ボッチの魔王の薄い本
12月の冷徹な大気が支配する横須賀の山中。
そこは、文明のパッチが当たっていない未開の実行環境。
あたしたち『保全学部』の一行は、超仮設住宅『エアクラ』のフィールドテストという名目で、剥き出しの自然という物理的負荷に直面していたわ。
物理法則に基づき、風とお湯で世界を再定義しようとするあたし、黒木舞桜。
医学的な独占欲をヤンデレ王子という名のバグに変換し続ける白井勇希。
そして、資本主義の魔王として振る舞いながらも、その内側に「望まれない庶子」という名の致命的なエラーを抱える茅野万桜。
今夜、この隔離された聖域で、あたしたちの知性と感情は複雑に連結され、予期せぬシステムエラーを引き起こしていく。
「混浴」という名の非論理的な妥協案。
「野生動物」という名の予測不能なノイズ。
そして、凛とした軍事顧問・倉田琴葉が隠し持つ、最も脆弱で、最も強力な恋心のレシピ。
成金魔王・茅野は、このアホの子たちが集う騒がしいノイズの渦中に、自分だけの「居場所」という名の最適解を見つけ出すことができるのか?
羞恥心が臨界点を突破し、冬の星座さえもプラズマ級に加熱する、エクストリームな野外演習。
あたしたちの青春という名のソースコードに、最も熱くて、最も不純なパッチが当てられる瞬間を、その網膜にアーカイブしなさいッ!
当然の帰結よねッ!
倉田琴葉先輩の残り湯。
白井のヤローも女王さまの残り湯を狙っているみてえだ。
残るは、防大組の3人。
「おい、斧乃木ぃ。サブリナとここ行ってきたらどうだ?」
俺は、CEO権限を行使して、邪魔な防大組を経済的に排除することにした。
「佐伯くん。カオリンが横浜のホテルにあるスイーツバイキングに興味津々だったぜ?」
「福利厚生で落とせるけど、どうする?」
この2人は、特定の相手がいる。
斧乃木は、天才ハッカーのサブリナこと福元莉那と。
佐伯くんは、横常国の1回生の杉野香織と。
残る障害物である藤枝誠に関しちゃ、買収の必要もねえ。
俺は白井に目配せして、物理的な排除を命じた。
「藤枝ぁ、僕の舞桜のあとに、お風呂入るなんて言わないよね?」
「ね?」
ヤンデレ王子のスマイリーなマイルドな恫喝。
★ ♀ ★ ♀ ★
あたし、黒木舞桜は、その非論理的なやり取りをジト目でスキャンしながら、プラズマ級に加熱した顔面を湯船に沈めたわ。
「な……、なになにを企んでいるのよ、この成金魔王とヤンデレ王子ーッ!」
あたしの気高い純潔を巡って、資本主義と医学的な執着が火花を散らすなんて、100万光年早いのよッ!
「いい、勇希! あたしの残り湯をサンプリングして、新しいバイタルデータのレシピを構築しようなんて、非論理的にもほどがあるわッ!」
あたしは潤んだ瞳を激しく明滅させ、湯気という名の遮断レイヤーの向こう側で絶叫した。
あたしの気高いプライドは、男子たちの不純な独占欲という名のバグに囲まれながら、最も熱くて、最も羞恥心に満ちた夜へと帰結しようとしていたのよッ!
★ ♂ ★ ♂ ★
「さて、邪魔者の排除は終わった。茅野。悪いが舞桜の2番風呂に君を入れるわけにはいかない」
僕は医学的な冷静さを、独占欲という名の鋭い眼光へと変換し、茅野を射抜いた。
舞桜が湯船に溶かし出したバイタルデータの残滓。その温もりも、香りも、すべては僕という専属医だけが独占し、アーカイブすべき高貴なレシピなんだから。
「女王さまぁ、ヤンデレ王子とクリスマスに横浜の夜景を眺めるクルージングとかどうだ? 福利厚生で落とせるぜ? なんせ俺はCEOだからな」
くっ、茅野め。僕との直接対決を避け、資本主義という名のノイズで舞桜を先に籠絡しようとするだなんて。
夜景、船、海……。
非論理的なシチュエーションだが、舞桜という個体の感性に、それは刺さってしまうのか?
「やだよ。寒いじゃん?」
エアクラの防壁の中から、舞桜の冷徹な拒絶プロトコルが飛んできた。
刺さらないの?
