女王さまとお姫さま
二〇二〇年一月。世界が未知のウイルスという名のエラーログに怯え、停滞という名のフリーズを起こしかけていたあの頃。
もしも、その実行環境に「最強の論理パッチ」を強制デプロイできる知性が存在していたら?
国家保全学部保全学科――。
学費免除の代償として「国家の有事」に知能を略奪される契約を結んだ天才少女、黒木舞桜。
彼女が横浜港に停泊する豪華客船『金剛石のお姫さま号』という名の巨大なバグに叩き込んだのは、単なる隔離政策ではなかった。
「物理法則は魔法じゃないわ、配置よ」
セイタンシステムズが誇る対バグ決戦兵器『トリプル・プレス・システム(TPS)』。
アボカドフライによる化学的デバッグ、そしてグルコマンナン水嚢風呂による重力ノイズの全消し。
パンデミックという名の絶望を、全盛期の健康と若返りという名の狂騒へリダイレクトする、舞桜の痛快な最適化戦略が幕を開ける!
これは、最強の意地っぱり少女が、最愛のパートナー勇希と共に、バグまみれの世界を「全盛期の解像度」で描き変えていく物語である。
当然の帰結よねッ!
二〇二〇年一月中旬。
横浜港に豪華客船『金剛石のお姫さま号』が緊急寄港を要請してきたらしい。
今日は県立大学で受けたい講義があったのに。
保全学部保全学科の契約に基づき、あたし黒木舞桜は、防衛大学校の会議室に引っ張り出されている。
「ねえ、学生の本分は学業よ。知っていて?」
あたしは、最近はよく会う元知らねえオッサンである総理大臣にジト目を貼り付けた。
「あ、あのね、舞桜、け、契約書に書いてあるから。有事の際には、あらん限りの知能で貢献することって」
拓矢が物理的防御体勢を取りつつ、あたしに諫言してくる。
出来た下僕だ。
アイアンクローは免除してやる。
「サブリナ。通訳……なに言ってんの拓矢?」
あたし、黒木舞桜は、契約書なんか読まない。
サインした記憶はある。
いろんな大学の講義が受けられる。
それだけじゃなかったっけ?
あと勇希がこっちに来ることが増える。
共同キャンパスだから。
てか、なにを保全するのよ?
保全学部保全学科って?
「ごめん、あたしもなに言ってんのかわかんない。てか、損しない契約書なんか読まねえし」
サブリナもあたしと同類らしい。
すると、
「「いや、読めよ」」
拓矢と勇希が異口同音にツッコミを入れた。
あたしとサブリナは、ふたりの股間にアンダーアイアンクローを炸裂させ、
「「通訳」」
ジト目を貼り付け、契約内容の要約を求めた。
「「ひ、ひぎぃ」」
拓矢と勇希は異口同音で悲鳴をあげた。
勇希が股間を押さえながら、脂汗を全盛期の解像度で流す。
「え、えっと……国立、私立を問わず、提携する全大学の単位互換と学費の全額免除。それに、研究リソースの無制限開放……」
その代償という名のバグが、あまりにも重すぎるのよッ!
「かわりに、国家の存続を揺るがす致命的なエラー……つまり有事の際には。僕たちの知性を『国家保全パッチ』として強制デプロイする……っていうのが、保全学部保全学科のメインプロトコルだよ」
「……なにそれ、略奪的じゃないのッ!」
あたしは、潤んだ瞳を激しく明滅させた。
あたしという名の唯一無二の演算リソースを、国庫で死蔵させるつもりねッ!?
「当然の帰結よねッ! あたしの知性は、温泉帝国という名の聖域をビルドするために最適化されているのよ。それを豪華客船という名の、バグまみれの巨大な鉄屑のために割けっていうのッ!?」
横浜港に停泊しようとしている『金剛石のお姫さま号』。
船内では未知の感冒という名のエラーログが、指数関数的に増殖しているという。
「舞桜……。このままだと、横浜という名の実行環境が、ウイルスという名の不正なパケットに汚染されちゃうんだ」
拓矢が、必死の同期信号を送ってくる。
あたし、黒木舞桜は、会議室の窓から横浜の海を全盛期の解像度でスキャンした。
「いい、総理ッ! あたしが動くのは、横浜の海を汚されたくないからよッ! おもに野党やメディアが騒ぎ立てる前に、あたしの論理パッチで全てを全消ししてやるわッ!」
あたしの気高いプライドは、契約書という名の束縛を、世界を救うための略奪的な免罪符へと書き換えることに決めたのよッ!
