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「書いてあることと、書いてないこと」

昼下がり。

寺のWiFiは快調。

しゃみは、ルータの上でタブレットを開いていた。


画面には、

天下与太郎のブログ記事。


タイトルは、少し強い。


「世界はすでに次元転換している」

「覚醒できない人の共通点」

そんな言葉が並んでいる。


「……」


しゃみは、

すぐに読み進めなかった。


まず、

スクロールだけする。


文章の量。

改行の間。

言葉の温度。


「……師匠、

 今日も元気に断言してるにゃむね」


しゃみは、

悪口でも皮肉でもなく、

事実として呟いた。


読み始める。


「多くの人は、

自分が見ている世界の位置に

気づいていない」


「位置の転換が起きない限り、

次の次元には進めない」


言葉は鋭い。

切れ味がある。


でも、

しゃみは眉をひそめた。


「……」


「これ、

 “分かる人だけ分かれ”

 って顔してるにゃむ」


しゃみは、

一行戻って、もう一度読む。


「これは選別ではない。

気づいた人から進むだけだ」


「……同じにゃむ」


しゃみは、

一度画面を閉じた。


外を見る。


縁側では、

与太郎が何も考えていない顔で

コーヒーを飲んでいる。


ブログの中の与太郎より、

ずっと静かだ。


しゃみは、

もう一度記事を開いた。


今度は、

書いていない部分を読む。


断言の裏にある迷い


強い言葉の裏にある恐れ


誰かを置いていきたくない気持ち


「……」


「師匠、

 これ、

 自分に言ってるにゃむね」


しゃみは、

そっと呟いた。


最後まで読み終えた。


拍手もしない。

シェアもしない。


代わりに、

コメント欄を開く。


賞賛。

反発。

誤解。

信仰。


しゃみは、

少しだけ肩をすくめた。


「……重たくなるにゃむ」


そのまま、

縁側へ降りる。


「師匠」


「ん?」


与太郎は、

記事の話をされると思っていない顔。


「ブログ、読んだにゃむ」


「……どうだった」


しゃみは、

少し考えてから答えた。


「師匠が書いてる時、

 ちょっと一人だったの分かったにゃむ」


与太郎は、

一瞬だけ目を逸らした。


「……」


「悪くはないにゃむ」


「褒めてるのか」


「褒めてないにゃむ」


「じゃあ?」


「心配してるにゃむ」


沈黙。


風が吹く。


「師匠、

 これ、

 書いてる時に

 隣に誰も座ってなかったにゃむね」


与太郎は、

ゆっくり息を吐いた。


「……ああ」


「それが、

 文章を強くしてるにゃむ」


「……」


「でも」


しゃみは、

与太郎の横に座る。


距離は、いつも通り。


「隣に座れる日もあるにゃむ」


与太郎は、

何も言わなかった。


否定も、説明も、しない。


しゃみは、

最後に一言だけ言った。


「師匠」


「なんだ」


「次は、

 もうちょっと弱いタイトルでもいいにゃむ」


与太郎は、

小さく笑った。


「……検討する」


その夜。


ブログは更新されなかった。


代わりに、

与太郎のノートに一行だけ増えた。


「強い言葉は、

一人で書くと尖る」


しゃみは、

ルータの上に戻り、

R&Bを小さく流した。


「今日は、

 読んだだけで十分にゃむ」


おわり

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