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わんこと異世界  作者:
0章
1/6

死ぬ前の話

初投稿です。

転生物です。

作者の暇つぶしで書いているので、投稿は不定期になります。

がんばりますので感想など聞かせてくれたらうれしいです。

返答できるか分かりませんが…。

よろしくお願いします。

「先生、さようならー」

「さようなら。みんな気をつけて帰るんだぞ」

「はーい。じゃぁねー」


そういって、走り去って行く子供たちの背中を見送る。


俺は先生だ。小学校の。


夢もなく。ただ人にこき使われるのが嫌で公務員を目指し、気付いたときには教師になっていた。


だが、後悔はしていない。むしろ過去の自分に感謝しているくらいだ。俺はただ無気力に生きているだけだったが、今はすごく充実していて、毎日が本当に楽しい。

子供は無邪気で、何かいいことがあるとすぐに笑顔になる。俺はその笑顔に救われたのかもしれない。まぁ、それを子供たちに伝えるつもりはないが。


「さて、テストに丸を付けなくちゃな」


呟いて、教室の先生用の机から腰を上げる。


「あっ。先生いっちゃうのー?」


教室を出ようとして、1人の生徒が喋りかけてきた。

クラス1のやんちゃ坊主で、この子ほど汗が似合う子もいないだろう。


「おぉ。みんなのテストの採点をしなくちゃいけないからな」


そう返事すればものすごく残念そうな顔をする。


「えー。遊ぼうよー。サッカーしよーよー」


このやり取りはほとんど毎日している。珍しく仕事が残っていない日などは、遊んであげたりもするが、今日は仕事が残っていたため、遊んでやれない。

それに、学校の方針で、学校が終わったら速やかに家に帰り、遊ぶのであればそれからにしろ。とのことなので、遊び場が学校ではないのだ。

俺はたまたまアパートが子供たちの遊び場の公園の近くだったため、遊んでやる気にもなるのだが、そうでなければそんなことはしないだろう。


「また今度な。それよりお前、まだ宿題出していないじゃないか。居残りしたいか?それなら、テストの採点を後に回して、見てやるぞ」

「げっ。やなこった。へへん、今度出してやるよ!」


このやり取りもいつも通りだった。

だが、なぜか今日は、この態度が気になり、少し厳しめに指導する。


「宿題を忘れて威張るんじゃありません!」

「うぅ、ごめんなさい」


すると、少し反省したようにして、謝ってくる。

本当に、反省してるのか?と、ちょっと前科が、あり過ぎて信じられない部分もあるが、それは次の機会に回すことにする。

初犯ではないが、やりなさいと注意すれば、しっかりできる子なのだ。ただ、長続きしないだけで。

サッカーと同じくらい、宿題や勉強も真剣に取り組んでくれればいいのに、といつも思うが、だが、その欠点を補って余りある才能をこの子は持っている。

この子の将来に、思いを馳せながら、謝らせたままの、幸四郎くんに、声をかける。


「よしっ。次からは気をつけるんだぞ?それより友達がお前を待ってるぞ」

「あっ。そうだった。じゃ、また今度な、せんせー。また明日ー」

「はい。また明日」


その姿に、指導が少し甘かったか。と反省しつつ、その背中を見送った。

その子で教室に残っている子は最後だったようで、一気に教室が静かになった。


「よしっ。やっちゃいますか」


そして、俺は、職員室へと向かった。

幸い、仕事はテストの採点さえ終われば、後はあってないようなものばかりなので、終わった後にサッカーをしに、いつもの公園へ向かえるかもしれない。そう思って普段よりがんばって採点をした。

実際、仕事はすぐに終わった。そして、他の先生たちに帰ることを告げ、いつもの公園へ向かった。


そこで俺は、小さな命を救った。誰かに褒められたかったとか、そんな理由じゃない。ただ身体が勝手に動いたのだ。そして奇跡的に、守るべき命は守ることができた。だが、俺の命はそこで潰えてしまった。

俺は後悔はしていない。なんていったって、大切な教え子を守ることができたのだから。

享年二十五歳。交通事故。

1つの小さな命を救って、この世を去った。


人生は意外と呆気ないものだ。


死。それだけは、どんな人も同じで平等に訪れる。


高い所から落ちれば死ぬだろうし、息ができなくなっても死ぬ。そして、その死は突然、何の前触れも無く訪れる場合もあれば、そうでない場合もある。

俺の場合は前者だった。交通事故。ごくありふれた、何の変哲もなく、面白みのかけらもないものだった。


ただ、子供を救ったという、他人に言わせれば「当たり前」と、言われそうなことをしただけだ。

そう。決して誇れることではないが、当たり前なことをした結果がこのようなことになっただけなのだ。

後悔などするわけもない。後悔などしたら、自分の行いを否定することになってしまう…。


ただ、走馬灯のように浮かんで来る子どもたちの笑顔が、とても眩しくて、そして、将来を見届けることができなくなった自分が哀れで、惨めで、悔しくて、ただただ、何もできない自分が悔しくて、そして、1滴の涙が溢れた。

そして、何も感じなくなった。

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