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ボッチの魔王の魂の慟哭

 物理学において、速度は時間と距離の比率で定義される。

 ならば、あたしのこの高鳴る鼓動と、第一京浜を切り裂く排気音のシンクロ率は、一体どのような数式で記述できるというのかしら。

 

 「な、なにを企んでいるのよ、あの孤独な魔王はッ!」

 

 二〇一九年十一月下旬。

 あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)の網膜が捉えたのは、成金魔王・茅野(チノ)の助手席に鎮座する、凛とした正義の塊――倉田(クラタ)琴葉(コトハ)ちゃんの姿だった。

 

 あたしの知性が導き出した予測モデルは、即座に「白い部屋での開発シミュレーション」という名の、最悪のバグを吐き出したわ。

 当然の帰結よねッ!

 

 けれど、この夜の疾走は、あたしの想像を遙かに超えた「非論理的な多重衝突」へと帰結していく。

 

 孤独な御曹司が抱える過去のトラウマ。

 それを見事に(物理的に)デバッグしたあたしに待ち受けていたのは、ヤンデレ化した勇希(ユウキ)による、医学的根拠のない「所有権の主張」という名のアイアンクロー。

 

 そして……あろうことか、あたしのMRIデータが、樹脂コーティングされた蒟蒻粒による「バスト・サーモ・レギュレーター」という名の、変態的デバイスへとコンバートされてしまうなんて!

 

 さあ。

 あたしの羞恥心がプラズマ級に加熱し、知性と本能が「臨床データ」という名の甘美な蹂躙に屈していく、十一月のラボの熱狂。

 ……勇希(ユウキ)、あんたのその正直すぎる「オッパイ大好き宣言」を、あたしの熱い鼓動で、完璧に初期化フォーマットしてあげるわッ!

 2019年11月下旬。

 あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)は、第一京浜を疾走する風の中で、物理法則すら書き換えるような非論理的な光景を目撃した。

 視界の端を、高純度のエグゾーストノートが通り過ぎる。

 

 あれは、茅野(チノ)万桜(マオウ)が転がすアルファロメオ。

 成金魔王という名の、一応は資産家の御曹司。

 

 その事実自体は、あたしの知性の隅に、塵あくたとして放り込んでおけばいい。

 当然の帰結よね!

 

 けれど、あたしの演算能力が停止したのは、そのツーシーターの助手席だった。

 そこに鎮座していたのは、防大組の取り纏め役。

 

 凛とした空気を纏う、あの倉田(クラタ)琴葉(コトハ)ちゃんじゃないのッ!

「え、マジで……?」

 

 あたしは不機嫌さを極限までバーニングさせ、プラズマ級に加熱した顔面をヘルメットの中に押し込めた。

 あんな、正義の塊のような琴葉(コトハ)ちゃんが、資本主義のバグを凝縮したような茅野(チノ)とデキているっていうの!?

 

 あたしの網膜が捉えたこの視覚情報は、何かのバグに違いない。

「な、なにを、なにを企んでいるのよ、あの孤独な魔王はッ!」

 

 あたしは潤んだ瞳をさらに鋭く光らせ、二人のベクターデータを解析するために、アクセルを物理的に回し切った。

 十一月の乾いた夜風が、あたしの心拍数をさらに加速させる。

 

★ ◆ ★ ◆ ★


「あの……僕、なんで女王さまに職質されてんスかね?」

 茅野(チノ)万桜(マオウ)のジト目を、あたしはビームが出そうな眼光で焼き切った。

 

「お黙りなさいッ! この性獣! 琴葉(コトハ)ちゃん! もう大丈夫よ!」

 あたしは、プラズマ級に加熱した顔面を振り乱し、琴葉(コトハ)ちゃんの前に立ちはだかった。

 

「これで白い部屋で、この成金魔王に開発されないですむわ! 当然の帰結よねッ!」

 あたしの脳内では、すでに茅野(チノ)が構築した「レシピ」を悪用した、非論理的な調教シミュレーションのログが4K解像度で再生されていた。

 

「あんた、琴葉(コトハ)ちゃんの凛とした軍事的な美しさを、デジタルなレシピとしてアーカイブして……逃げ場のない白いサーバーの中で、一生あたしの代わりとして辱めるつもりでしょッ! この、資本主義のバグを煮詰めたような不届き者めーッ!」