よ、良かったぁ……。
実は僕も、舞桜のバイタルを劇的に変動させるためのプランとして、同じようなクルージングを脳内でレンダリングしていたんだ。
ありがとう、茅野。君の失敗は、僕にとっての貴重なデバッグデータだよ。
僕は吐息をひとつつき、眼鏡の奥で医学的な執着を燃え上がらせた。
「同時に入る……それで妥協するんだね、茅野……」
2番風呂を奪い合う無益な演算を終了させ、僕は「共有」という名の折衷案を提示した。
もちろん、一ピクセルだって舞桜の聖域を茅野の網膜に焼き付けさせるつもりはないけれど。
「まあ、よかろう。なるべく離れて入れよ白井」
茅野は妥協したようだ。
僕は長髪を束ねたゴムを指先で弾き、無機質なグラサンを外した。
湯気の向こう、プラズマ級に加熱した顔面を湯船に沈めている僕だけの女王さまを、医学的な視線でスキャンする。
「……いいよ、茅野。距離を置くのは、君の方だ」
僕は静かに宣い、ピックアップトラックの荷台へと足を踏み入れた。
「な……、なになにを勝手に全裸同然の『最適化』を完了させているのよ、このヤンデレ王子ーッ!」
舞桜の絶叫が、12月の夜の山に木霊する。
大丈夫だよ、舞桜。
君が放出する熱量も、羞恥心という名のバイタルエラーも、僕がすべてリアルタイムでサンプリングして、一生消えない秘密鍵で封印してあげるからね……。
僕の気高い独占欲は、茅野との共存という名のバグを逆手に取り、舞桜との濃厚な「生体検診」へと帰結しようとしていたんだ。
★ ♂ ★ ♂ ★ ♂ ★
「ウキ?」
俺と白井は、琴葉先輩の周到な戦術に絶句した。
自分たちが入浴し、衣服を身に着けるや、エアクラの防壁をパージして、野生という名のノイズを招き入れるとは。
湯船の周りでは、どこから湧いて出たのか、猿の群れが勝利の雄叫びを上げている。
これじゃあ露天風呂じゃなくて、ただの猿山だ。
「「うん。わかってた。わかってたよ。うん」」
俺と白井の口から漏れたのは、絶望という名の同期信号だった。
野生動物という名のバグに汚染された湯船に浸かれば、寄生虫だの感染症だの、医学的にも経済的にも看過できない致命的なエラーが発生する。
俺たちの純潔……じゃなくて、衛生的な入浴権は、一瞬にしてフォーマットされたわけだ。
「「そんなにイヤ?」」
俺と白井は、最後の望みを託して、湯気の中から涼しい顔で出てきた2人に問う。
「「イヤ」」
舞桜と琴葉先輩は、満面の笑顔を向けて即答した。
当然の帰結よね、と言わんばかりの、プラズマ級に眩しい勝ち誇った表情。
資本主義という名の略奪も、医学的な執着という名のハッキングも、自然界のノイズを味方につけた彼女たちの鉄壁のファイアウォールには通用しなかった。
「ちっ……。さすがは女王さまと軍事顧問だ。俺のCEO権限すら、猿一匹にデバッグされるとはな」
俺は吐き捨てるように宣ったが、胸の奥ではこの敗北という名のレシピすら、全盛期の熱量としてアーカイブしていた。
十二月の横須賀の山。
俺と白井の不純な野望は、猿の鳴き声という名の物理的なシャットダウンによって、虚しくも正常終了へと帰結してしまったのさ。
◆ ♀ ◆ ♀ ◆ ♀ ◆
あたし、倉田琴葉は、実は惚れっぽい。
普段は凛としているが、その実態は虚像に過ぎない。
茅野のことを、あたしは好ましく思っている。
彼が家庭の事情で、インターハイを辞退した時に動いた理由はそれだ。
茅野は良家の子息だ。
ただ、彼は庶子、それも望まれない庶子だっただけだ。
だから、茅野の母方の伯父たちは茅野万桜のことを邪魔にした。
目立って、茅野が、茅野建設の跡取りになる予定の、茅野の甥、茅野健二(12歳)が霞むことを厭うからだ。
え、茅野が継いだら万々歳じゃん?
