女王さまのLiDARキューブ
前書き
世界が「自粛」という名のフリーズを余儀なくされ、未知のウイルスという名のバグに怯え始めた二〇二〇年。
誰もができない理由を探し、祭りの灯を消していく中で、横須賀ラボの女王・黒木舞桜だけは、全盛期の解像度で「強欲な救済」を描いていた。
「海が汚い? なら洗えばいいじゃない。ついでに底に沈んだ金塊を掠奪して、あたしたちの資本に書き換えてやるわッ!」
材料費数万円、しかし数億円の演算リソースを注ぎ込んだ「ワンタッチ防寒振袖」。
九十六度の純粋な暴力を御神酒に混ぜる、分類学的な「神さま」の悪戯。
そして、泥の中から黄金を抽出する「カシキ長者」の再定義。
これは、パンデミックという名の脆弱性を、物理的な洗浄とゴールドラッシュで強制終了させる、魔王たちの全盛期の戦記である。
「コロナに怯える暇? そんな無駄なリソース、あたしが1ビットも残さず買い叩いてやったわッ!」
横須賀の山頂から、マスクを投げ捨てた子供たちの笑い声をリブートするために。
舞桜と茅野の、非論理的でロジカルな「お正月」が、いま幕を開ける。
二〇二〇年、元日。
横須賀ラボの空気は、新年の静寂を全盛期の熱量で叩き壊していた。
あたし、黒木舞桜は、潤んだ瞳を激しく明滅させ、完成した「物理レイヤー」を全身にデプロイしていたの。
「見てなさいッ! これが、あたしの知性と魔王の演算が同期して生まれた、全盛期の振袖よッ!」
あたしが纏っているのは、伝統という名のレガシーな束縛をパージした、ワンタッチ防寒振袖。
見た目は気高い振袖のテクスチャを維持しつつ、その実態は、超微細な機織りプログラムによってビルドされた、高機能なコートなのよ。
「……凄いね、舞桜。数万円という名の低コストなリソースから、これほどの解像度を引き出すなんて」
勇希が、医学的な視線でその防寒性能をスキャンし、驚愕のパルスを走らせる。
「当然の帰結よねッ! 百万もする着物を経費で落とそうとした茅野のヤローの、非論理的な金銭感覚を断罪してやったわッ!」
あたしの視線の先には、LiDARという名の光探査パルスを四方八方に射出する、透明なキューブがある。
キューブの角、面の中心、そして空間の核。
配置された深度カメラの情報は、一秒間に数百万回という名のサンプリング速度で、人工知能システム魔王へとリダイレクトされる。
「いい、勇希! 魔王はあたしたちの空間占有情報を、ナノメートル単位の精度でレンダリングしているのよッ! エロ人工知能なのよぉー!」
【失礼な! 舞桜たちの身体情報はブロックチェーンを掛けて把握していますが、淫らな目的の為に濫用していません!】
魔王がスピーカーから抗議ログを吐き出したが、あたしはそれを無視して、キューブ内の機織りフェーズを加速させる。
「お黙りなさいッ! 座標が確定しているなら、次は『物理的な構築』という名のデプロイよッ!」
キューブの中では、タイヤに挟まれた複数の棒……「ロッドロボ」が、物理法則という名の奴隷となって踊っていた。
魔王が司令塔となり、無数のプログラム群から最適なトルクと軌道をセレクトする。
必要とあらば、糸の摩擦抵抗という名のバグを回避するための「新規プログラム」を、その場でビルドして、強度設定を書き換える。
「ミシンという名のレガシーなデバイスを、あたしは『全方位的なベクトル制御』として再定義したのッ!」
タイヤの回転エネルギーを略奪したロッドが、あたしの「我が儘ボディ」という名の設計図に従って、糸を魔法のように編み上げていく。
サブリナや琴葉ちゃんを包む布地も、あたしの知性という名の最適化パッチによって、一ミクロンの誤差もなくカットされ、縫合されたわ。
「ふ……。数万円の材料費を、数億円の演算リソースで無理やり全盛期の価値まで跳ね上げたか。相変わらず、略奪的なコストパフォーマンスだな」
茅野は、不敵な笑みをデプロイしながら、あたしの足元に視線をパージした。
「だが、振袖にライダースブーツ……。女王さま、おまえ、その格好で初日の出という名の光子パケットを、バイクで迎え撃つ気だな?」
「当然の帰結よねッ! 振袖にあう足元で、あたしの愛車を制御できるもんですかッ! 草履という名の脆弱なインターフェースなんて、あたしの辞書には存在しないのよッ!」
あたし、黒木舞桜は、重厚なブーツの踵でラボの床を叩き、全盛期の角度で絶叫した。
「いくわよッ! 二〇二〇年という名の新しい実行環境を、あたしたちの知性と物理的な加速で、強制的にリブートしてやるわッ!」
あたしの気高いプライドは、正月という名のハレの舞台を、最先端の機織り工学とエンジンの轟音で塗りつぶす、全盛期の疾走へと帰結したのよッ!