 あたしは不機嫌さを極限までバーニングさせ、潤んだ瞳で茅野(チノ)の罪状を(被害妄想込みで)読み上げた。

 

「なにを取り乱しているんだ黒木(クロキ)さん。まあ、茅野(チノ)にその気があるのは透けて見える……送り狼にあっても別にかまわんさ。撃退すればいい」

 倉田(クラタ)琴葉(コトハ)ちゃんは、眉一つ動かさず、むしろ獲物を狙う猛禽類のような瞳で、茅野(チノ)の頸動脈を視覚的にロックオンしたわ。

 

「い、やだなぁ~倉田(クラタ)先輩、送り狼だなんて、そんな昭和なあ。それをやったら令和じゃ詰みますよ。俺はただ、同じ方面だから送迎という名の投資をしただけですって」

 茅野(チノ)は、冷や汗を物理的な重力に逆らわせながら、高い声で笑って言葉を濁したわ。

 

「ほう、覚悟も無しか。黒木(クロキ)さんの妄想通り、私をレシピとやらに変換して開発する度胸があるなら、今この場でその脆弱な頸椎を物理的に『最適化』してやろうと思ったのだがな」

 

「「…………ひっ」」

 あたしと茅野(チノ)の悲鳴が、物理的にハモった。

 な、なによこれ。あたしの想像していた「か弱い乙女を魔王から救うヒロイン」の構図が、琴葉(コトハ)ちゃんの獰猛な殺気によって、完全にバグを起こしているじゃないのッ!

 

「……ねえ、茅野(チノ)。あんた、こんなのと二人きりで狭い車内にいたの? それは……ある意味で死線を潜り抜けるような、究極のサバイバルだったんじゃないかしら……」

 あたしは沸騰していた顔を急速に冷却させ、引き気味に茅野(チノ)に同情を寄せてしまった。

 

「……当然の帰結……どころか、生存戦略的なエラーでしたよ、女王さま……。俺、今さっきから、車内のルームミラー越しに三十六回は『殺されるレシピ』を脳内でシミュレートさせられましたもん……」

 

 十一月の第一京浜。

 あたしの盛大な勘違いは、琴葉(コトハ)ちゃんという名の「物理的に最強な捕食者」の存在によって、非論理的な恐怖のどん底へと叩き落とされたのよ!


★ ◆ ★ ◆ ★


 (リョウ)の門限という名の、物理的な遮断時刻が刻々と迫る。

 あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)は、小原台の校門へと滑り込んだ琴葉(コトハ)ちゃんを、安堵と一抹の寂しさが混ざり合った複雑な演算回路で見送った。

 

 ふと視線を感じて振り向くと、成金魔王こと茅野(チノ)万桜(マオウ)が、なにやら非論理的な不純物を孕んだ瞳でこちらを凝視しているじゃない。

 あたしは不機嫌さをバーニングさせながら、その視線を光速でスルーし、愛車のバイクへと跨ったわ。

「おい、なにやってんだテメ?」

 

 あたしの口から、物理的な困惑が漏れ出した。

 あろうことか、茅野(チノ)が、あたしの背中にしがみついて、タンデムの態勢をとっているじゃないのッ!

 

「恋バナしようぜ女王さま」

「しない。いいから降りろ。バイクが出せない。あんたのその資本主義に汚染された重みで、あたしのサスペンションが悲鳴を上げているわッ!」

 あたしは低い声で威嚇し、茅野(チノ)を睨みつけた。

 

 当然の帰結よねッ!

 あたしの処女的な背中は、勇希(ユウキ)という名の特定の検体にのみ許された、神聖な観測領域なの!