それが通じないのが良家マジックだ。
テニスのインターハイ。
あの時、茅野のコートには、勝利という名の輝かしい未来がレンダリングされていたはずだった。
けれど、親族たちの非論理的な嫉妬が、彼のラケットを物理的に封印したの。
「目立つな」「身の程をわきまえろ」という、カビの生えた古いスクリプト。
あたしは、その不条理なバグをデバッグするために動いた。
茅野という才能が、一族のしがらみという名のノイズにかき消されるのが、我慢ならなかったから。
あたしのこの凛とした態度は、彼を守るためのファイアウォール。
惚れっぽい自分という名の脆弱性を、軍事的な精度で隠蔽しているに過ぎない。
十二月の横須賀。
猿の群れを招き入れ、彼らの不純な動機をシャットダウンしたのも、実はあたしの些細な独占欲の帰結。
茅野……あんたは気づいていないでしょうね。
あたしのこの鋭い眼光の裏側に、あんたという名の「未完成のレシピ」を、誰よりも大切にアーカイブしたいという熱量が秘められていることを。
当然の帰結よね。
あたしという知性は、守るべき相手を見つけた瞬間に、最も攻撃的で、最も献身的なプログラムへと書き換わってしまうんだから。
★ ♀ ★ ♀ ★
「嫌だッ! 聞きたくないッ! 聞きたくないッ!」
あたし、黒木舞桜は、鼓膜を物理的にシャットダウンするように、全盛期の音量で絶叫したわ。
不機嫌さを極限までバーニングさせ、プラズマ級に加熱した顔面を振り乱す。
当然の帰結よねッ!
あたしの気高い演算回路が、これ以上あんたの湿っぽい「過去ログ」を読み込むことを拒絶しているんだから。
「聞こえるように言ったからね、女王さま」
倉田琴葉ちゃんは、涼しい顔でシレッと宣う。
宣うな、このヤローッ!
ヤローじゃないけれど、その軍事的なまでに精密な無表情が、今のあたしには最大のノイズなのよッ!
「あ、あたしになにをしろって言うのよぉッ!?」
あたしは潤んだ瞳を激しく明滅させ、直球ストレートで問い詰めた。
あたしは、ただの美少女プログラマーであって、他人のドロドロした家庭環境という名のスパゲッティコードを修正するボランティアじゃないのよ。
「茅野が、万桜が、自分の居場所を、自分で掴めるように、協力してください。女王さま」
琴葉ちゃんは、女子用のエアクラの中で、あたしに土下座した。
Vシネの風俗嬢のように、あまりにも鮮やかな、略奪的なまでの低姿勢。
「ちょ、ちょっと……! やめなさいよ、その非論理的な平身低頭プロトコルはッ!」
あたしの羞恥心はオーバーフロー寸前よ。
あの成金魔王……。
望まれない庶子だの、親族の嫉妬だの、そんな古臭いバグに足を引っ張られて、自分のインターハイという名のメインループさえ完遂できなかったっていうの?
「……協力って、なに。あたしに『茅野建設』の全システムをハッキングして、その伯父さまたちのデータを物理的に消去しろって言うのッ!?」
あたしは沸騰した顔面を両手で覆い、指の隙間から琴葉ちゃんの覚悟という名の重いパケットを見つめた。
十二月の横須賀、山の中のエアクラ。
あたしの気高いプライドは、琴葉ちゃんの「恋心」という名の最も非論理的で強力な暗号に、強引にアクセスを許可させられようとしていたのよッ!