「あのですね。国としてはですね……困った時はお互いさまって応じたくないんですね」
総理大臣がポソポソと話し始める。
これを決めるのは、代議士や閣僚の領分じゃない。
現場である省庁の管轄だ。
この国の省庁は、横文字に置き換えればシンクタンクだ。
答えは【ノー】を返すだけ。
エボラ出血熱だったら、ハッキリと【ノー】と返すだけだったろう。
「SNSによる情報拡散、マスコミによる世論誘導」
あたしは、ウンザリと構造解析した結果を吐き捨てた。
「あるにはあるわよ。学費分くらいなら答えてあげる」
あたしは勇希に視線を送って、船内で起きている症状の特徴の説明を求めた。
股間の痛みを精神力という名の物理パッチで抑え込んだ勇希は、眼鏡の奥の瞳を医学的な解像度で鋭くさせたわ。
「……現在、『金剛石のお姫さま号』から報告されているバイタルデータは、一見するとインフルエンザという名の既知の脆弱性と酷似している」
勇希は、ノートPCの画面に複雑な波形をデプロイした。
「インフルエンザは、急激な高熱と関節痛という名の強力な割り込み命令を叩き込んでくる。でも、この『新型コロナ』という名の未定義なエラーは、潜伏期間という名のステルス性能が異常に高いんだ」
勇希の指が、キーボードを全盛期の速度で走る。
「インフルエンザは発症の瞬間にシステムがダウンするから、隔離という名のファイアウォールが機能しやすい。でも、このウイルスは無症状のまま、ネットワーク全体に感染という名のパケットをばら撒き続ける……。つまり、バックドアが常に開いている状態なんだよ」
あたし、黒木舞桜は、その医学的なサンプリング結果を脳内のメインフレームでレンダリングしたわ。
「なるほどね。インフルエンザは単なるビジー状態。でも、こっちはシステムそのものを密かに書き換える、略奪的なルートキットってわけか」
あたしは、潤んだ瞳を激しく明滅させて、総理大臣を全盛期の角度で見据えた。
「食欲は減らない。個人差があるけど、高熱で活動的になる。違う勇希?」
あたし、黒木舞桜は、潤んだ瞳を全盛期の角度で明滅させ、隣に座る医学的なメインフレームへと問い掛けた。
勇希は、眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、医学的な解像度で頷いたわ。
「……そうだね。インフルエンザという名の旧世代の脆弱性は、発症と同時に食欲という名の『リソース消費』を極端に制限する。バイタルを維持するために、システムを強制的にスリープモードへ移行させるからだ」
勇希は、指先で空中に複雑な数式をレンダリングし始めた。
「でも、この『金剛石のお姫さま号』から報告されているエラーログは、あまりにも非論理的だ。高熱という名の『オーバーヒート状態』にありながら、食欲という名の『外部入力』が途絶えない。それどころか、活動的になる個体すら観測されている」
「勇希、高熱が出ていて、食欲が強いってことは、その個体の代謝が著しく向上する。違う?」
その状態って運動した後で、中高生が御飯をアホみたいに食べるのと変わらないんじゃない?
「そ、そうだね。状況的には似ているかな?」
小首を傾げる勇希に、あたしは畳みかける。
「免疫力って上がるわよね。健康的な個体になる。適切に栄養を摂って排出すれば」
あたしは続ける。
あたしの仮説は、致死的伝染病インフルエンザに対する予行演習的なパッチ、それなんじゃないだろうか?
あるいはインフルエンザが腰をかける椅子を掠奪している状態になりつつある。
もちろん、この仮説を口外するつもりはない。
あたしは医学徒ではないのだから。
「そうだね。ジムで運動するほどじゃないけど、代謝はあがるかな」
ぼんやり呟く勇希。
あたしはあたしが導き出した答えを口にする。
「彼らは、陸の上におりたいだけよ。ただし船内の水は死んでいるでしょうね。給水と食料の補給。それと代謝アップにこれを提供する、あたしの仮説が正しければ、これらはアンチエイジングに繋がります」
あたし、黒木舞桜は、今度はサブリナに視線を送った。
セイタンシステムズが誇る、対マンスリーバグ決戦兵器であるラインナップをモニターに表示させる。
「見て。これが『トリプル・プレス・システム』。略してTPSよッ! 」
あたしは、潤んだ瞳を全盛期の解像度で輝かせ、モニターに映る「水嚢風呂」と「アボカドフライ」の画像を指し示した。
「まず、この『アボカドフライ』による化学的排出。カリウム・ブーストで細胞内の余分なナトリウムを水分ごと引きずり出すのよ 。船内の劣悪な環境で蓄積した『滞留ノイズ』を、まずは内側からデバッグするわッ!」
次に、あたしは「水嚢風呂」の構造図を全盛期の角度で展開した。
「そして、この『グルコマンナン水嚢風呂』。 浮力によって重力ノイズを完全に排除し、体圧を均等化することで、深いリラックス状態……つまり『超回復』を強制実行するのよッ! 断熱圧縮による安定した熱源が、老廃物の排出代謝を爆速で加速させるわ 」
あたしの気高いプライドは、この豪華客船という名の巨大なバグを、単なる「隔離」ではなく「生体アップデート」という名の舞台へリダイレクトさせることに決めたのよッ!