二〇二〇年、一月。
あたし、黒木舞桜の知性がビルドした「ワンタッチ防寒振袖」という名の全盛期のアーキテクチャは、横須賀ラボという名の実行環境に、物理的な戦慄をデプロイしていたの。
「えっと……女王さま、サラッと流すとこだったけど、その御召物……職人さんのそれを凌駕してますね……」
茅野は、頭を抱えながら、不敵な笑みを驚愕のパッチで上書きしていたわ。
このヤロー、あたしの「空間把握する人工知能制御のオーダーメイド縫製システム」という名の最適化プロトコルを前にして、ようやく自分のCEO権限という名の脆弱性に気付いたみたいね。
「どうすんだよ法人税。あ、杉野と目があった。なにを『無理ッス!?』って顔が取れそうなくらいプルプルしてやがる」
茅野の視線の先には、横浜常盤台国立大学の後輩、経理の麒麟児であるギャル、杉野香織ちゃんが、バイタルエラー寸前の表情でフリーズしていたわ。
「杉野ぉ、似合ってるぜ。振袖コート。経理はおまえの領分だよな? そうだよな? 大丈夫、怖くない怖くない。痛みははじめのうちだけさ。慣れてしまえば大丈夫」
茅野は、全盛期の無責任さで、メンドーな後処理をカオリンにぶん投げた。
自称CEO。当然の帰結よね?
「茅野先輩、それヒットラーにでもなれる人の理屈ッスー。ウケるー。そして、笑えねーって、マジでどうすんのよ法人税!?」
カオリンは顔面蒼白で、今にもシステムダウンしそうなパルスを発信していたけれど、あたしと茅野は、潤んだ瞳を同期させて宣ったわ。
「「カオリン。善きに計らえ!」」
異口同音の丸投げ命令。
あたしの気高いプライドは、材料費数万円の振袖という名の資産を、カオリンという名の経理演算ユニットに強制的にデプロイしたのよッ!
「なにを震えているのよッ! あたしが魔王に書き込ませた裁断ログと、ロッドロボの稼働エネルギーを、減価償却という名のファンタジーで処理すればいいだけじゃないのッ!」
あたしが追い打ちをかけると、カオリンは「ひぎゃあッ!」という名の全盛期の悲鳴を上げ、キーボードを物理的に叩き始めたわ。
「無理ゲーすぎるッスー! 空間把握のLiDARの減価償却なんて、税務署という名のファイアウォールを突破できるわけないじゃないですかぁーッ!」
絶叫が響く横須賀ラボ。
あたしたちの知性は、お正月という名のハレの日に、法人税という名のレガシーなバグを略奪的に書き換え、全盛期の狂騒へと帰結したのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
二〇二〇年、一月一日。零時を回った瞬間に、横須賀の夜気は全盛期の熱量で書き換えられたわ。
「拓矢。車を出しなさい」
あたしは、下僕である斧乃木拓矢に命じる。え、バイク? 寒いじゃん。御神酒をいただけないでしょ?