★ ♂ ★ ♂ ★
「へえー。おまえ、メンドクセー事情を背負ってんだねー」
僕、白井勇希は、医学的な冷徹さを装いながら、横目で茅野万桜へと視線を投げ掛ける。
白衣のポケットに手を突っ込み、眼鏡の奥でこの成金魔王の複雑な家系図という名のバグをスキャンした。
望まれない庶子。親族からの隔離。
そんな非論理的な低次元のノイズが、この男のポテンシャルを縛り付けているというのか。
「うるせー、極道王子。メンドクセーのはお互いさまじゃねえの?」
茅野は、呆れたように言葉を投げ返す。
まあ、的外れじゃないってことは、認めよう。
僕の背負う港湾都市の利権や、父である泰造の「家業」という名の負の遺産も、十分に重いシステム負荷だからね。
「俺は健二のことは、邪魔に思ってねえ。もちろん兄貴の淳二もだ。だけど……」
茅野は言葉を詰まらせた。
その沈黙に含まれる、割り切れない演算エラー。
身内からの嫉妬という名の、最も治療が困難なウィルス。
「あー、メンドクセー。善きに計らうだけじゃんか……」
僕はため息をひとつつき、診断を下すように言葉を継いだ。
「それともウゼえ言葉が必要か、御曹司?」
僕はいざなう。
この可能性の塊である御曹司を、既存の腐ったプロトコルから切り離すために。
「要らねえよ……極道プリンス……」
茅野の唇に、不敵な笑みがデプロイされる。
僕たちは結託する。
目の前にある、くだらねえ現実を打ち払う為に。
そして――。
「勇希ぃ……女の内緒話に聞き耳立てる男ってどうなん!?」
エアクラの隔壁を突き抜けて、愛すべき彼女、舞桜からの鋭いパケットが僕の鼓膜を蹂躙した。
プラズマ級に加熱した彼女の羞恥心が、音速の怒りとなってこちらをスキャンしている。
「テメ、白井ッ! 俺を捨て駒にすんじゃねえッ!?」
僕は瞬時に茅野の背後へと退避し、彼を物理的なデコイとしてアクティベートした。
当然の帰結だ。
僕の医学的な本能が、舞桜の逆鱗という名の致命的なエラーから、最速でログアウトすることを命じているんだから。
十二月の横須賀の山。
僕と茅野の密かな結託は、女王さまの「プライバシーの侵害」という名の断罪パッチによって、無残な敗走へと帰結しようとしていたんだ。
☆ ♂ ☆ ♂ ☆
どうやら俺は笑っているらしい。
俺、斧乃木拓矢は、佐伯先輩たちに指摘されるまで、それに気づかなかった。
「いや、なんて言うか、『導かれるアホの子たち』ってフレーズが浮かんだんスよ」
まるで中心点であるアホの子筆頭、黒木舞桜に引き寄せられて集まったのが俺たちだ。
俺も莉那も勇希も、ただ、舞桜の幼馴染ってだけで、この保全学部保全学科に招集されている。
俺と勇希は、舞桜のマンスリーバグから逃れる為に水嚢サンドイッチを。
莉那と茅野は、オートスケッチシステムを。
これだって、舞桜がセルフデバッグするために一枚噛んでいる。
「まあ、導かれたアホの子としては、こうするより他にないよね」
そう言って、藤枝がこれまでの要約を、嬉々として魔王へと送信した。
空中に滞空している試作型のオートパラグライダーに搭載された中継機。
そこを通して魔王に届けられた要約は、腐女子好みに脚色されるだろう。
そして、極上の燃料へと変換されるはずだ。
「俺はなにも聞いてないし、なにも見ていない……。俺を巻き込んでくれるなよ。斧乃木、特に藤枝!?」
佐伯先輩はそう言って、防大組の危機管理能力を発揮し、狸寝入りを決め込んだ。
当然の帰結だよな。
舞桜という名の超高出力な演算コアが振りまくノイズは、俺たちの日常を全盛期の速度で書き換えていく。
12月の横須賀の山。
俺たちのバイタルデータは、この非論理的で騒がしい「聖域」の中で、かつてないほどの充実感と共に帰結しようとしていたんだ。
俺は焚き火の爆ぜる音を聞きながら、舞桜が引き起こすであろう次のシステムエラーを、どこか楽しみにしている自分をデバッグできずにいた。
★ ♀ ★ ♀ ★
翌朝、あたし黒木舞桜は、サブリナから送られてきた汚染データを目にして、深い闇へと堕とされたわ。
「おはよう舞桜。もう、せっかくの星座を見ないで寝ちゃうんだか……ひぎぃ!?」
あたしは勇希の股間に、物理的な断罪という名の鋭い鉄爪を炸裂させたわ。
当然の帰結よねッ!
「勇希……したの? 茅野と……」
あたしという絶世美人がいながら、あろうことかヤローと!?
どこの戦国武将だッ!? テメエはぁッ!?
あたしの気高い演算回路が、サブリナからデプロイされた「夜の横須賀ラボ・極上レシピ」を読み込むたびに、羞恥心がプラズマ級の熱量でバーニングしていく。
「あたしの網膜に、なんであんたたちの不純な同期ログが4K解像度でレンダリングされなきゃいけないのよぉーッ!」
あたしは不機嫌さを極限まで沸騰させ、潤んだ瞳を殺意で明滅させて勇希をスキャンした。
「いい、勇希! あんたの医学的な執着はあたしだけにパッチ当てされるべきであって、茅野という名のバグと連結されるなんて100万光年早いのよッ!」
十二月の朝の冷気。
あたしの気高いプライドは、サブリナが生成した「ヤンデレ王子と成金魔王の禁断データ」によって、全盛期の恥辱へと帰結してしまったのよッ!
