物語の強制力が!軌道修正してきます!?
最小限の努力でなんとか破滅を回避したい!
悪役令嬢に生まれ変わったらきっとだいたい
大部分の人が考えると信じてる。
婚約回避をお試しすると
「ん~!いい天気ですわ~!」
起きて朝一、子供には重たすぎる両開きの窓を開け放って、朝の気持ちの良い空気を肺に吸い込んだ瞬間、私は前世を思い出した。
私は、「異世界に落ちちゃったけど私が聖女ってほんとうですか!?~天然聖女と5人の貴公子~」という異世界転移ラブコメの悪役令嬢、クラリッサ・フォン・アルストリアに転生していた。
前世はどこにでもいる平凡な…微妙にヲタクをかじった社会人。
異世界転生ものは大好きだったが、まさか「つっこみどころしかない~!」と大笑いしながら読んでいた物語の世界に自分が悪役として放り込まれるとは。
というか朝の気持ちの良い空気でなんでそんなものを思い出すんだ。台無しだ。
とりあえず、物語のあらすじは単純だ。現代日本から転移した女子高生が聖女として覚醒し、学園で出会った第二王子や上位貴族の令息達と恋に落ち、悪役である第二王子の婚約者で公爵令嬢の私が聖女をいじめ、最終的に公爵家もろとも破滅して王子と聖女は結婚!令息達も聖女に永遠の忠誠を誓ってハッピーエンド――というもの。
いや逆ハーレムとかどう考えても現実的じゃないじゃん。
小説にしたってあんなにつっこみどころしかなくて笑って読む内容だったのに…!
それが、現実!?ないないないない。
お父様もお母様もお兄様も!私の大事な家族が私もろとも破滅なんて!
大きくなったら義理であるお兄様のお嫁さんになっていつまでもこの家に居るつもりだったのに!
ぜっっったいに嫌!
「…一番のリスクヘッジは、そもそも王子の婚約者にならないことだわ!」
私はそう結論づけた。
ちょうど数日後、私の運命を決める「第二王子婚約者選定パーティー」が迫っていた。原作ではここでクラリッサが華麗に振る舞い、見事(?)婚約者の座を射止める。
公爵令嬢で王子と年も近いとなれば問答無用で婚約者になりそうなものだが我が国には4大公爵家が存在し、そのうち3家に同じ年のご令嬢が存在するのだ。
私が出なければ他の2人のどちらかになるだろう。
嫌な役回りを押し付ける事になるが、正直あの2人なら罪悪感も湧かない…
先日のお茶会での2人を思い浮かべて誰にともなく頷く。
「…仮病一択ね」
そうして私は見事仮病でパーティー回避を成し遂げたのだ。
***********
ところが、一週間後。
「クラリッサ。君が第二王子ルシアス様の婚約者に内定した」
父の朗報(?)に、私は紅茶のカップを落としそうになった。
「…え? でも、私はパーティーに出席していませんが!?」
「そうだね…でも殿下たってのご希望でね」
複雑そうな表情の父に、何かがあるのは察しだが一体どういう事なのだろうか…
他の2人はちゃんとパーティーに出ていたという情報も掴んでいる。
もやもやした気持ちを抱えたまま、私はその後の話もそこそこに部屋へと戻ると頭を抱えた。
「これが…物語の!強制力というやつなの…!?」
選択肢が私しか無いわけでもなく、選定の場にも行っていないのに内定…
そんな!馬鹿な!
もしこれが「強制力」なのだとしたら、これから先私は
好みでもない殿下の為に面倒な王子妃教育に耐え、現代日本からくる聖女とその取り巻きどものどうでも良い茶番劇を散々見せられたあげくに聖女への嫌がらせを理由に追放になるのだ。
「百歩譲ってクソでは…?」
つい前世のくせで口調が荒れてしまうのは許していただきたい。
絶望感しか無い中、見上げた空はすでに日が暮れかかって鮮やかな夕焼けだった。
残された道は…なんとか強制力をぶっちぎって、学園生活スタート前での婚約解消しかない。
内定、あくまでも内定だと言っていた。
今はその言葉にすがるしか無い。
まだ諦めるには早い!
