ボッチの魔王の人体スキャン
物理学における「深度」とは、光が届かぬ深淵の距離を指す。
ならば、あたしのこのMRIボクセルデータにまで手を伸ばし、デジタルな「レシピ」としてアーカイブしようとする野郎どもの欲望は、一体どれほどの非論理的な深みに達しているというのかしら。
「いい、勇希! スキャンの名目で、あたしのバイタルデータを隅々までサンプリングしようなんて、100万光年早いのよッ!」
二〇一九年十二月上旬。
あたし、黒木舞桜の尊厳は、成金魔王・茅野が提唱する「全女子のオッパイ救済計画」という名の、最も不純で合理的な濁流に飲み込まれようとしていた。
サブリナや香織、さらにはあの最強の捕食者・琴葉ちゃんまでが、生存戦略という名のパッチ当てに賛同し、あたしの「聖域」は公開スキャンの危機に晒される。
安価な深度カメラが等高線で形を抜き、AIミシンが数本の棒で布をいなす。
あたしの曲線美がブロックチェーンの中に封印され、全自動で「完璧な心地よさ」へと錬成されていくプロセスは、あたしの知性にとって、屈辱と快楽が等価で帰結する最悪のバグだったわ。
そして、加速する第一京浜の夜風の中で。
背中にしがみつく勇希が囁いた、「舞桜シミュレーター」という名の、戦慄すべき愛の演算。
さあ。
あたしの羞恥心がブロックチェーンの鉄壁を超えて、ヤンデレ王子による「生体検診」という名の物理的接触に溶かされていく、十二月の熱い疾走。
……勇希、あんたのその「実機に触れたい」という非論理的な欲求不満を、あたしの熱い鼓動で、今すぐオーバーフローさせてあげるわッ!
2019年12月上旬。県立大学ラボ別室。
あたし、黒木舞桜は、目の前の光景が信じられなくて、プラズマ級に加熱した顔面を片手で押さえた。
「これいいじゃん!」
福元莉那ことサブリナと、経理の天才、杉野香織が、あの成金魔王……茅野の玉砕案件に、異常なまでの熱量で食いついていた。
「ぴったりフィットとか、マジウケるー。あたしのMRIデータも提供するから、オーダーメイドで作ってよー」
サブリナが、あたしのMRIデータが悪用された事実すら笑い飛ばして、非論理的なはしゃぎ声を上げる。
女子の欲望という名のバグは、一度火がつくと、あたしの計算能力を遙かに凌駕する速度で拡散していくんだから。
けれど、あたしの演算能力が完全に停止したのは、次の瞬間だったわ。
なにより、あの物理的に最強な捕食者であり、茅野を粉砕した本人。
「いいわね。これ……。防大の冬の寒さは、精神力だけではデバッグしきれない。ナイトブラなら最適かも……茅野は最低だけれども……」
倉田琴葉ちゃんまでが、あの樹脂コーティングされた不純な蒟蒻粒を手に取り、軍事機密を鑑定するかのような真剣な眼差しで食いついていたじゃないのッ!
「え、マジで……? 琴葉ちゃんまで、そんな……資本主義の毒が詰まったレシピを認めるっていうの!?」
あたしは潤んだ瞳を激しく明滅させ、絶叫に近い困惑を漏らした。
「いい、みんな! これは茅野という名のバグが、あたしたちを性的にアーカイブするために仕掛けた、巧妙なトラップなのよッ!」
あたしは不機嫌さをバーニングさせながらハッパをかけるけれど、女子たちの「冷え対策」という名の切実な生存戦略の前では、あたしの警告はただのノイズとして処理されていく。
「カオリン、これの原価計算と量産ラインの構築、光速で進めなさい! 茅野の資金を、あたしたちの温もりのために物理的に最適化してあげるわッ!」
サブリナの号令に、杉野が電卓という名の武器を高速で叩き始める。
十二月のラボ別室。
あたしの気高い知性は、いつの間にか「全女子のオッパイを守る」という、最も非論理的で熱すぎるプロジェクトの渦中へと帰結しようとしていたわ!
