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「しゃみ、ぶらりと旅行する」
しゃみは、行き先を決めずに家を出る。
切符売り場の前で、
一番早く来る電車の名前だけを見る。
知らない地名。
それでいい。
窓側の席に座って、
景色を“見よう”としない。
流れていくのを、そのまま流す。
「旅って、
何かを得に行くと失敗する」
しゃみは知っている。
降りた駅は、小さい。
改札を出ると、
観光案内も、派手な看板もない。
歩く。
特に理由もなく。
古い商店。
閉まったシャッター。
開いているけど客のいない喫茶店。
コーヒーを頼んで、
何も考えずに飲む。
「ここに来た意味、
今は要らないな」
誰もしゃみを知らない。
しゃみも、誰の人生にも触れない。
その感じが、ちょうどいい。
川沿いを歩いて、
石を一つ蹴る。
水に落ちて、音が消える。
「ああ、
こういうのを
生きてるって言うんだっけ」
夕方、
もう帰ってもいいと思う。
名物も買ってない。
写真も撮ってない。
思い出話になるほどの出来事もない。
でも、
胸の奥が少しだけ軽い。
帰りの電車で、しゃみは目を閉じる。
「人生も、
これくらいでいい日があっていい」
家に着く頃には、
旅だったかどうかも曖昧になっている。
それでいい。
しゃみは、
また何も決めずに、
次の日を迎える。