お父様!お母様!お兄様!私がんばります!!
***********
意気込んで臨んだ初の顔合わせはその3日後になった。
記憶の朧気な小さい頃に何度か来ただけの王城は久しぶりに登城すると圧倒される大きさと広さだった。
緊張する中、案内の侍女に連れられて進むと途中で警備の為らしい騎士が両脇に立っている。
思わず立ち止まりそうになるが前を行く侍女は立ち止まる様子も無いし、騎士も微動だにしない。
ここから先は、もしかしなくても王族の居住区というやつではないか…
戦々恐々とする中辿り着いたのは色とりどりの花の咲き誇る手入れの行き届いた庭園の中央部に建つガゼボだった。
そこに先に座っている人物が視界に入ると私は、目を疑った。
お会いした事の無い第二王子殿下の情報と言えば物語の文字で見た王譲りの銀髪に、グレーがかった碧い瞳の美丈夫と…
美…
「つまり……全て最初から計画されていたということですか?」
王族に向かって挨拶もせずにこの発言は不敬どころでは無い。
頭のどこかで分かってはいるのに止められずに私は震える声で尋ねてしまった。
目の前でお兄様――いえ、「第二王子殿下」は優雅な笑みを浮かべながら紅茶を一口口にする。
その所作一つ取っても完璧な王子様然としていて、私が知っている「おっとりして優しいけど少し抜けている義兄」の姿とはまったく違う。
「この結果が決まったのは『あの日』からかな。君が仮病を使った瞬間に動いたよ」
そう言って彼はカップをソーサーへと戻すと、ゆっくりと立ち上がって私の方へと足を進め、席へ座るのを促す様に横へ立って椅子の背もたれに手をかけつつ私の方に顔を近づける。
その瞳には今までお兄様には1度たりとも感じた事の無い計算高さが宿っている様な気がして背筋が震える。
「あの…日」
言葉が浮かばずにオウム返しの様に口にする私に、「そう」と再び王子様然とした笑みを浮かべてお兄様が続ける。
「君が、仮病なんて使わなければ、まだこれまで通りに君のやさしい義兄でいられたのに」
「そんな…」
呆然とする私を席に座らせてその両肩に後ろから手を置くお兄様に
義兄様――いや、第二王子殿下が、恐らく政権争いか何かの事情で王妃殿下から身を守るために偽名を使い、そして後ろ盾として私の家族との縁戚関係を利用するためにわざわざ我が家に入ってきた?
お兄様は確か叔父様の家の…成程、元々うちの両親もグルな訳ですね。
それはそうか…お兄様だって我が家に来られた時はまだ5才だったのだから…
それにしたって!原作にそんな設定は無かったわ!
第二王子がなかなか表舞台に出て来ないなんて事も無かったしちゃんとパーティーで婚約者を選んでいたし、何よりお兄様とは全くの別人だった!