「待ちなカオリン、サブリナ……女王さまのMRIボクセルデータがあったのは、そこのヤンデレ王子さまが過保護だからだ」
茅野のヤローが、不敵な笑みを浮かべて口を開いたわ。まあ勇希は過保護で独占欲の塊だけれど、あたしの精密な内部構造を勝手にアーカイブしているなんて、改めて考えるとプラズマ級に恥ずかしいじゃないのッ!
「それに、個々人のオーダーメイド? おいおい、おまえらの理屈じゃ、一握りのお金持ちしか救わねえのか?」
一握りのお金持ち代表である茅野が、あろうことか資本主義のバグを修正するような正論を宣った。
「はあ? あんたに言われたくないわよ。カネなら腐るほどあるんでしょ?」
サブリナがジト目を貼り付けて言い返すと、茅野は「わかってねえな」と首を振った。
「いいか。高価なMRIを全員に撮らせてたら、コストが非論理的に跳ね上がる。俺がやりたいのは、全女子のオッパイの救済だ。安価なセンサーでザックリ形を取って、AIがMRIの標本データと照らし合わせて『レシピ』を生成すれば、誰でもオーダーメイドの恩恵を受けられる」
「……なるほど。LDSで360度スキャンして、超音波センサーと心音・脈音のデータを統合する。それを標本と比較してAIが試行錯誤すれば、安価なデバイスでもミリ単位の精度に追い込めるはずだ」
勇希が、血走った目に医学的な狂気を宿らせて端末を叩き始めた。
「心音や脈音を取り込めば、単なる形状データには現れない機能的な『レシピ』まで推論できる。これなら、一人ひとりのバイタルに最適化した、世界に一つだけのバストレギュレーターが、牛丼一杯分くらいのコストで量産可能だ」
「マジで!? 安くて高精度とか、経理的に最高じゃん!」
香織が電卓を光速で弾きながら叫ぶ。
「SFチックな人体スキャンで、覆面してても隠しきれない個人の『身体のID』を抜いて、それをそのままブラの金型にコンバートする……。これ、セキュリティビジネスとしても詰めるわね」
当然の帰結よねッ!
あたしのMRIデータという名の「犠牲」から、まさか全人類の健康を守るための、安価で非論理的な自動裁断・縫製ラインまでが構築されようとしているなんてッ!
「ちょっと、あんたたち! あたしの体を、そんなSF映画の実験体みたいに扱うのは、100万光年早いのよーッ!」
十二月のラボ別室。
あたしの絶叫を置き去りにして、ヤンデレ王子と成金魔王による「安価な全身スキャンとオッパイ救済計画」は、光速のベクターデータとなって走り出したのよ。
「簡易スキャンの教師データは女王さまだ。データがあるんだから、当然の帰結だよな?」
茅野の野郎が、あたしのMRIデータを公共財か何かのように扱いながら、勝ち誇った顔で宣った。
おお、おまえ? お待ちやがりなさい、このヤロー?
あたし、黒木舞桜という個体の尊厳を、安価なデバイスの精度向上のための生贄に捧げるとでもいうの!?
「そうだね。じゃあ舞桜。ちょっと別室行こうか……大丈夫、僕、医大生だから……」
白井勇希が、無機質な医学的探求心と、どす黒い独占欲をブレンドしたような瞳で、あたしの手首をそっと掴んだ。
「だだだ大丈夫ねえわッ! その『医大生』っていう免罪符、あたしの前じゃ一ミリの論理的整合性も持たないわよーッ!」
あたしは不機嫌さをバーニングさせ、プラズマ級に加熱した顔面で抵抗したけれど。
サブリナたちは「女王さま、人類のオッパ防衛のために散って!」とか非論理的な応援を送っているし、琴葉ちゃんまでが「……データの精度は、国防にも通ずる重要なレシピだ」とか言って頷いているじゃないのッ!