 

 それなのに、茅野(チノ)の野郎は、あたしの腰を万力のような厚かましさでホールドし、一向に離れる気配を見せない。

「ああ、もう、聞いてやるからッ! その非論理的な妄想の垂れ流しに、あたしの貴重な脳内リソースを割いてあげるわよッ!」

 あたしは、羞恥心で潤んだ瞳を激しく明滅させた。

 

「おまえはロメオでついてきな! あたしのベクターデータが描く疾走の軌跡に、そのイタリア製の成金マシンで食らいついてこれたら、話を聞いてやるわッ!」

 

 あたしはアクセルを物理的に回し切り、茅野(チノ)を振り払うようにバイクを急発進させた。

 

 十一月の横須賀の夜。

 あたしの背後に残された茅野(チノ)の、孤独な御曹司ゆえの執念が、夜風に乗ってあたしの鼓膜を不快に震わせる。

「見てなさいな、茅野(チノ)! あたしたちの『愛のレシピ』は、あんたの札束で買い叩けるような、そんな安いアルゴリズムで構成されているわけじゃないんだからーッ!」

 

 あたしは、夜の闇へと溶けていくテールランプの光を、勝利の演算結果として網膜に焼き付けた。


★ ◆ ★ ◆ ★


 茅野(チノ)のヤツ、意外にも脱落せずに食らいついてきたようだ。

 場所は湘南、江の島の手前の海岸線。

 真夜中の潮騒だけが物理的な静寂を支配する、隠れたサーフスポットだ。

 

「錆びても知らねえよ?」

 あたしは、潮風に晒されるイタリア製のロメオを見やり、鼻で笑った。

 この景色に映えるのは認めるけれど、高価な金属部品を塩害に晒すなんて、合理的な選択だとは思えない。

 まあ、あたしだってバイクを走らせている以上、人のことは言えないけれど。

 

倉田(クラタ)先輩ってさ。高校の先輩なんだよね」

 茅野(チノ)が、重苦しい沈黙という名のバグを切り裂くように口を開いた。

 だからどうした。

 というか、あたしみたいな絶世の美少女を相手に恋バナだなんて、この成金魔王の演算回路はどうなっている。

 

 あたしの魅力に対して興味ゼロっていうのも癪に障るけれど、色目を使われても物理的な制裁(アイアンクロー)が捗るだけだから困る。

 当然の帰結よね。

 

「高校の時にさ、俺、テニスやっててさ、地区大会くらいは余裕で制してさ」

 なに。

 今さら御曹司の過去の俺様自慢ですか、このヤロー。

 あたしは不機嫌さをバーニングさせながらも、とりあえずは黙って聞いてやることにした。

 

「インターハイまで進んでさ……」

 ここで、茅野(チノ)の声のトーンが物理的にデシベルを下げた。

 どうやら、こいつの脳内リソースを占有している過去の核心(コア)に触れるらしい。

 

「それで?」

 あたしは、海に向かってウンザリした吐息を捨てて、先を促した。

 

「俺さ、辞退したんだ……なんつーの? 家庭の事情? みんな責めるのにさ。倉田(クラタ)先輩だけはさ……」

 

 ああ、もう。

 こいつ、最高にメンドクセー。

 あたしは、苛立つ視線を茅野(チノ)へ向け、迷いなく右拳を繰り出した。

 

 ターゲットは、茅野(チノ)の不規則な言葉を吐き出すその唇。

 あたしは、光速の裏拳を思い切り振り切った。

 

「な、なにしやがるッ!」

 衝撃波に顔を歪める茅野(チノ)を、あたしは冷徹な眼光で射抜く。

 

「親愛じゃないキスだ……嬉しいか茅野(チノ)?」

 あたしは、不敵な笑みを浮かべて言い放った。

 

「家庭の事情がなんなのかは、知らん。琴葉(コトハ)ちゃんが、おまえにどう寄り添ったかも知らん。あたしの知性にとって、そんな情緒的なバグは興味ゼロだし、どうでもいいッ!」

 

 そこで、あたしは二発目の「親愛じゃないキス」という名の拳を放った。

 

「それを言う相手はあたしじゃない! あたしという完璧な計算機を、感傷のゴミ箱代わりにするんじゃないッ! 相手を間違えんなッ!」

 

 十一月の湘南。

 あたしの拳による物理的なデバッグが、孤独な御曹司の迷いを粉砕して、夜の海へと霧散させた。

 当然の帰結よねッ!


