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「しゃみが図書館に行く話」
しゃみは、用事がないのに図書館に行く。
読みたい本があるわけでもない。
調べたいことも、今日は特にない。
入口で、返却ポストの音だけがする。
誰かの一日が、そこで区切られた音。
しゃみは、棚の間をゆっくり歩く。
背表紙は、どれも「ちゃんとした言葉」ばかりで、
今の気分には少し重い。
哲学。
心理学。
自己啓発。
どれも違う。
児童書の棚に来て、しゃみは立ち止まる。
文字が大きくて、余白が多い。
説明しすぎない世界。
一冊、手に取る。
結局、最初のページだけ読んで、戻す。
席に座って、何も読まずに目を閉じる。
誰も話さない場所で、
誰も急かさない時間。
紙をめくる音。
椅子が軋む音。
遠くで咳払い。
しゃみは思う。
「ここ、言葉が休憩してる場所だ」
だから安心するんだ、と。
閉館のアナウンスが流れる。
しゃみは、何も借りていない。
出口で、受付の人が軽く会釈する。
何もしていないのに、
ちゃんと“居た”扱いをされる。
外に出ると、空が少し暗い。
しゃみは歩きながら、
今日、何も得ていないことに気づいて、
それがちょうどいいと思う。
「言葉を増やす日じゃなかった」
ただそれだけ。
しゃみは、静かに帰る。




