「ふわっと交差する夜」
その夜、
しゃみは少し早く寝た。
理由は特にない。
WiFiも安定している。
フォロにゃも静か。
ただ、
まぶたが重かった。
夢の中。
しゃみは、
見慣れない草原にいた。
空は青くて、
線がやわらかい。
世界の輪郭が、
ちょっと丸い。
「……?」
歩いていると、
前の方で何かが動いた。
小さくて、
白くて、
表情が読みにくい。
うさぎだった。
ちいかわの、
あのうさぎ。
うさぎは、
しゃみを見るなり叫ぶ。
「ウラ!」
意味は分からない。
でも、
悪意はない。
「にゃむ……?」
しゃみがそう言うと、
うさぎは少しだけ首をかしげる。
それから、
なぜか一緒に座った。
二人の間に、
言葉はほとんどない。
あるのは、
草の音
風
遠くの「ワァ…」という声
しゃみは、
ふと思って聞く。
「ここ、
がんばらなくていい世界にゃむ?」
うさぎは、
少し考えてから、
「……ヤハ!」
とだけ言った。
意味は分からない。
でも、
「がんばらなくていいけど、
しんどいことはある」
そんなニュアンスが
確かに伝わってきた。
遠くで、
何かが起きている気配。
討伐かもしれない。
労働かもしれない。
でも、
今ここには関係ない。
しゃみは、
そっと言う。
「今日は、
ここに座ってるだけで
いいにゃむね」
うさぎは、
しばらく黙ってから、
「……ウラ」
と小さく言った。
その瞬間、
世界が少し揺れる。
輪郭が、
元に戻り始める。
遠くで、
誰かの声。
「しゃみ」
与太郎の声だ。
うさぎは、
何も言わずに立ち上がる。
去り際に、
振り返って一言。
「また、なにもない日に」
——そんな気がした。
目が覚める。
しゃみは、
WiFiルータの上。
いつもの部屋。
「……夢にゃむ」
でも、
胸のあたりが
少しだけ軽い。
与太郎が言う。
「変な顔してるな」
「やさしい世界と
交差してきたにゃむ」
「そうか」
それ以上、
聞かれなかった。
その日、
しゃみは一言だけ投稿した。
「今日は、
何もしなくていい世界を
夢で見たにゃむ」
フォロにゃの反応は、
少なかった。
でも、
一人だけいいねがついた。
なぜか、
うさぎの顔文字だった。