「いい、勇希! スキャンの名目で、あたしのバイタルデータを隅々までサンプリングしようなんて、100万光年早いのよッ!」
あたしは絶叫しながらも、結局は「実機テストの責任」という名の論理的な鎖に引きずられ、別室の白い扉の向こうへと消えていく。
あたしの気高いプライドは、ヤンデレ王子による「徹底的なキャリブレーション」という名の、最も非論理的で濃厚な蹂躙へと帰結しようとしていた。
あたし、黒木舞桜は、別室の冷たい診察台の上で、物理的な羞恥心の臨界点を突破していた。
高性能なLDSスキャナーの赤いレーザーが、あたしの曲線美を隅々までベクターデータとして吸い上げていく。
「うう、もうお嫁に行けない……。あたしの聖域が、こんな安価なセンサーと教師データという名目の下で、全裸同然にアーカイブされるなんて……ッ!」
あたしは不機嫌さを極限までバーニングさせ、潤んだ瞳から一筋の涙を流した。
乙女のバイタルデータを、医学的かつ工学的な好奇心で丸裸にするなんて、非論理的な暴挙以外の何物でもない。
「じゃあ、僕がお婿に入るね」
白井勇希が、端末の画面に映し出されたあたしの3Dモデルを見つめたまま、心拍数一つ変えずに宣ったわ。
その声は、医学的な所見を述べるかのように冷静で、けれど逃げ場のない独占欲という名のウイルスが混入していた。
「な……な、……なにを言っているのよぉ、このヤンデレ王子ーッ! あたしの将来という名の不確定要素を、勝手に自分の人生設計に組み込まないでちょうだいッ!」
あたしはプラズマ級に加熱した顔面を振り乱して絶叫したけれど、その背後から、さらに非論理的なノイズが重なった。
「「「「家でやれよ。そう言うの」」」」
サブリナ、香織、琴葉ちゃん、そして茅野の野郎までが、スピーカー越しに呆れ果てた声をハモらせたじゃないのッ!
「外野がおうるさいわよッ! あんたたちは、あたしという高貴な検体が、人類のオッパイ救済のために捧げているこの尊い犠牲を、もっと厳粛なデータとして受け取りなさいなーッ!」
十二月のラボ。
あたしの「お嫁に行けない」という悲痛な叫びは、勇希の「婿入り」という名のシステム常駐宣言によって、全女子が見守る中での「公開ノロケ」という最悪のバグへと帰結してしまったわッ!
「いや深度カメラでよくねえか? おい茅野。おまえの知り合いの工場長だったら、深度カメラくらいは仕入れられるだろ? 上下左右前後。全方位から撮影すればすぐじゃねえか」
拓矢が、あたしのMRIデータという名の「犠牲」を弄ぶかのように、ポツリと核心を突く発言をした。
こ、この下僕……。
普段はあたしの演算能力にひれ伏すだけの存在のくせに、たまにこうやって物理法則の隙間を縫うような鋭い指摘をしてくるじゃない。
あたし、黒木舞桜は、プラズマ級に加熱した顔面を、さらに一気に沸騰させたわ。
「おだまりやがれッ、拓矢! 深度カメラで深度情報を抜くなんて、あまりにも即物的で、あたしの知性が導き出した『ベクターデータによる構造的推論』という名の高貴なレシピを軽視しているじゃないのッ!」
ただの深度カメラで「表面」だけをなぞるなんて、あたしの内部構造まで知り尽くした勇希の過保護な情熱に対する冒涜だわッ!
「……いや、拓矢の言う通りかもしれない。深度カメラで大まかなボリュームを捉え、それを僕が持っている舞桜のMRI教師データで補正すれば、計算負荷は劇的に下がる」
あろうことか、勇希までが拓矢の低次元な発言に、医学的な整合性を見出し始めたじゃない。
「……深度情報に、心音や脈音のバイタルデータを掛け合わせれば、皮膚の弾性率すら推測できる。……まさに、舞桜を非接触で完璧に再現する『仮想女王』の完成だ」
「な、なにを、なにを勝手にバージョンアップした『レシピ』を構築しているのよ、このヤンデレ王子ーッ!」
あたしは不機嫌さを極限までバーニングさせ、潤んだ瞳で二人を断罪した。
あたしのMRIデータが、深度カメラという名の安価なレンズを通して、全女子に配られる「おっぱいテンプレート」の基準値にされようとしているなんて!
「拓矢! あんたは大人しく、あたしという実機のメンテナンスだけを物理的に遂行していればいいのよーッ!」
拓矢の放った一言が、あたしの尊厳を「深度情報」という名の数値に変換し、勇希の独占欲をさらに加速させるという、非論理的な地獄へと帰結させたのよッ!