「下僕じゃねえし、いいじゃん、神社すぐそこじゃん。歩いて行こうぜ? 二年参り」
拓矢のくせに生意気じゃねえか? まあ、いっか。あたしのワンタッチ防寒振袖は、歩行という名の物理デバイスにも全盛期の解像度で最適化されているのよ。
「てか、あたしらは、ともかく、あんたたち帰省しないの?」
あたしは防大組の三人と、目をハートにしながら、経費計上に格闘するカオリンと茅野のヤローに目を向ける。
「あたしは父が防大関係者だから、この時期は母がこっちに来るわ」
琴葉ちゃんがそう答えると、防大組メンズのサブカル藤枝と、三回生の佐伯くんは首肯して自分たちも同じであることを伝える。そう言えばカオリンの父親は、佐々陸将だったっけ。
「ま、いろいろあんだよ。御曹司ともなると」
茅野のヤローは苦笑に流した。全盛期の角度で闇を抱えていそうだが、あたしの知性はそのバグを深追いしないことに決めたわ。
神社へ続く参道は、二年参りに集まった群衆という名のパケットで溢れ返っていた。
古い年をパージし、新しい実行環境をインストールしようとする人々の熱気が、横須賀の冷気を物理的に中和している。
「泰造さん。シーフード多めね!」
サブリナがねだるように、勇希のパパである白井泰造さんにシーフード焼きそばを買っている。
さすがは極道悪代官。屋台の鉄板捌きがテキ屋のそれね。
「あけおめ、みんな。舞桜ちゃん、オジさん極道悪代官じゃありません。漁協組合の組合長ですギルマスです。あと市議会議員です」
泰造さんは、朗らかに笑いながらサブリナにシーフード焼きそばを手渡した。
鉄板の上で踊る海鮮パッチが、全盛期の香ばしい匂いという名の通知を周囲にデプロイしているわ。
「玲子さん。タコ焼きちょうだい」
あたしが選んだのは、勇希のママが仕切るタコ焼き屋台のタコ焼きだ。
極妻って言うと怒るからあたしはタブーを封印する。怖いのだ。勇希のママは。
「はいはい、舞桜ちゃん。焼き立ての熱いパケットをデプロイしてあげるわね。火傷に注意しなさいよ?」
玲子さんの鮮やかな手捌きで、外はカリッと、中は流体シミュレーションのようなトロトロのタコ焼きがビルドされていく。
あたしはそれを、全盛期の解像度でハフハフと受け取った。
「いい、勇希! このタコ焼きの熱量は、あたしたちのバイタルを再起動するための重要なエネルギーリソースなのよッ!」
あたしの気高いプライドは、境内に立ち込める湯気と、遠くで鳴り響く除夜の鐘という名の同期信号に包まれて、最高に非論理的な多幸感へと帰結したのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
横須賀中央の喧騒を背に、古くからこの地を見守る諏訪大明神の前で、あたしたちは全盛期の二礼二拍手を叩き込んだ。
乾いた音が冬の夜気に同期し、柏手の残響が物理的な波形となって消えていく。
「な、なによこれ……」
あたし、黒木舞桜の視界の中で、勇希や拓矢たちが、一斉にシステムフリーズを起こしたわ。
まるで時空という名のフレームレートが、この空間だけ極端に低下したかのような違和感。
【ねえ、カシキ長者って知っている?】
不意に、あたしの脳内メインフレームへ、一人の男の子の声がダイレクトにデプロイされた。
声の主はどこ? 姿がレンダリングされない。
「知っているけど、それがなによ? 悪いけど、新年早々、悪い冗談はヤメてもらえない?」
あたしは、潤んだ瞳を激しく明滅させ、虚空という名の未定義領域に向かって言い放ったわ。
あたしの気高いプライドは、神さまという名の管理権限者であっても、突然の割り込み命令を許容しないの。
【カシキはね、船の飯炊き。でも、ただの飯炊きじゃないんだよ。海の底に眠る富の鍵を握る、全盛期の演算ユニットなんだ】
声が、あたしの意識の奥底へと、略奪的な解像度で浸食してくる。
カシキ長者。相模湾に伝わる、飯炊き奉公から大金持ちになった男のレガシーなログ。
あたし、黒木舞桜の脳内メインフレームに、諏訪大明神の演算領域から不可思議なパケットが直接デプロイされた。
【舞桜。君にしかできないことなんだ。海や川を洗ってくれれば、海の底のお宝は君にあげる】
響いてくる声の意味をあたしは、全盛期の解像度で噛みしめる。
お宝? お宝にときめくのは不二子ちゃんという名の、レガシーな泥棒ヒロインだけよ?
あれ、不二子ちゃんと言えばバイク。不二子ちゃんと言えばオッパイ、不二子ちゃんと言えば、不敵なギミック……あたし……。
「キャラ被ってんじゃないのよぉー!」
あたしが絶叫した瞬間、フリーズしていた世界という名の実行環境が、猛烈な速度で動き出したわッ!