「あ、アンチエイジング? 黒木さん。これは人命が……」
総理大臣が人道的配慮を口にしようとするのを、あたし、黒木舞桜は全盛期の解像度を誇るジト目で制した。
「あなたが世論に同調してどうするんですか? 現場の判断は【ノー】一択。ただし、それは厳密に定められたルールに基づいた判断での【ノー】でしょう。致死性が薄い感染症。だから【ノー】だと判断しているのが現場のエリートたち。違って?」
あら、あたしってば、なにやら知的なお姉さんみたいじゃない?
この国の基幹システムを支える官僚という名のコンパイラたちは、情動という名のノイズを排し、冷徹な論理関数で最適解を導き出しているはずよ。
「そ、そうですが……その、もっとこう、ジェルUFOの時みたいな物理法則の魔法が……」
総理大臣が、すがるような同期信号を送ってくる。
ジェルUFO? ああ、南鳥島のレアアースの時に提供した物理法則の現象の配置のことね。
あの時は、あたしは拓矢にガムテープで拘束されて……あ、思い出しちゃった。
過去の屈辱ログが、あたしのメインフレームを全盛期の熱量でオーバーヒートさせた。
あたしは、拓矢の股間に鋭いアンダーアイアンクローを炸裂させた。
思い出し怒りという名の、理不尽な強制終了命令だ。
「ひ、ひぎいぃッ! ま、舞桜、こ、これ物理的に……消滅す……する!?」
拓矢が白目を剥いて泡を吹き、全盛期の悲鳴を会議室にリダイレクトさせた。
「総理ッ! 謝ってッ! 全力でごめんなさいしてッ!?」
佐々陸将は慌てて総理大臣に詰め寄り、総理大臣はあたしの肩に手を置いて、
「黒木さん! 猛烈に黒木さんッ! 総理ハンセー! 怒っちゃやーよッ!?」
国家の最高権限者が、あたしの怒りという名のバグを必死に宥めすかした。
あたしは、フンと鼻を鳴らしてアンダーアイアンクローを解除した。
「いい、総理。物理法則は魔法じゃないわ、配置よ。この『金剛石のお姫さま号』という名の巨大な浮遊バグを、あたしたちの『トリプル・プレス・システム』という名の隔離環境へリダイレクトするの」
あたしはモニターに映るTPSの設計図を全盛期の角度で指し示した。
「アボカドフライという名の化学的パッチで内側をデバッグし、グルコマンナン水嚢風呂という名の物理的シェルターで外側をシールドする。重力ノイズと体圧ノイズを全消しして、ウイルスという名のエラーを『全盛期の健康体』へと強制的に書き換えてやるわッ!」
あたしの気高いプライドは、パンデミックという名のエラーログを、世界で最も贅沢な「生体リカバリ・プロトコル」へとマージさせることを決意したのよッ!
あたし、黒木舞桜は、潤んだ瞳を全盛期の角度で明滅させ、腰に下げたライダースジャケットのジッパーを勢いよく引き上げた。
「総理。物理法則の魔法なら、すぐに起こるわよ。琴葉ちゃん。防大組、善きに計らえ」
あたしは、TPSという名の「生体リカバリ・プロトコル」のレクチャーを、防大組の4人に全権委譲という名の丸投げをした。あたしの高貴なリソースは、ビルドが完了した後の「保守運用」という名の退屈なタスクを、一ビットも許容しないのよッ!