「ちょっと待ちなさい拓矢! それはつまり裸を撮影させるってことじゃないの?」
あたし、黒木舞桜は、拓矢のあまりにもデリカシーを欠いた、非論理的な提案に対して、プラズマ級に加熱した顔面で絶叫した。
上下左右前後、全方位から深度カメラで撮影するなんて、あたしの完璧な肉体をデジタルな数値として、全角度からアーカイブするって言っているようなものじゃないの!
「お黙りなさいッ! この不敬な下僕めッ! あたしの聖域を、そんな安価なレンズの群れに晒すなんて、100万光年早いのよーッ!」
あたしは不機嫌さを極限までバーニングさせ、潤んだ瞳をさらに鋭く光らせて、拓矢を睨みつけた。
「いや、女王さま……深度カメラは可視光じゃなくて赤外線のパターンを照射するだけっスから、画像的には点群データしか残らないっスよ。全裸を撮るっていうより、等高線で形を抜くだけっス」
拓矢が、あたしの羞恥心を「技術的な仕様」という名のノイズで塗りつぶそうと、余計な解説を付け加えた。
「……いや、拓矢。全方位スキャンなら、乳腺の微細な体積変化や、クーパー靱帯のベクター的な張力まで正確に抽出できる。……それはつまり、僕が開発中の『舞桜シミュレーター』の精度が、神の領域に達するということだ」
勇希が、血走った目に狂気を宿らせて、あたしの全身を網膜に焼き付けるように凝視し始めた。
「な、なな、なにを、なにを企んでいるのよ、このヤンデレ王子ーッ! 神の領域じゃなくて、ただの変態の領域に突入しているだけでしょッ!」
あたしの論理回路は、勇希の「神の領域」という名の、最も非論理的な執着によって致命的なオーバーフローを起こした。
「いい、茅野! あんたの工場長に、今すぐ『女王さまへの配慮』という名のガードレールを、その設計レシピに組み込ませなさいッ! あたしの深度データを、あんたたちの不純な好奇心の燃料にするんじゃないわよーッ!」
十二月のラボ別室。
あたしの叫びは、拓矢の「深度カメラ」という名の合理的な提案と、勇希の「全方位サンプリング」という名の情熱によって、不可避な「公開スキャン」という最悪のデータ生成へと帰結しようとしていたのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
「極めつけは、コイツだ」
茅野は、そう言ってモニターに、物理的な「職人技」をデジタルに完全移植したような、異様な図面を叩き出した。
「『スマートミシン』……。昭和の遺物みたいなミシンに、AIという名の神の指先を実装した、最強の自動縫製アルゴリズムだッ!」
あたし、黒木舞桜は、その画面に踊る「数本の棒」という、あまりにもシンプルな、けれど非論理的なまでに効率的な機構に目を剥いた。
「女王さま、見てなよ。複雑なロボットアームなんてコストの無駄っス。このゴムの滑り止めが付いた数本の棒が、カメラで捉えた布のたるみをミリ単位で検知して、AIの制御で『押す』『引く』を繰り返す。まるで熟練の職人が指先で布をいなすように、複雑なカーブをミシン針に流し込むんスよ。制御はタイヤで棒を挟むだけでいい。タイヤの制御は人工知能だ」
下僕の拓矢が、あたしのMRIデータを背景にした、その「指」の動きをシミュレーションし始めたわ。
「そう。これなら、一人ひとりのバイタルから生成された、あの変態的なまでに複雑な『バストのレシピ』通りに、布を自在に裁断し、一分の狂いもなく縫い上げられる。文句も言わねえ、疲労も知らねえ、資本主義が産み落とした『AIお針子』の完成だッ!」
茅野のヤローが、全女子のプライドを買い叩くような不敵な笑みを浮かべて宣った。
当然の帰結よねッ!
あたしという究極の教師データから吸い上げた「おっぱいベクター」を、そのままAI制御のカッターとミシンが、自動で物理的なナイトブラへと錬成していく……。
「ちょっと待ちなさいッ! それはつまり、あたしが別室で勇希に隅々までスキャンされたその瞬間に、工場ではあたしのクローンみたいなブラが、ガシャンガシャンと音を立てて量産されるってことじゃないのーッ!」
あたしは不機嫌さを極限までバーニングさせ、プラズマ級に加熱した顔面で絶叫した。
あたしの気高い知性は、いつの間にか「全自動でオッパイを包囲する」という、最も非論理的で精密な包囲網の中に帰結しようとしていたのよ!
