第一話 人造エルフ
第一入殖船団のオタク船長が遺した聖書、『ナーロッパ創世記』には、こう記されている。
『神はこの世界に高貴なる人を送り込んだ。この世界の愚かなる小人『ゴブリン』たちを導くためである』
『神は仰せられた。『ファンタジー世界にはエルフがいるべきだ』と。ゆえに神は高貴なる人と下賤なるゴブリンを交わらせ、森の乙女を賜った』
——その結果生まれたのが、私です。
品種改良の賜物というやつです。
耳が尖った美女。異様に感覚が鋭い精霊使い。
そういった役割が私には与えられております。
「……風が、泣いていますわ。
北西へ300キロほど進んだ先にて、嵐の気配。
これまでにない規模。
秒速100mでこちらへ向かってきています」
そう呟くと、傍らに立つ『船長』5世のサトウ=ナローシュが目をキラキラ輝かせます。
「おお……!さっそく対応するとしよう!
ありがとう、ナロイーナ!」
手帳に何かを書き留めて、ナローシュは他の者たちに指示を飛ばし始めました。
……正確には、領地の北西3キロ地点にあるテラフォーミング用気象制御衛星の第4基地局から、ただならぬノイズが聞こえてきているのです。
この星は磁気が強いから、遠距離通信が難しい、と以前教わりました。
それを補うのが私たちのこの感覚器官というわけです。
「『錬金術師』『鍛冶屋』たちよ!すぐさまこちら側の防備を固めるのだ!」
騒ぎ立てて走り去っていく船長の背中を見送り、私は長くて尖った自分の耳に耳栓をはめなおしながら、はぁと重い溜息をつきました。
私は、人類の身勝手な交配実験によって生まれた人工種族「エルフ」です。
見た目こそ、聖書に記される理想通り「背が高く、細身で、耳が尖った美女」として奇跡的に出力されておりますが、内臓はデリケートで病に罹りやすく、重い農機具を持てば速攻で腰をやってしまう種族です。
先住民のゴブリンのように野でたくましく生きることもできません。
体力仕事特化として『改良』されたドワーフのようにタフでもありません。
長所はこの異常に鋭敏な聴覚くらいです。
「ナロイーナ」
「!」
小さな声で呼ばれ、私は門扉ぎりぎりのところまで駆けました。
「ゴブリス!こんな所まで……危ないですよ」
「別にこれくらい平気だって」
私の危惧をゴブリスは笑い飛ばします。
鳥の背中に乗ってやってきたゴブリスが、小さな花を私に落としてくれました。
「これ、あんたに似合うと思ったからよ」
「……ありがとうございます」
微笑むと、ゴブリスは笑ってまた飛び立ちました。
私はかれこれ数年、彼の『侵入未遂』を見逃し続けています。