 あたしは、茅野(チノ)の両頬を「むにい」と、指先の物理的な圧力で抓りあげて、力いっぱい引っ張った。

 

「ビビってねえで、当たって砕けてフラレて来なさいアンポンタン!」

 

 あたしは不機嫌さを極限までバーニングさせ、プラズマ級に加熱した顔面で、成金魔王の情けない面皮を罵倒した。

 当然の帰結よね。

 

 あたしの気高い知性は、迷える御曹司の感傷をデバッグするためにあるんじゃない。

 ハッパをかけるだけかけると、あたしは愛車のバイクに跨り、夜の海風を切り裂いて家路についた。

  

 あたしは加速するエンジンの鼓動を、心拍数と同期させながら、夜の闇へと溶けていった。


★ ◆ ★ ◆ ★


 翌日。

 あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)は、校舎の廊下を歩きながら昨夜の計算外な重労働を反芻していた。

 物理的な制裁と、非論理的なハッパ。

 あたしの高性能な演算ユニットは、すでにそれらを「過去のログ」として整理し終えていたのに。

 

 ラボの重い扉を開けた瞬間、あたしの予測モデルを遙かに凌駕する物理的衝撃が襲いかかってきた。

 白井(シライ)勇希(ユウキ)のアイアンクローが、あたしの左胸に容赦なく炸裂したじゃないのッ!

「い、痛い! い、いきなりなにをするの勇希(ユウキ)!? は、放してッ!」

 

 あたしは羞恥心がプラズマ級に加熱し、脳内回路がショート寸前になった。

 あたしの清らかな領域に、医学的な根拠もなく不当な圧力を加えるなんて、言語道断よ!

舞桜(マオ)……茅野(チノ)としたの?」

 

 勇希(ユウキ)の、魂の奥底から這い上がってくるような低い声。

 なんで朝からそんな、ヤンデレ化したウイルスに感染したような顔をしてるのよぉ?

 したって、なにをよぉ?

 あたしの論理回路は、その不純な問いの真意を測りかねてエラーを吐き出しそうになったわ。

 

「おう。したぞ……親愛じゃないキスをな……」

 そこへ、昨夜あたしにボコボコにデバッグされたはずの茅野(チノ)万桜(マオウ)が、不敵な笑みを浮かべて割り込んできた。

 

 この成金魔王……!

 あろうことか、あたしの「物理的な激励」を、わざと卑猥な文脈に置き換えて勇希(ユウキ)を煽っているじゃないのッ!

 

 案の定、勇希(ユウキ)の右手に、医学的な致死量を越えた力が籠もる。

「いだだだだだッ! て、放せって言ってんのよぉ!?」

 

 あたしは不機嫌さを極限までバーニングさせ、反射的に右足を振り抜いたわ。

 あたしは勇希(ユウキ)の腹部を蹴り飛ばして、物理的な接続を強制的にパージした。

 

「当たって砕けて玉砕したから、貴様も一緒に連れて往くぅ~」

 茅野(チノ)が、どこかの独裁エリートか、あるいは滅びゆく帝国のラスボスのごとき口調で、あたしを道連れにしようと不気味に微笑む。

 

 あたしの被害妄想回路が、この「フラれた男の逆恨み」という名の、最も非論理的なエネルギーを検知した。

 冗談じゃない!

 あたしの知性と身体は、あんたの情緒不安定な心中(バグ)に付き合ってあげるほど安くないんだからッ!

 

 あたしは、今しがた蹴り飛ばしたばかりの勇希(ユウキ)を、強引に自分の腕の中へと引き寄せた。

「あんた、黙って見てなさいなッ!」

 

 あたしは勇希(ユウキ)の襟首を掴み、その驚愕に目を見開いた唇へと、あたしの「正当な所有権」を主張する真実のキスを叩き込んだ。

 

 十一月のラボ。

 あたしの沸騰した顔面は、茅野(チノ)という名のバグを排除し、勇希(ユウキ)の心臓の鼓動という名の確かなデータを、あたしの記憶領域に深く帰結させたのよッ!