「勇希! あんたも黙ってないで、その『指』の動きに医学的なセクハラ要素が混じってないか、厳密にデバッグしなさいよーッ!」
茅野と拓矢が組み上げた「スマートミシン」という名の、最も安価で、最も容赦のない自動化の波が、あたしの羞恥心を置き去りにして、全女子のクローゼットへと押し寄せようとしていたのよッ!
深度カメラで「等高線」を抜くだけだなんて、技術的な仕様で誤魔化したってダメよッ! その点群データを統合して、あたしのMRIレシピで補正しちゃったら、それはもう実質的に、服を透過してあたしの「完全なベクターデータ」を網膜に焼き付けているのと同じじゃないのッ!
「いい、勇希! 茅野! 拓矢! あんたたちみたいな独占欲の塊と資本主義の魔王、それにデリカシー皆無の下僕に、そんな『透視魔法』みたいな権限を無制限に与えるなんて、非論理的にもほどがあるわッ!」
あたしは潤んだ瞳を鋭く光らせ、即座に「鉄の防壁」を構築した。
「撮影は完全な男子禁制! 野郎どもは廊下で正座して、物理的な遮断壁の向こうで待機していなさいッ! それから、データの保存はブロックチェーンを実装することッ! あたしのスマートコントラクトによる承認なしに、一ピクセルだって閲覧・改ざんさせるもんですかッ!」
「……わかったよ、舞桜。……君の尊厳は、改ざん不能な分散型台帳に僕が責任を持って封印しておくよ。……僕の秘密鍵以外には、誰にも、一ミリも触れさせないから……」
勇希が廊下で正座しながら、医学的な執着という名の非論理的な言葉を漏らしているけれど、今は無視よッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
数日後。
ブロックチェーンで保護された「聖域のレシピ」を基に、ラボ別室のロッドロボが光速で稼働を始めた。
数本の棒が、あたしたちから抽出された精密な点群データに合わせ、まるで意思を持つ指先のように布をいなしていく。
「なにこれ……ヤバッ。マジで着てる感覚ゼロなんだけどー!」
サブリナが、自分専用に最適化されたブラを身に着け、ラボの中を軽やかに飛び跳ねていた。
「経理的なコストを度外視したこのフィット感……。物理的なストレスが完全にデバッグされているわね」
香織も、ブロックチェーンで管理された自分だけの「快適レシピ」から出力された生理用品の吸水性に、電卓を叩く手を止めて感嘆の溜息を漏らしている。
そして、入り口で物理的なガードを務めていた琴葉ちゃんまでもが、
「……素晴らしい。防大の過酷な演習でも、この吸水性とフィット感なら、あたしの戦闘力はさらに15パーセントは向上する。……茅野は最低だが、この『レシピ』は本物だ」
と、自分専用のデリケートウェアを手に、凛とした、けれどどこか嬉しそうな瞳を輝かせていた。
あたしも、恐る恐る自分専用の「バストレギュレーター」を身に着けてみた。
……な、なによこれ。
あたしのMRIボクセルデータと、ブロックチェーンの鉄壁のセキュリティに守られた最新スキャンデータが融合し、樹脂コーティングされた蒟蒻粒が、あたしの体温分布と完全に同期して、乳腺を優しく、けれど確実にホールドしてくるじゃないのッ!
