死ぬ前の話
初投稿です。
転生物です。
作者の暇つぶしで書いているので、投稿は不定期になります。
がんばりますので感想など聞かせてくれたらうれしいです。
返答できるか分かりませんが…。
よろしくお願いします。
「先生、さようならー」
「さようなら。みんな気をつけて帰るんだぞ」
「はーい。じゃぁねー」
そういって、走り去って行く子供たちの背中を見送る。
俺は先生だ。小学校の。
夢もなく。ただ人にこき使われるのが嫌で公務員を目指し、気付いたときには教師になっていた。
だが、後悔はしていない。むしろ過去の自分に感謝しているくらいだ。俺はただ無気力に生きているだけだったが、今はすごく充実していて、毎日が本当に楽しい。
子供は無邪気で、何かいいことがあるとすぐに笑顔になる。俺はその笑顔に救われたのかもしれない。まぁ、それを子供たちに伝えるつもりはないが。
「さて、テストに丸を付けなくちゃな」
呟いて、教室の先生用の机から腰を上げる。
「あっ。先生いっちゃうのー?」
教室を出ようとして、1人の生徒が喋りかけてきた。
クラス1のやんちゃ坊主で、この子ほど汗が似合う子もいないだろう。
「おぉ。みんなのテストの採点をしなくちゃいけないからな」
そう返事すればものすごく残念そうな顔をする。
「えー。遊ぼうよー。サッカーしよーよー」
このやり取りはほとんど毎日している。珍しく仕事が残っていない日などは、遊んであげたりもするが、今日は仕事が残っていたため、遊んでやれない。
それに、学校の方針で、学校が終わったら速やかに家に帰り、遊ぶのであればそれからにしろ。とのことなので、遊び場が学校ではないのだ。
俺はたまたまアパートが子供たちの遊び場の公園の近くだったため、遊んでやる気にもなるのだが、そうでなければそんなことはしないだろう。
「また今度な。それよりお前、まだ宿題出していないじゃないか。居残りしたいか?それなら、テストの採点を後に回して、見てやるぞ」
「げっ。やなこった。へへん、今度出してやるよ!」
このやり取りもいつも通りだった。
だが、なぜか今日は、この態度が気になり、少し厳しめに指導する。
「宿題を忘れて威張るんじゃありません!」
「うぅ、ごめんなさい」
すると、少し反省したようにして、謝ってくる。
本当に、反省してるのか?と、ちょっと前科が、あり過ぎて信じられない部分もあるが、それは次の機会に回すことにする。
初犯ではないが、やりなさいと注意すれば、しっかりできる子なのだ。ただ、長続きしないだけで。
サッカーと同じくらい、宿題や勉強も真剣に取り組んでくれればいいのに、といつも思うが、だが、その欠点を補って余りある才能をこの子は持っている。
この子の将来に、思いを馳せながら、謝らせたままの、幸四郎くんに、声をかける。
「よしっ。次からは気をつけるんだぞ?それより友達がお前を待ってるぞ」
「あっ。そうだった。じゃ、また今度な、せんせー。また明日ー」
「はい。また明日」
その姿に、指導が少し甘かったか。と反省しつつ、その背中を見送った。
その子で教室に残っている子は最後だったようで、一気に教室が静かになった。
「よしっ。やっちゃいますか」
そして、俺は、職員室へと向かった。
幸い、仕事はテストの採点さえ終われば、後はあってないようなものばかりなので、終わった後にサッカーをしに、いつもの公園へ向かえるかもしれない。そう思って普段よりがんばって採点をした。
実際、仕事はすぐに終わった。そして、他の先生たちに帰ることを告げ、いつもの公園へ向かった。
そこで俺は、小さな命を救った。誰かに褒められたかったとか、そんな理由じゃない。ただ身体が勝手に動いたのだ。そして奇跡的に、守るべき命は守ることができた。だが、俺の命はそこで潰えてしまった。
俺は後悔はしていない。なんていったって、大切な教え子を守ることができたのだから。
享年二十五歳。交通事故。
1つの小さな命を救って、この世を去った。
人生は意外と呆気ないものだ。
死。それだけは、どんな人も同じで平等に訪れる。
高い所から落ちれば死ぬだろうし、息ができなくなっても死ぬ。そして、その死は突然、何の前触れも無く訪れる場合もあれば、そうでない場合もある。
俺の場合は前者だった。交通事故。ごくありふれた、何の変哲もなく、面白みのかけらもないものだった。
ただ、子供を救ったという、他人に言わせれば「当たり前」と、言われそうなことをしただけだ。
そう。決して誇れることではないが、当たり前なことをした結果がこのようなことになっただけなのだ。
後悔などするわけもない。後悔などしたら、自分の行いを否定することになってしまう…。
ただ、走馬灯のように浮かんで来る子どもたちの笑顔が、とても眩しくて、そして、将来を見届けることができなくなった自分が哀れで、惨めで、悔しくて、ただただ、何もできない自分が悔しくて、そして、1滴の涙が溢れた。
そして、何も感じなくなった。