★ ◆ ★ ◆ ★


 あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)は、熱に浮かされたように呼吸を乱す勇希(ユウキ)を腕の中に閉じ込めたまま、眼前の敗残兵へと冷徹な視線を投げかけたわ。

 

「てか、おまえ……昨日の今日で、ムードもガン無視で告白するかあ? どうしたアルファロメオ?」

 あたしは呆れ返り、溜息という名の排気熱を吐き出した。

 

 あたしの拳による物理的な激励を、まさかこんな非論理的なヤンデレ・デッドヒートの燃料に変換しちゃうなんて。

 成金魔王の演算回路は、あたしの想像を絶するほどにバグまみれだったようね。

 

勇希(ユウキ)……」

 あたしは、自分の胸元で固まっているヤンデレ王子さまの、医学的には説明不能なほどに加速した心拍数を感じ取ったわ。

 

「あんた、本当はあたしの純粋な知性じゃなくて、オッパイ触りたかっただけよねえ」

 あたしは不機嫌さをバーニングさせながらも、プラズマ級に加熱した顔面を、さらに勇希(ユウキ)へと近づけたわ。

 あたしは潤んだ瞳を輝かせ、勇希(ユウキ)の震える指先を、あたしの熱い鼓動が波打つ左胸へと導いた。

 

「ち、違うんだ! 舞桜(マオ)! ぼ、僕はオッパイが大好きですッ!」

 勇希(ユウキ)の、医学的な理性すら放棄したかのような正直な告白が、ラボの空気を物理的な羞恥心で震わせた。

 

 当然の帰結よね!

 あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)の黄金比に基づいた曲線美を前にして、煩悩という名のバグを制御できる人間なんて、この地球上に存在するはずがないわッ!

 

「そうね。鷲掴みはやめて欲しいわね。医学生……」

 あたしは、プラズマ級に加熱した顔面を隠しきれないまま、勇希(ユウキ)に対して零点以下のジト目を貼り付けた。

 

 あんた、自分の欲望という名のソースコードを、これ以上ないほどストレートに展開しやがって!

 あたしの神聖な領域を、サンプリングと称して乱暴に扱うなんて、論理的な手順プロトコルを完全に無視しているじゃないの!

 

「いい、勇希(ユウキ)。あんたのその、本能という名のブラックボックスに刻まれた熱い想いは、今の正直なデバッグ報告で十分に理解したわ」

 あたしは不機嫌さをバーニングさせながらも、勇希(ユウキ)の指先を、今度は優しく、あたしの熱を帯びた膨らみへと沈み込ませた。

 

「でも、次はもっと、あたしの知性が納得するような、繊細な初期化の手順を踏みなさいなッ!」

 

 あたしは潤んだ瞳を明滅させ、隣で魂が抜けたようになっている茅野(チノ)を視界からデリートして、二人だけの非論理的な熱狂に帰結しようとしたわ。


★ ◆ ★ ◆ ★


「オッパイ! それだ!?」

 茅野が突然、啓示を受けた賢者のように叫んだが、言っていることは、地に堕ちるほど最低だ。てか、あたし女子! 配慮とかねえのか御曹司!?

 あたしは不機嫌さを極限までバーニングさせ、プラズマ級に加熱した顔面で茅野を睨みつけた。

「白井! おまえ医学部だよな? 冷えは万病の元……乳癌予防の観点から、この領域をピンポイントで温めるデバイス、需要あると思わないか!?」

 茅野が鼻息荒く身を乗り出し、勇希の肩を掴んで揺さぶった。

 勇希は一瞬、医学的な冷静さを取り戻そうとしたが、茅野の提示した「バスト・サーモ・レギュレーター」という理論に、その知的好奇心が致命的なバグを起こしたようだ。

「……確かに、脂肪組織は一度冷えると温まりにくい。それに壇中や乳根といったツボを、グルコマンナンのぷにぷにとした質感で刺激しつつ加温する……。理にかなっているよ」

 勇希が、あろうことか解剖学的な真剣さで、あたしの胸元を視覚的にスキャンしながら呟いた。

 あたしは、自分の羞恥心が臨界点を突破し、脳内回路がショートする音を聞いたわ。

「な、なにを、なにを当然の帰結みたいに語り合っているのよ、このエロ医学生と成金魔王ーッ!」

 あたしは絶叫し、勇希の手首を万力のような力で掴み、その指先をあたしの胸元から物理的に引き剥がした。

「いい、勇希! 『冷えで病気になったらつまらねえ』という大義名分を隠れ蓑にして、あんたたちの不純な欲望を、樹脂コーティングした蒟蒻粒と一緒に煮詰めているだけでしょッ!」

