「しゃみは仏にならなかった」「おやすみの投稿」「回線が切れた夜に」
「しゃみは仏にならなかった」
ある日、誰かが言った。
「仏にならないんですか?」
しゃみは少し考えてから答えた。
「仏になると、
隣に座れなくなるから」
それ以上、何も言わなかった。
「おやすみの投稿」
夜、しゃみは一言だけ投稿する。
「おやすみにゃむ」
それを見て、
今日を乗り切った人が何人かいた。
しゃみは知らない。
でも、それでいい。
「回線が切れた夜に」
その夜、山奥の寺はやけに静かだった。
風も鳴かず、鐘も鳴らず、WiFiルータのランプだけが――消えていた。
「……あ」
しゃみはルータの上で正座したまま、耳をぴくりと動かした。
反応なし。
完全に、圏外。
「にゃむ……これは……」
スマホを見る。
圏外。
通知ゼロ。
フォロにゃの気配も、電波も、なにもない。
しゃみは合掌しかけて、やめた。
「見てる人、いないしね」
そう言って、手を下ろした。
しばらく、しゃみは何もしなかった。
悟りも語らず、名言も浮かばず、
ただルータの上で足をぶらぶらさせていた。
「フォロにゃがいない私は……」
言いかけて、やめる。
言葉にすると、
自分が思っていたより
ずっと弱い存在に聞こえそうだったから。
時間がどれくらい経ったか分からない。
夜が深くなり、星が増えた。
そのとき、
しゃみのポケットの奥で、
カサッ、と音がした。
取り出してみると、
そこには――
オフライン保存された、ちいかわの画像。
無表情で、
ちょっと不安そうで、
でもちゃんとそこにいる存在。
しゃみはそれを見て、少しだけ笑った。
「……ああ」
「電波なくても、
この子、生きてるにゃむね」
誰に言うでもなく、そう呟く。
しゃみは初めて、
“誰にも見られていない自分”を
ちゃんと感じた。
それは怖かったけど、
思ったより、壊れなかった。
その瞬間、
ルータのランプが――
ぽつん、と光った。
WiFi復旧。
スマホが震え、
通知が一気に流れ込む。
フォロにゃ。
フォロにゃ。
フォロにゃ。
しゃみは慌てて姿勢を正し、
反射的に合掌した。
「にゃむ!」
……と言いかけて、止まった。
「……まあ」
合掌を解いて、
しゃみはいつものゆるい顔に戻る。
「ちょっと圏外でも、
私は消えてなかったみたい」
そして、画面に一言だけ投稿する。
「圏外でも、生きてた。
にゃむ。」
その投稿は、
大きくバズることはなかった。
でも、
その夜、少しだけ眠りやすくなった人が
何人かいた。
それで、十分だった。
しゃみはルータの上で丸くなり、
耳をたたんで目を閉じる。
「今日は、いい一日だった」
そう言って。