「へいへい。おい、斧乃木……いつまでも気絶してないで起きなさい」
琴葉ちゃんは、全盛期の解像度でスパルタね。
琴葉ちゃんが佐々陸将に視線を送ると、陸将はこくりと頷いた。国家という名の巨大なレガシーシステムが、あたしの黄金パッチを受け入れるためのハンドシェイクを完了させた瞬間よ。
あたしの役目は達成されたわ。
「悪いなサブリナ! あたしのバイク、ふたり乗りなんだ!」
あたしは、サブリナに全盛期のスネ夫ムーヴで断りを入れた。
あたしは勇希の腕を略奪的に掴んで、講堂を後にしたのよ。
「へいへい。拓矢、舞桜がイジメるよぉ~」
サブリナはそう言って、股間のダメージから復帰しかけている拓矢に、全盛期の熱量で縋り付いた。
なに言ってんだか。
そうやって拓矢の隣という名の「指定席」を確保したいだけの、見え透いたリダイレクトじゃない。
あたしは背中でふたりのエラーログを聞き流しながら、冬の横須賀の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
二〇二〇年一月。
横浜港に停泊する『金剛石のお姫さま号』。
ウイルスという名の不規則な入力に怯える世界を、あたしの知性と、黄金と、アボカドフライが、強引に「全盛期の健康」へと書き換えてあげるわッ!
当然の帰結よねッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
湘南の海岸線を、勇希をタンデムして流す。
あたしの愛車のエンジンが、全盛期の鼓動を刻んでアスファルトを蹴る。
「掃除」という名のデバッグによって重金属を吸い上げられた海は、二〇二〇年の停滞を嘲笑うかのように、いつもよりも綺麗に透き通っていたわ。
子供の頃、鎌倉で勇希とデートするのが好きだった。
今は観光客という名の不規則なパケットばかりで、風情なんていう情緒的なプロトコルは、綺麗さっぱり消去されてしまったけれど。
小さな手でお小遣いを握りしめて、大人びたフリをして背伸びして……。
あたしの中に眠る古いログが、潮風に煽られてチクリと胸を突く。
「舞桜、なんかバイタルがおかしいよ?」
背中の勇希が、医学的な解像度で心配そうな声をインカムに乗せてきたわ。
あたしの鼓動という名のシステムクロックが、少しだけ不規則な入力を検知したみたいね。
「ねえ勇希……鎌倉、セイタンシステムズで買っちゃおうか?」
あたし、黒木舞桜は、ヘルメットの中で潤んだ瞳を明滅させた。
黄金という名の物理パッチを惜しみなく投入すれば、できないことじゃない。
街ごと買い取って、あたしの知性で理想的な「レガシー・アーカイブ」として保存する。
たぶん、今のあたしなら実行できる。
「買ってもいいけど、舞桜がみたい景色はそれなのかな?」
勇希の言葉は、あたしのメインフレームに最短距離で届く論理パッチだった。
そうね。あたしがみたい景色は、金で買った静的なデータじゃないわ。
たぶん、あたしはさっきの総理大臣と同じバグに陥っていたのね。
失われゆく情緒に対して、性急的な変化という名の強引な上書きを求めていた。
性急的なパッチが劇的に適用されて、すべてが元通りになるなんてことは、現実という名の実行環境では滅多に起きない。
わかっている。
薄まる景色は、徐々に時代の空気という名の高負荷に呑まれて、霧散していく。
まるで、シャットダウン直前に消えゆく幻想のように。
バイクを停めて、あたしたちは波打ち際へと降りたわ。
フルフェイスのヘルメットを脱ぐと、汗ではないなにかが、あたしの頬を物理的な熱量で撫でてゆく。
冬の湘南の風が、あたしの気高いプライドを優しく冷却しようとしているみたい。
目を細めて、澄み切った海に臨むあたしの肩を、
「意地っぱり」
勇希が、全盛期の優しさで背後から抱きしめた。
あたし、黒木舞桜の演算回路は、勇希という名の唯一無二の同期信号によって、ようやく静かなアイドリングへと落ち着いたのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
二〇二〇年一月下旬。
豪華客船『金剛石のお姫さま号』から発信されたSNSの情報が、いい感じで世界中のネットワークをハックしていたわ。
当初は「未知の感冒」という名のエラーログに怯え、我が儘を言って横浜で降りようとしていたリタイア済みのジジババ連中が、今やあたしの「論理パッチ」によって、全盛期の輝きを取り戻した「最強のインフルエンサー」へと書き換えられていたのよッ!