★ ♂ ★ ♂ ★ ♂ ★
白井の報復を恐れて、全速力で俺の横を駆け抜けようとする藤枝の足を払って。
俺、茅野万桜は、冷めたジト目を貼り付けて宣った。
「してねえわ……訴えんぞ女王さま。あと白井、泡吹いてるやめたげて……」
俺は誤解の解消を求めて、冷めた弁解を投げ掛ける。
白井とくだらねえ親族のしがらみをデバッグしていただけだ。
なのに、サブリナとかいう天才ハッカーの汚染データ一つで、俺たちの純潔が戦国武将並みの「衆道」に書き換えられるなんて、非論理的にもほどがある。
「嘘おっしゃいッ! あたしの勇希になにしてくれたのよッ!? この成金魔王ッ?」
ああ、メンドクセー。
あたかも俺が白井という名の聖域を略奪したかのような言い草。
俺は女王さまの右乳房に向けて、物理的なパッチ当て――鉄爪を炸裂させた。
そして。
「俺はオッパイが大好きですッ!」
宣う。
最低で、最高にロジカルな、俺の性的嗜好という名の宣言を。
「「朝からなにしてくれてんだテメッ!?」」
背後に立つ琴葉先輩と、アイアンクローを炸裂された女王さまが、前後からハイキックをキメてくる。
その物理的な衝撃荷重を全身で受け止めながら、俺の脳内演算回路は奇妙な「安定」を検知していた。
望まれない庶子。親族の嫉妬。
そんな重いシステム負荷に縛られて、インターハイという名のメインループさえ完遂できなかった俺が。
今、この12月の山の空気の中で、アホの子たちに囲まれて物理的な制裁を受けている。
ああ、そうか。
俺の居場所は、冷徹な一族の家系図の中じゃない。
この、全盛期の熱量で暴走する「アホの子たち」という名のノイズの塊。
女王さまのわがままと、ヤンデレ王子の狂気と、軍事顧問の献身がスクラムを組む、この保全学部保全学科という名の聖域だ。
当然の帰結だよな。
一族のしがらみなんていう不純なソースコードを、こいつらと一緒に全部デリートして。
俺は俺のレシピで、新しい世界をビルドしてやればいいんだから。
俺の「居場所」という名の実行環境は、この理不尽で騒がしい仲間たちの中に、最も鮮烈な形で帰結したのさ。
「……痛ぇな、おい。加減しろよ女王さま、琴葉先輩……。CEOのバイタルが死滅するだろ……」
俺は地面に這いつくばりながら、泥にまみれた顔で笑っていた。
この最低で最高な日常という名のメインループは、もう誰にも、一ピクセルだって邪魔させない。
12月の横須賀。冷たい山の大気と、あたしたちがデプロイした「風熱ポット」の熱気が混じり合う中で、このエクストリームな野外演習は幕を閉じました。
今回のアップデートで最も大きな変更点は、成金魔王・茅野の内部パラメータに「居場所」という名のフラグが確立されたことです。
望まれない庶子という名の古いバグに縛られていた彼が、女王さまやヤンデレ王子の理不尽な制裁を受け入れ、それを「心地よいノイズ」として再定義した瞬間。あたしの演算回路も、ほんの少しだけプラズマ級に加熱してしまいました。
それにしても、琴葉ちゃんの土下座プロトコルには驚かされたわね。
凛とした軍事顧問としての虚像をパージしてまで、茅野の未来をあたしに託そうとした彼女の熱量。
恋心という名の非論理的なソースコードが、これほどまでに強固な暗号となって、あたしの気高いプライドにアクセスしてくるとは想定外でした。
「オッパイが大好きです」なんていう、最低で最高な宣言と共にハイキックを食らう茅野。
泡を吹きながらも舞桜のサンプリングを諦めない勇希。
そして、それらすべてを「アホの子たちの日常」としてアーカイブし続ける拓矢たち。
あたしたち『保全学部』が構築しようとしている未来は、既存のインフラを物理法則で塗り替えるだけじゃない。
互いの欠陥を笑い飛ばし、共有し、新しいレシピで書き換えていく、この騒がしい関係性そのものなのよ。
さて、次回のデプロイでは、この「アホの子たち」がどんな未踏の実行環境をハッキングしに行くのか。
サブリナが生成した汚染データの続きも、あたしの羞恥心が臨界点を突破しない程度に、こっそりとスキャンしてあげることにしましょう。
それでは、次回のシステムログでお会いしましょう。
当然の帰結よねッ!