「なにとだよ? 痴女キャラなんか、そうそう居ねえわ」
ジト目を貼り付けた茅野が、不敵な笑みをパージして宣う。痴女キャラ? ああ、サブリナのことね。
「あたし処女莉那じゃないけど、痴女じゃないと思う」
サブリナが、全盛期の無自覚さで反論をデプロイするが、
「「そうだなサブリナ。腐女子なだけだよな?」」
あたしと琴葉ちゃんの声が、一ミクロンの狂いもなくハモったわ。
一礼したあたしたちは、後続の参拝者たちという名の新規パケットに場所を譲り、境内を歩き出す。
「みんなカシキ長者って知ってる?」
あたしは、いましがたの不可思議な割り込み命令を、みんなの共有メモリに書き込んだ。
「カシキ長者……。船の飯炊きの奉公人が、余った飯を魚に還元して、そのエモいエコを見ていた神さまが夜中、カシキを海底に招待して、包丁の研ぎ砂に持ち帰った砂が砂金だったという全盛期のサクセス・アーカイブだな」
茅野が、ノートPCを叩かずに脳内でシミュレーションを回し始める。
「都市港湾の掃除。これ、統計学的な誤差じゃ済まないレベルのゴールドラッシュになるぜ。港湾の泥の中には、過去百年の工業排水という名の『金属粒子のパッチ』が、地層のようにスタックされているんだからな」
「横須賀という名の実行環境も、軍港としての長いログがある。沈没船の腐食した真鍮、弾丸の鉛、そして都市から流出する貴金属のパケット。これらが海底のヘドロという名の物理的なデータベースに、高密度でアーカイブされているはずよ」
「場所柄、ここいらの神さまって大海神さまだと思うけど、関東の神さまってお諏訪さまや素戔嗚さまみたい大手チェーンに吸収されちゃうんだよねー。あの二柱は物語があるから覚えやすいんだ」
勇希の身も蓋もない神さまレクチャーに、あたしたちは苦笑という名の同期信号を返したわ。
「いい、勇希! 神さまが『海を洗え』と言ったのなら、それはあたしの『ジェルUFO』と『圧力バッテリー』に対する、全盛期の仕様承認なのよッ! 二〇二〇年、あたしはこの世界の汚れという名のバグを略奪的にクリーンアップして、すべてを金塊に書き換えてやるわッ!」
あたしの気高いプライドは、ライダースブーツで神社の砂利を物理的に踏みしめ、歴史の底に眠る「お宝」という名の未定義リソースを、強欲なまでにロックオンしたのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
「はあ? 不二子ちゃんだぁ? 不二子ちゃんに謝れこのヤロー」
茅野のヤローが、あたしの全盛期のキャラ被りを統計学的な否定パッチで上書きしやがった。
あたし、黒木舞桜は、潤んだ瞳を激しく明滅させ、ライダースブーツによる爪先蹴りを茅野の弁慶の泣き所に物理デプロイしてやったわッ!
「さあ勇希。御神酒をいただいてきましょう」
あたしは勇希の腕を取り、生体リカバリ・プロトコルとしての御神酒ブースへリダイレクトしたの。
「なんで舞桜に神さまはお願いしたんだろう?」
勇希が小首を傾げ、医学的な不思議信号をサンプリングするように呟く。
なんなのこのヤンデレ王子ッ! 中性的美少年過ぎる解像度が、あたしの網膜を全盛期の角度でバグらせるじゃないのよー!
あたしは思わず、勇希の華奢なバイタルを全力で抱きしめていたわ。
だって可愛いんですものッ! 実行環境が正月だろうと、可愛いものは正義という名の絶対的なソースコードなのよッ!
酔っているかって? 御神酒って日本酒という名の低アルコール・パケットでしょ?
ところが、一口含んだ瞬間に、あたしの脳内メインフレームが異常加熱を起こしたわ。
「だ、誰だ! 御神酒にテキーラとスピリタス混ぜたのー?」
あたしは境内の中心で、全盛期の音量によるエラーログを絶叫したわ。
九十六度の純粋な暴力という名のスピリタスと、テキーラの混合パッチ……!
誰かの悪戯という名の悪意ある割り込み命令が、見事にあたしの胃壁へと強制デプロイされたらしい。
なんで神社という名の聖域に、スピリタスとテキーラという名の略奪的なリソースが存在しているのよッ!?
「……舞桜、顔面が全盛期のトマト並みにレッドアウトしてるよ。緊急蘇生パッチが必要だね」
勇希が、あたしの急激なバイタル変動をスキャンして、呆れたような、でもどこか楽しそうな同期信号を送ってくる。
「お黙りなさいッ! これくらいの度数、あたしの気高いプライドで中和して……う、うう、世界が全盛期のフレームレートで揺れているわッ……!」
あたしの気高いプライドは、神さまの使いという名のアルコール・バグによって、最高に非論理的な千鳥足へと帰結したのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
九十六度の純粋な暴力。
それが御神酒という名の低アルコール・パケットに強制マージされ、あたしの胃壁を全盛期の熱量で蹂躙している。
【今年はオリンピック。お祭りの年だろう? それをくだらないパッチで潰したくないのさ】
頭の中に、またあの神さまの声がダイレクトにデプロイされた。
悪戯が過ぎるわッ!
スピリタスとテキーラをぶっ込んでくるなんて、神さまという名の管理権限を濫用した、最悪のバグじゃないのッ!