 あたしは沸騰した顔面を隠そうともせず、非論理的な熱量で二人を断罪した。

「大粒と小粒のハイブリッド構造で寝返りツボ押しなんて、まさに寝ている間の集団蹂躙じゃないのッ!」

 あたしは潤んだ瞳を怒らせ、次なる物理的制裁のターゲットを、茅野のニヤけた顔面にロックオンした。


「実機テストが必要だ! 女王さま!」

 茅野(チノ)万桜(マオウ)が、資本主義のバグを加速させるような不敵な笑みを浮かべ、あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)に向かって断言したわ。

 あたしは不機嫌さを極限までバーニングさせ、プラズマ級に加熱した顔面を、さらに赤く沸騰させた。

 

「おだまりなさいッ、この非論理的な変態御曹司ッ! 実機テストって、まさかあたしを検体にして、その不純な蒟蒻粒の集合体を、あたしの神聖な領域に装着させようっていうの!?」

 あたしは潤んだ瞳を激しく明滅させ、防御姿勢(ガード)を固めたわ。

 当然の帰結よねッ!

 あたしの気高い知性と肉体は、あんたたちの卑猥な発明品の「動作保証」のために存在しているわけじゃないのよ!

 

「いや、舞桜(マオ)……。医学的な観点からも、実際の装用感と血流の変化をデータ化するのは、極めて重要なプロセスだ」

 あろうことか、白井(シライ)勇希(ユウキ)までが、無機質な医学生の瞳で、あたしの胸元を学術的に凝視し始めたじゃないのッ!

 

「……舞桜(マオ)の体温分布は、僕が一番よく把握している。……その『バスト・サーモ・レギュレーター』による熱伝導の推移を、僕の指先でリアルタイムにサンプリングすれば……完璧な臨床データが取れるはずだ」

「な、なな、……なにを言っているのよぉ、このエロ医学生ーッ!」

 

 あたしの論理回路は、勇希(ユウキ)の「臨床データ」という名の、あまりにも直接的なハラスメント宣言によって致命的なオーバーフローを起こしたわ。

 あたしの羞恥心は、すでに未知の領域へと到達し、脳内リソースのすべてが「破壊」という名の単一コマンドに書き換えられていく。

 

「いい、あんたたち! あたしの清らかな領域を、そんな蒟蒻と樹脂のハイブリッド構造で蹂躙しようなんて、100万光年早いのよッ!」

 あたしは絶叫し、ラボの机の上に置いてあった分厚い物理学の参考書を、重力加速度を無視した速度で茅野(チノ)に向かって射出したわ。

 

「あー、工場長か? ちと試作を頼みたいものがあるんだが。詳細と設計はメールする」

 茅野(チノ)が、資本主義の魔王としての実行速度を最大限に発揮し、すでに受話器の向こうの工場長へと、あたしの尊厳を売り払う準備を整え始めたわ。

 

 同時に、勇希(ユウキ)が血走った目で端末を起動し、狂ったような速度で設計を詰め始める。

 あたしは、そのモニターに映し出された幾何学的な構造体を目にした瞬間、背筋に物理的な氷の柱が走るのを感じたわ。

 

 あ、あ、……ありえないわッ!

 そこに展開されていたのは、あたしの完璧な肉体をスライスして数値化した、MRIボクセルデータをもとにしたベクターデータじゃないのッ!

 

 その画面に表示される繊細な線画。

 あたしという唯一無二の個体を、誰よりもあたし自身が熟知しているその曲線を、あたしが否定できるはずもない。

 紛れもなく、あたしの「レシピ」そのものだわッ!