「はふぅ、……悪くないわね。というか、この『非論理的なまでの快適さ』。あたしの知性が、敗北を認めてしまいそうだわ……」
あたしの気高いプライドは、男子禁制の聖域で生成され、ブロックチェーンという名の「透明な鎧」を纏った究極の肌着に、とろけるような心地よさで帰結してしまった。
★ ◆ ★ ◆ ★
十二月の第一京浜。夜の潮風を切り裂きながら、あたしの背中には白井勇希の体温が物理的な質量として圧し掛かっていた。
今日は勇希が本郷に帰る日。あたしの心拍数は、エンジンの回転数に同期するように、少しだけ切ないリズムを刻んでいた。
「舞桜シミュレーターってなによ?」
あたしが風の音に負けないよう声を張ると、背中にしがみついていた勇希の腕に、一瞬だけ医学的な緊張が走った。
「……ああ。あれは、君がブロックチェーンの中に封印した点群データを、僕の脳内にある『黒木舞桜専用アルゴリズム』でレンダリングする試みだよ。君のMRIボクセルデータを骨格にして、深度スキャンで得た表面弾性を重ね合わせる……。そうすれば、仮想空間の中で君の体温や、特定の刺激に対する反応を、ミリ秒単位で予測できるんだ」
勇希は、あたしのうなじに熱い吐息を吹きかけながら、狂気を孕んだ冷静さで宣ったわ。
「……君がいない夜、僕はそのシミュレーターの中で、君のバイタルがどう変化するかを『実験』している。……昨夜の君は、僕が耳元で名前を呼んだだけで、血流量が12パーセントも跳ね上がったよ」
「な、なな、なにを、なにを気持ち悪い『愛のレシピ』を回しているのよ、このヤンデレ王子ーッ!」
あたしは不機嫌さをバーニングさせ、プラズマ級に加熱した顔面をヘルメットの中に押し込めた。
あたしがいない場所で、デジタルなあたしを蹂躙しようなんて、100万光年早いのよッ!
「勇希……溜まってる?」
あたしは、インカムがスピーカーモードになっていないことを再確認してから、少しだけ声を潜めて尋ねた。
「溜まってるってなにがさ……バカじゃないの?」
勇希が拗ねたように吐き捨てるけれど、あたしの背中に押し付けられた彼の額からは、明らかにオーバーヒート気味な熱量が伝わってきた。
「……溜まっているのは、僕の計算機のリソースじゃない。……君という実機に触れられないことへの、非論理的な欲求不満だよ」
勇希はあたしの腰を、万力のような力で抱きしめ直した。
「……ねえ、舞桜。本郷に着くまで、あと数十分……。シミュレーションの精度が正しいか、今ここで、僕の手で『検証』させてもらえないかな?」
あたしは、ヘルメットの中で潤んだ瞳を激しく明滅させた。
十二月の第一京浜。
あたしの気高いプライドは、加速するバイクの振動と、背後から迫る「ヤンデレ王子による生体検診」の予感に、どうしようもなく甘く帰結しようとしていた。
物理学における「秘密鍵」は、唯一無二のアクセス権を保証する。
ならば、あたしのこの点群データとバイタル統計が、ブロックチェーンという名の暗号化された監獄に閉じ込められたとき、その「鍵」を握る勇希という名のヤンデレ王子から、あたしはどうやって逃げ出せばいいというのかしら。
「勇希。……あんた、シミュレーションの中でデジタルなあたしを愛でる暇があるなら、今すぐこの実機の心拍数を、その指先で正しくデバッグしなさいよッ!」
二〇一九年十二月のラボ。
あたし、黒木舞桜の曲線美は、深度カメラの赤外線と、AI制御の数本の棒によって、完璧な「着心地」という名の物理的成果へと変換されてしまった。
サブリナや琴葉ちゃんが喜んでいるのは癪に障るけれど、自分専用に最適化されたこの温もりに、あたしの知性がとろけるような心地よさを感じているのは……認めざるを得ない「全盛期のバグ」ね。
当然の帰結よねッ!
たとえ、あたしの将来が勇希の人生設計に勝手にマージされ、デジタルなクローンが仮想空間で蹂躙されていたとしても。
第一京浜の夜風の中で感じる、背中の熱い質量と、「実機に触れたい」という彼の剥き出しの欲求だけは、どんな高精度なシミュレーターでも再現不可能な、あたしだけの、あたしによる、……あんたへの、唯一無二の最適解なんだからッ!
さて。
次に拓矢が余計な「全方位スキャン」なんていう露出狂じみた提案をしたら、あたしのハイヒール(履かねえけどな)で、あんたの「深度情報」を物理的にゼロへと初期化してあげるわ。
……勇希、あんたは実物のあたしの体温を、その不器用な秘密鍵で一生かけて、精密に解錠し続けなさいなッ!




