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ガヤガヤと、何やら人があちこちで話したり、物と物がぶつかったり、そういった聞き慣れない喧騒が聞こえてくる。
なんだ?と思い。目を開ける。
そこは、なんとも形容し難い石の世界だった。
いや、ハウステンボスといえばいいのだろうか。とにかく、石とレンガで、この街は作られていた。
その喧騒が聞こえる方へ目を向ければ、たくさんの人がいる。
建物の前でたむろし、買い物をしている人々。商品を宣伝する声。
通りをすれ違う人々。大きな荷物を持っていたり、軽装だったりする。
少し、遠くに馬が見える。人々はそれに、見向きもせずに自然な感じで通り過ぎて行く。
人々の姿をよく見てみれば、みな一様に単色の上着に単色のズボンを着ている。色こそ違うけれど、似たデザインの服を着ているように見える。
なんだここは。
明らかに、日本では見ることのできない風景。
新しい文化によって、一新された現代の地球では、退廃的過ぎて流行らないであろう服装。
往来の真ん中を闊歩する馬に対して、平然としている人々。
おかしい。絶対におかしい。
どこから、突っ込んでいいのかわからず、言葉を探していると、すっと、脇に何かが差し込まれた。突然の出来事に、全身の血が逆流したかのような、尋常じゃない衝動が全身を駆け巡った。
手だ。それは、人間の手だったのだ。その手が、あまりにも大きく感じたため、びっくりして身動きが取れなかったのだ。
うわっ!なんだ!?
と思ったのも束の間、なんの抵抗をする暇もなく、身体が地面から離れ、持ち上げられていた。
見る見るうちに、地面が遠ざかって行く。
そこで、自分はいま、犬になってしまっていることを思い出し、そして、ここから地面に落とされたらどうなるんだろう。と、ふと思ってしまった。
大丈夫か?いや、絶対にやばいだろう。
猫が高い木の幹から飛び降りる動画を見たことがあるが、それとは違うのだ。
犬はネコ科の動物ではないし、俺自身、この身体の扱いがよくわかっていない。高校の時に習っただけの柔道の受け身が取れると、少しも期待することもできない以上、俺の生き死には、この手の持ち主の気分次第なのだ。
俺は、恐怖に震えながら、自分の足元見ていることしかできなかった。
あ、籠の中にタオルを敷いて寝かせてくれていたんだな。と、心の中で呟いたのは、恐怖を紛らわす為だった。
それには、一定の効果があったが、今度は別のところから恐怖が襲ってきた。
突然、その人間が走り出したのだ
振り子のように左右に振れる身体。さらに、走った際に、その人の足が地面に着く度に上下に弾み、ずり落ちそうになる。
ちょっと、ちょっと!
もっと、しっかり支えてくれ!!
そんな、ことを思うが、ものすごい振動であるため、舌を噛みそうで口を開けられない。
地面から離れ、その人間の手しか、頼るものがない俺は、文字通り生きた心地がしなかった。この1メートルほどの高さから落とされてどうなるのか、この身体の持ち主である俺にも想像ができないのだ。地面に叩きつけられ怪我するかもしれないし、身体が本能?に従って平然と着地してくれるかもしれない。しかし、いろんな想像はできるが、何事もなく地面に降ろされるのに越したことはない。
懸案事項はそれだけではない。振動のせいで、視線がブレ、焦点が定まらないため、どこに連れて行かれているのか検討もつかないのだ。
ただ、何かの建物の中に入ったということだけは、かろうじてわかっただけだった。