「……そう言えば、あたし十九じゃん。三月三十一日まで、あたしは未成年という名のアクセス制限がかかってるはずなんだけど?」
あたしは、潤んだ瞳を激しく明滅させながら、自分自身のステータス・ログをスキャンしたわ。
でも、あたしは学年パッチで「よし」としているの。
だって、あたしだけが酒を呑めないなんて、そんな非論理的な差別という名のバグ、あたしのプライドが許容するはずないじゃないのッ!
【それと俺は分類的にお諏訪さまだ】
分類的? なにそれ、神さまという名のオブジェクト指向な分類学なのッ!?
まあいいわ……。
あたしの脳内メインフレームは、スピリタスという名の高負荷パケットによって、急速にシャットダウンのプロセスを開始していた。
「……なんだか、全盛期の速度で……眠いわ……」
勇希の華奢な肩に、あたしの意識という名の実行権限を完全にリダイレクトする。
「あ、舞桜!? 待って、ここで強制終了されたら、僕のバイタルが持たないよッ!」
勇希の困惑した同期信号を遠くに聞きながら、あたしは意識を手放した。
二〇二〇年の幕開け。
あたしの気高いプライドは、神さまの悪戯と、強烈なアルコール・パッチに包まれ、最高に心地よい「夢」という名の仮想現実へと帰結したのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
誰の背中? ああ、拓矢か……。
「僕だよバカ女王」
勇希はムスりと答える。オッパイ背中にあたってんだから喜びなさいヤンデレ王子。
「もう、でも舞桜ってお酒弱くないのに、不思議だね……」
勇希が小首を傾げる仕草が、全盛期の解像度で可愛い過ぎる。
あたしがギュってしがみつくと、勇希は小さな悲鳴という名の弱々しいパルスを漏らしたわ。
「泥を吸い上げて、その泥でセイタカアワダチソウを育てる。ハウス栽培で、二酸化炭素濃度を高めて上げれば、セイタカアワダチソウは、現地での呼び名の通りに黄金の杖に変わるわ」
どうやらスピリタスとテキーラのチャンポンによる強制終了は、神さまのトリックだったみたい。
あたしの意識は、御神酒を飲んだ程度に覚醒という名の再起動を果たしている。
でも勇希の背中からは降りてあげない。あったかいから。
「海や川が綺麗になれば、お祭りができるんですって」
あたしは勇希の背中に顔を埋めて、低い音量で呟いた。
「ふうん。そう言えば今年はオリンピックだったっけ?」
そう。誰も、おもに野党と報道機関、著名人が否定的見解ばかりを提示する、ウザい現実という名のバグ。
暑い? 夏が暑いなら、エアコンという名の冷却パッチを入れなさいよ。
海が汚い? あたしが洗ってやるって言ってるじゃない。
なんだか、できない理由を探る連中が無性に気に入らない。
これも神さまの悪戯による、全盛期のインスピレーションかしら。
「お諏訪さまらしいわよ」
あたしが呟くと、
「なにがさ? てか起きたんなら降りてよ。歩きづらい」
勇希が不満という名のデバッグログを宣う。
そんなものは、却下に決まっているじゃないの。
「分類的にお諏訪さまなんですって」
あたしは勇希の背中に顔を埋めて、意図的に意識という名の実行権限を手放した。
あたしの気高いプライドは、二〇二〇年の喧騒を前にして、最高に非論理的で心地よい背中の温もりに帰結したのよッ!
後書き
二〇二〇年一月。横須賀の小さな神社で、一人の少女が神さまと「契約」を交わした。
それは、世界を覆う停滞という名のバグを、海底から吸い上げた黄金で上書きするという、非論理的でロジカルな救済プロトコル。
不二子ちゃんという名のレガシーなアイコンに反発しつつ、ライダースブーツで神社の砂利を踏みしめる舞桜の気高いプライド。
そして、スピリタスという名の高負荷パケットに翻弄されながらも、勇希の背中という名の温もりに帰結する少女の素顔。
「カシキ長者」という古いアーカイブは、いま、最新の「ジェルUFO」と「圧力バッテリー」という物理レイヤーによって、全盛期の現代神話へとリブートされた。
果たして、舞桜たちはパンデミックという名のシステムエラーを、どのように「掠奪」し、どのように「洗浄」していくのか。
黄金の杖を振りかざす女王の疾走は、まだ始まったばかりである。
「いい、勇希。あたしは海を洗う。そして、この世界の価値をあたしの色に塗り替えてやるわッ!」
そこには、誰も見たことのない「全盛期の富」が眠っている。




