第一話:妄想女、恋をする
こんにちは、中山拓也です。
ジングルベェル、ジングルベェル、鈴がぁ鳴るぅ。
吹雪だわ…。ふふ、ホワイトクリスマス。
へっ?寒い。ならギュウってしてあげる。
暖かい?やだぁ、もう。
部屋の中、レコード大賞を見ながら、美少年の顔写真が貼ってある抱き枕で妄想デートをしまくってます。
そんな私の事を、人は負け犬と呼ぶ。
私の名は、仰木香奈。昨日で三十路に突入している。
今日は大晦日。部屋は散らかっている。明日が正月だなんてもう感じられない。
私はクリスマスもお正月も無い。
ふふふ。やばぁい。ベタ惚れだぁ。
私がもう行きつけとなっているコンビニに入っている新米のアルバイトくんが凄い可愛いの。
「お弁当チンしますか?」
だぁって。
チンとか。もう死んじゃいますね。私のハートがチンとしちゃぃますよ。
いやよいやよ。いやよチンしちゃいゃぁん。ハニーフラッシュ。みたいな感じだわ。
潤んだ目で『ギュウして』とか言われたら沸騰よ。沸騰。
よし、妄想デートするか。
私は妄想で現実から遠ざかる。だって、三十路で未だに結婚もデートも出来ず、合コンにも誘われない。そして漫画家という私に、彼氏なんか出来るはずもない。
そんな状態で、現実に立ち向かうなんてできない。
発売した短編集は、口コミで広がり、100万部を発行。来秋にはアニメ化する。
夢の印税生活なんだけど。
恋愛では、私は完璧に落ちこぼれだ。
ビールをグラスに注ぐ。
シュワシュワとグラス内で暴れる泡と、すぐ散る泡がある。
私はすぐ散る泡。存在さえも認めてもらえないまま、散る。まるで、私の人生の全てを悟った感じだ。