスハリート公爵家は優秀な魔法使いを何人も輩出している。
その別邸にはたった一人の少女が住んでいた。
使用人は本邸よりは少しだけ少ない。それでも少しだ。そして先鋭が揃っている。
そんなサレスハリート公爵家別邸にいる少女は『ルルアラン・ライデ・サレスハリート』。サレスハリート公爵家令嬢でもある。
この世界ではとても珍しい黒髪に黒に近い紫色の目の今年9歳を迎える少女である。ちなみに他の家族たちはみんな金髪に碧眼。いや、お婆様だけはとても綺麗な黒髪をしている。
家族は父、母、兄、姉、兄、お婆様、お爺様。
お婆様とお爺様以外はみんな王都にある本邸に住んでいる。
しかし、ルルアランだけはお婆様、お爺様と別邸にいる。
その理由は簡単である。
ルルアランが王都の本邸にいると危ないからである。
王都の本邸は怖い。なぜかルルアランが魔法を使えないと“思われている”のである。
別にルルアランは魔法が使えないわけではない。というか魔法はカンストしてもおかしくないほどの魔力とクオリティの高さである。
そう使えないわけではないのだがなぜか彼らは私のことを腫れ物を触るかのような扱いをする。
“彼”には理由がわかっているらしいけど。
まぁ何はともあれ魔法が使えるのは“彼”とルルアランの秘密である。
“彼”とはルルアランのなかにいるもう一人の自分。“彼”の名は日高 陽。地球と呼ばれる別世界の住人だった人間である。今はルルアランの中で自我をもちルルアランをサポートしたりいろいろしている。
ちなみに陽は天才だ。いろいろと知識をもらったりしてる。
そんな陽の考えは平凡に暮らしたいので明らかにめんどくさそうなとこにいたくないということらしい。なのでサレスハリート公爵家から出られて万々歳のようだ。
まだルルアランにはよくわからないけど陽にこういうのは任せておいたほうがいい気がした。
ひっそりとこの別邸に住んでいると毎日が平凡すぎて幸せだ。
お婆様やお爺様にいろいろと教えて頂いたり、この別邸にある図書館で本を読み漁ったり、陽に勉強を教わったり。
のんびりとした時間が心地いい。
この時間が永遠のモノならどれだけいいのかな……
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コンコンッ
ドアをノックする音が聞こえた。
これはお婆様かお爺様の合図。
部屋で魔法書を読んでいた時だった。
「どうぞ」
「失礼するわね」
凛とした美声が聞こえて入ってきた人物を見る。
そこには私と同じ黒髪に黒に近い紫色の目。
お婆様と呼ぶには若すぎる女性がたっていた。
今日は水色のワンピースにカーディガンを羽織っている。にっこりと太陽のような輝きの笑顔をしつつ部屋のソファに座った。
「ルル。もうすぐ定例会があるのよ」
あー定例会……。
そう言われればそういうのが毎年あったなぁ。
定例会とは毎年サレスハリート公爵家のパーティーだ。
私は全く出たことがないんだけど。
「ルル……あなたも今年はいかない?」
「え……」
今年もでない気満々だった。
「ストリークが今年は連れてこいって言うもんだからねぇ」
ストリーク・ア・サレスハリート
サレスハリート公爵家現当主であり私のお父様。
いつもは何も言わないというか逆に来ないことに賛成さえしている人がいきなり……何があったのだろうか………。