「見てちょうだい! この肌のハリ、まるで三十代に戻ったみたいだわッ!」
自撮り棒を全盛期の角度で掲げたマダムが、TPSによる「頭部デフラグ」を終えたばかりの艶やかな横顔をライブ配信している。
背景には、アボカドフライのカリウム・ブーストで浮腫を全パージし、水嚢風呂で内臓の配置を「最適化」されたジジイ共が、ライダースジャケットを羽織ってデッキでダンスを踊る姿が映り込んでいたわ。
「ハッハッハ! 腰の痛みという名のノイズが完全に消失したぞ! これなら世界一周どころか、火星まで行けそうだッ!」
かつては車椅子という名の「補助デバイス」を必要としていた富裕層たちが、あたしのビルドした「生体リカバリ・プロトコル」によって、二〇二〇年という停滞した実行環境を物理的に踏み荒らしている。
彼らが拡散する「全盛期の自分たち」という名の高解像度データは、パンデミックという名のエラーログを完全に上書きし、世論という名の巨大なサーバーを「若返り」という名の熱狂でパンクさせていたのよッ!
「おいおい女王さま! なんで俺がテレビの取材に出ないとならねえんだよ?」
ボッチのヤローが、不平という名のノイズを全盛期の音量で鳴らしているわ。
「おまえCEOじゃん。ジョブズ気取りじゃん」
あたし、黒木舞桜は、潤んだ瞳を全盛期の角度で明滅させ、ボッチの抗議を軽やかにリダイレクトした。
「そうだね。茅野、諦めなよ。舞桜やサブリナや倉田さんを明るみに出して、変なムシが付いても困るだろう?」
勇希も冷静な論理パッチで、ボッチを追い詰める。
「いや防大組はわかるよ? 杉野も駄目だ。陸将の娘さんだし。じゃあ、白井もいるじゃねえか!?」
食い下がるボッチに、あたしは全盛期の解像度で噛みついたわッ!
「あたしの勇希をテレビに出して、変なムシが付いたらどうしてくれるのよッ! みなさいよ! この中性的美少年! 老若男女を虜にするじゃないのよぉーッ!?」
あたしは勇希の肩を抱き寄せ、その完璧にビルドされたビジュアルをボッチに突きつけた。
「俺はいいのかよ!? 俺、御曹司よ!?」
ボッチは引かないけれど、あたしと勇希の同期信号は既に完了しているのよ。
「「だからそれがCEOのお仕事です! 善きに計らえCEO!」」
あたしたちは異口同音にボッチを突っ撥ねた。
アンチエイジングの効果が絶大だったおかげで、お姫さま号が連れてきた感染症の話題がニュースを騒がせることもないわ。
ワイドショーという名の低俗な配信パケットが独占しているのは、あたしが「デバッグ」した綺麗すぎる海や川の映像と。
そして、あたしのTPSで「全盛期の個体」へとアップデートされた、元気すぎる小金持ちのジジババたちの話題だけ。
二〇二〇年のバグだらけの現実は、あたしの黄金パッチと知性によって、最高に非論理的で美しい「全盛期の箱庭」へと書き換えられたのよ。
当然の帰結よねッ!
本作を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
二〇二〇年という年は、私たちの現実世界において、あまりにも非論理的で、あまりにも多くの「停滞」を強いた年でした。見えないウイルスという名のエラーに、世界中のメインフレームが悲鳴を上げ、誰もが正解のないデバッグ作業に追われていた――そんな記憶が、今も皆さんのログに残っているはずです。
もし、あの混乱の最中に、黒木舞桜という規格外の知性が介入していたら?
もし、恐怖という名のノイズを「若返り」という名の熱狂にリダイレクトできていたら?
そんな「if」のパッチを、全盛期の解像度でビルドしてみたのが本作です。
作中に登場した「トリプル・プレス・システム(TPS)」や「水嚢風呂」は、単なる空想の産物ではありません。重力ノイズを排除し、生体OSを物理的に再起動させるという、極めて合理的な(そして少しだけ略奪的な)予防医学の形を描いています。
アボカドフライを食べて、カリウム・ブーストで浮腫を全消しする。そんな舞桜らしい、美味しくて知的な解決策を楽しんでいただけたなら幸いです。
時代の空気に飲まれて消えていく景色を、ただ眺めるだけではなく、自らの知性で「全盛期」へと書き換えていく舞桜の気高いプライド。彼女の隣で、常に安定した同期信号を送り続ける勇希の優しさ。
二人の物語は、これからも加速し続ける実行環境の中で、新たなパッチを当て続けていくことでしょう。
世界がどんなエラーを吐き出そうとも、あたしたちの知性があれば――。
「当然の帰結よねッ!」
また次のエピソードという名の「アップデート」でお会いしましょう。