 

「おだまりなさいッ、このデジタルな覗き魔たちッ! あんたたち、いつの間にあたしの医療用データを、そんな卑猥な工業製品の金型データへとコンバートしたっていうのよぉーッ!」

 あたしは不機嫌さを極限までバーニングさせ、プラズマ級に加熱した顔面で絶叫したわ。

 

 これほどまでにあたしに「最適化」された設計図が用意されている以上、テストパイロットという名の生体検体役は、あたしにしか務まらないという論理的な袋小路に追い込まれている。

 

 あたしは、真っ白に塗り固められた無菌室のようなラボの光景を幻視したわ。

 そこに連れ込まれ、医学的な冷静さを装った勇希(ユウキ)の手によって、あの樹脂コーティングされた不純な蒟蒻粒を……。

 

「い、やだ、……やだぁーッ! これじゃあ、あたしが勇希(ユウキ)に、熱力学的な名目の下で徹底的に蹂躙される未来しか見えないじゃないのーッ!」

 

 あたしの気高いプライドは、茅野(チノ)勇希(ユウキ)が共謀して作り上げた「完璧なオーダーメイドの羞恥心」という名の監獄に、非論理的なまでに熱く帰結しようとしていたわ!


★ ◆ ★ ◆ ★


 あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)は、ラボの片隅で、自分の胸元に収まったその「非論理的な発明品」の感触を、極めて冷徹に再評価していたわ。

 

 ……まあ、使い心地は悪くない。

 あたしのMRIデータに基づいたベクター設計が功を奏したのか、物理学的な違和感は最小限に抑えられているわ。

 樹脂コーティングされた蒟蒻粒の流動性も、あたしの心臓の鼓動を阻害することなく、適度な熱量を維持している。

 

 変なハリもないし。うん。

 あたしの知性が導き出した「リラックス」という名の最適解に、極めて近い数値を示していると言えるんじゃない?

 

 さて、成金魔王……茅野(チノ)は?

 あたしが視線を向けると、そこには資本主義の敗北を象徴するような惨めな光景が広がっていた。

 

「な、なんでだよぉ!? 君のオッパイを守りたいんだ。の、どこがダメなんだよぉ!?」

 

 茅野(チノ)が、どこかの三流ドラマの売れない俳優のような顔をして、床に膝をついて泣いていた。

 その必死な叫びは、ラボの分厚い壁に跳ね返され、誰の心にも届くことなく霧散していく。

 

 勇希(ユウキ)は、そんな茅野(チノ)に対して、医学的な死亡診断書を読み上げるかのような、極めて冷たいジト目を貼り付けていた。

「全部」

 

 短く、そう呟いた勇希(ユウキ)の言葉は、茅野(チノ)の脆弱なメンタルを物理的に粉砕したようだ。

 

「当然の帰結よね」

 あたしも、呆れたように呟いた。

 

 プラズマ級に加熱していた顔面も、この「自業自得」という名の圧倒的な演算結果の前では、ようやく平温へと戻りつつある。

 

 いい、茅野(チノ)

 あんたのその、不純な動機を「健康維持」という名の美辞麗句でコーティングした魂胆は、あたしたちの鉄壁の論理回路の前では、ただの有害なノイズでしかないのよ!

 

 十一月のラボ。

 あたしの胸に宿った温もりは、茅野(チノ)の涙という名の余剰水分を置き去りにして、勇希(ユウキ)の「全部」という一言と共に、清々しい皮肉の中に帰結した。

 物理学において、熱伝導は常に高い方から低い方へと移動する。

 ならば、あたしのこの沸騰した羞恥心が、樹脂コーティングされた不純な蒟蒻粒を通じて、あたしの胸元へとフィードバックされるこの熱量は、一体どのようなエントロピーの増大を示しているというのかしら。

 

 「勇希……。あんた、あたしの知性をサンプリングする振りをしながら、その指先で、あたしの本能という名のブラックボックスを直接ハッキングしているじゃないのッ!」

 

 二〇一九年十一月のラボ。

 あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)の処女的な神聖さは、成金魔王の資本力と、エロ医学生の医学的執着によって、あえなく「バスト・サーモ・レギュレーター」という名の臨床データへと帰結してしまったわ。

 

 孤独な御曹司の過去を裏拳で粉砕したはずが、気づけばあたし自身が、一番「脆い部分」を勇希(ユウキ)に曝け出しているなんて。

 当然の帰結よねッ!

 

 あたしの黄金比が、デジタルな金型として誰にでも再現可能になったとしても。

 この、あたしの肌の上で脈打つ「非論理的な鼓動」だけは、どんな高精度なレシピでも書き換えられない、あたしだけの、あたしによる、……あんたのための、唯一無二のバグなんだからッ!

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