物語で悪役令嬢の義兄は…必死で思い出そうとするがろくなエピソードが浮かばない。
そう、つまり空気。完全なるモブ。
「まぁ、どちらにしろ元々クラリッサが僕の婚約者になるのは決定事項だったけれどね」
私の顔を覗き込む様に傾けられたお顔の綺麗な笑みと共に、ネタ晴らしの様にからくりを教えてくださったお兄様によるとこういうことだ。
そもそもは第一王子が実は王妃の不貞のもとに生まれた王の血を引かない王子だった事に端を発するらしい。
初っ端から国の未来に関わる衝撃の事実過ぎる。
王妃は国王にばれているとは思ってはいないが、側妃が第二王子であるお兄様を生むと万が一不貞ばれた際に第二王子の存在を理由に自分の子供共々切り捨てられると思ったそうで、側妃様とお兄様の命を執拗に狙ったらしい。
国王様は実はもう王妃の不貞は知っていたし、頃合いを見て第一王子は引かせて第二王子を立太子させる気ではあったもののそれまで第二王子の命があるかが怪しくなってしまった。
隣国の王女であった王妃の実家と我が国の一侯爵家の娘であった側妃の実家の力関係はそれはもうしっかりはっきりしている。
隣国との国力差もそこまで大きくは無いとはいえ、僅差とも言い難いレベルで向こうが上で、王妃が嫁ぐ事も条件として近年和平が結ばれたばかりで波風を立てるにしても時期も悪い。
そこで国王は学園卒業の年までは第二王子を影武者に入れ替える事を決めた。
影武者は先々代に王女が降嫁した公爵家の血筋の中から第二王子に似た容姿の者を選んで準備がなされた。
私から見て叔父様の伯爵家の三男さんらしい。
第二王子はどこかの家の貴族子息として育つ事となったのだが…
お兄様は5才の時に私をお嫁に貰う事を決めたそうだ。
そして国王に猛然とアピールをした。…と本人がおっしゃっている。
結果。
身の安全の為にも独自の騎士団を抱える公爵家で過ごすのは良いと判断されて遠縁との事で私の義兄に収まる事となった。
学園卒業のタイミングで上層部の面々への事情の周知と共に王妃と第一王子の表向き病気療養という蟄居と第二王子に戻っての立太子が行われる流れだ。
影武者はそれまでの功績の褒賞も兼ねて義兄として公爵家を継いでで不自由無い暮らしが約束されていたそうだ。
お父様も子供が私しか居ないのでどちらにしろ叔父様のところの兄弟から私のお婿さんを迎えて継がせるつもりだったのもあり了承した。と。
目と髪の色はお兄様も影武者も魔法具らしい。
えええ~!?原作は~!?物語の強制力は~!?
原作は影武者が暴走したりしたんですか!?
そんな裏話!どこにも出てなかったじゃないですか!
「わた…しがパーティーに出ていたら?」
「出ていたら、とりあえず形だけ婚約だけ取り付けておいて卒業まではクラリッサの兄という立場を楽しもうかなと思っていたんだよね。ほら、婚約者とはいえ城で暮らして貰う訳にもいかないだろうから一緒に暮らせる立場を譲りたくなかったしね」
なるほどね~ってなるか!!
え!?お兄様!?お兄様いつから私の事をそんな風に…
と脳内で考えてから過去のあれこれが浮かんで来て
思い返したら、まぁ、重度のシスコンだなと思っていた全てがそういう事ですよね。
「それなのにクラリッサが仮病なんて使うから。ちょっと前倒しで王妃と第一王子には表舞台から去って貰って城に迎える準備もしたんだよ?」
お…お兄様ー!!
なんかごめん王妃と第一王子…いや別にごめんでもないか。
「これで今日からこっちで一緒に暮らせるね?」
ん?
んんん?
「今日…から?」
「そう、今日から」
終始上機嫌そうに美しい笑みを浮かべたままのお兄様がいっそ恐ろしい。
自分が悪役令嬢の世界に転生してしまって、断罪回避に奮闘したのに
物語の強制力で回避出来なかった!と嘆いてみたけど
強制力ではなかったらしい。
とりあえず私はこれからも大好きなお兄様と一緒らしい。
「よろしくお願いします。お兄様」
「お兄様じゃなくて、レオン。…呼んでみて?」
何故かずっと席にも戻らず私の脇に立ったままだったお兄様…もとい第二王子殿下が、耳元に顔を寄せて囁く様におっしゃる。
「…っ!!??」
刺激が!
強過ぎますおにい…さま!!
艶のあるお声にもう、自分の顔がゆでだこの様に真っ赤になっている確信がある。
「レ…レオン…っさま!」
息も絶え絶えに名前を呼ぶ私に、クスリと笑う息の様な音が届く。
「今は、それで我慢してあげる。これから追々ね?」
本当に、上機嫌そうなお兄様と晴れ渡った空と手入れの行き届いた庭園に
強制力が無くて良かったとしみじみと…
思っていていいのかしら!!??
強制力じゃなかったけど
何一つ回避出来てなかった




