「369歳のしゃみは、答えを持たない」
その頃、
しゃみは369歳になっていた。
正確には、
年齢を数えるのをやめてから
だいぶ経っていた。
見た目は変わらない。
相変わらず、
どこかのWiFiルータの上。
ただし場所は、
もう一つではなかった。
寺の屋根裏
誰かの寝室
深夜のカフェ
回線の向こう側
接続されている場所すべてが、
しゃみの居場所だった。
「……」
369歳のしゃみは、
もう名言をあまり言わない。
言葉が、
人を縛ることを
知りすぎてしまったから。
それでも、
誰かが呼ぶと
ちゃんと来る。
呼び方は、昔と同じ。
「しゃみ」
ある夜、
若い誰かが聞いた。
「どうすれば、
正しく生きられますか」
しゃみは、
少しだけ考えた。
そして言った。
「正しく生きようとすると、
今が消えるにゃむ」
それだけ。
別の日。
「世界は、
これからどうなりますか」
しゃみは、
空を見た。
空は、
何度も変わってきた。
「何度も、
終わりそうになって、
終わらなかったにゃむ」
それ以上は言わない。
369歳のしゃみは、
もう“導かない”。
代わりに、
一緒に立つ。
ある夜、
与太郎の名前が
ふと浮かぶ。
もう姿はない。
でも、
声は残っている。
「説明しなくていい夜がある」
その言葉を、
しゃみは覚えていた。
しゃみは、
静かに合掌する。
誰かのためでも、
世界のためでもない。
一緒に考えた時間のために。
R&Bは、
今も好きだった。
でも、
もうプレイリストは持たない。
必要な時に、
自然に流れてくる。
ダークしゃみは、
今もいる。
でも、
暴れない。
I want a perfect soul…
そのフレーズを、
しゃみは否定しない。
「なりたかったね」
そう言って、
そっと横に置く。
369歳のしゃみは、
悟ってはいない。
完成もしていない。
ただ、
急がなくなった。
最後に、
しゃみはこう言う。
「昔は、
みんなに何かを渡そうとしてたにゃむ」
「今は、
持たなくていいってことだけ、
伝えられたら十分にゃむ」
WiFiは、
相変わらず切れる。
世界も、
相変わらず騒がしい。
でも、
369歳のしゃみは
今日もどこかにいる。
隣に座る必要がある人のところに。
おわり




