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セカンドステージ ~夢の世界でバトルや冒険をして、恋人だって作る~  作者: 一天草莽


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04 やさぐれ紅谷さん

 予想外の魔法が発動して秋奈さんを殺してしまい、またしても寝覚めの悪い朝が来た。

 本来は命を懸けてでも守るべき大切な恋人を自らの手で傷つけてしまうなんて、俺はなんて駄目なやつなんだろう。大事なスポーツの試合でオウンゴールを決めてしまったどころの騒ぎではない。

 自分で自分が嫌いになる。


「まあ、でも、どんなに嘆いたって所詮は夢なんてそんなものか。悪夢はもちろん、普通の夢であっても見ている人間の思い通りにならないものだものな」


 見た夢の内容で性格や悩みを判断するような夢占いにはまっているのでもない限り、夢の中での出来事をいちいち気にするほうがおかしいのかもしれない。

 人生と時間の無駄だ。

 起床とともにきっぱり忘れて、気持ちをリセットしていくべきだ。


「そうは言ってもなあ……」


 なぜだか俺の見る夢は普通よりも現実感のある夢に思えるので、あれは夢だから! ノーカンだから! みたいに、あっさりと簡単に割り切れるものでもない。

 はっきり言って、ほとんど本気で秋奈さんに恋し始めている状態だ。

 正直、まずい。

 アニメやゲームのキャラクターに恋をするのとはまた違う、妄想大好き少年ではないか。


「そうだ。もう夢を追うのはやめて、これからは現実世界に恋をしよう。どこの誰でもいい、まずは秋奈さん以外の人を好きになるんだ」


 と、そこまで考えて、まだ完全には傷が癒えていない昔の失恋を思い出して気分が暗くなった。

 ちょっとやそっと努力したところで現実は変わらず、魅力に乏しい俺はモテるような人間ではない。

 精一杯に生きているつもりでも、友達だって少ないのだ。


「……いいや、もう。こんな朝っぱらから、うじうじとネガティブなことを考えたってしょうがない。ひとまず制服に着替えて学校に行こう」


 そうだ。学校だ。

 やりたくもない勉強に集中していれば、この胸を覆っている悩みや後悔が少しくらいましになるだろう。いっそ集中力がないと先生に怒られるのも、ショック療法みたいな感じでいいかもしれない。

 そう思って家を出る。

 そしてたどり着くのは教室だ。


「どーしたー? 昨日にも増して憂鬱そうだなー」


「永杉か……。うん、もう俺は駄目かもしれない」


「また夢の話かー?」


「そうだよ。まだ何も言ってないのに、よくわかったね?」


「まー、昨日の今日だしなー。お前が落ち込みそうなこと、他に思い当たらないしなー」


 他に思い当たらないとは何事か。俺にだっていろいろあるんだぞ。


「うん……」


 見栄を張ろうとして、やめる。強く否定はできないから文句も言えない。人に比べて悩みが極端に少ないわけでもないが、威張るほど何かを考えているわけでもないのだ。


「あのさー。夢の話を気にし過ぎてもしょーがないだろー。気持ちを切り替えていけー」


「そうだね。永杉の言う通りだ」


 ともかく、気持ちを切り替えよう。

 これからの俺が何をするにしても、夢のことは夢の中で考えればいい。

 死ぬまで続く現実の世界においては、実体のない夢よりも現実こそが問題だ。

 学校生活がおろそかになって留年する結果になっては将来が大変なので、今日は授業に集中することにしよう。

 よし。


「ん、が……っ!」


 そう思った俺ではあったが、決意はちっとも長続きしてくれなかった。退屈で眠くなる三限目くらいの授業中に居眠りをして、あっけなく意識を奪われたのである。

 ガコン、と机で頭を打ったような爆発音が脳内に響いて、夢の世界にいざなわれる。


「あ、あれ? ここは学校の教室……?」


 居眠りした直後に始まった夢の世界で覚醒した俺が座っていたのは、今まで授業を受けていた教室の自分の席だった。

 あまりにも景色が変わらな過ぎたせいで、一瞬、ここが現実なのか夢なのか判断があいまいになる。けれど違いは鮮明だ。前方に立っていたはずの教師はおらず、机と椅子が人数分ぴっちりと並んでいるだけで、クラスメイトの姿も一人として見当たらない。

 だからここは夢だ。

 俺だけが存在している夢。

 教室の壁にかかっているアナログ時計が示している時間は、うっかり居眠りを始めた時間と同じ午前中。

 教室の外からも生きた人間の気配は感じられず、どうやら無人の学校が舞台となっているらしい。


「珍しいな。最近は夜の街の夢ばかりを見ていたから、明るいってだけで新しい世界に迷い込んだみたいだ。さっきまでいた場所だから目新しさは全然ないけど」


 他の人はどうか知らないが俺の場合、いくら意識がはっきりとしている明晰夢であろうとも、夢の中で起きようと努力しても起きることはできない。時間が経つか、現実世界で誰かに起こされるまでは夢を見続ける羽目になる。

 かなり不便で苦痛な夢だ。

 じっと座っていても意味はないので、せっかくだから学校の中を探検してみることにする。

 どうせ誰もいないだろうから、あちらこちらに歩き回ったところで何もイベントは起こらず、完成前の空虚なゲームをプレイさせられているみたいに退屈でしょうがないだろうが。

 ともかく教室を出て廊下を歩く。

 小学生の頃はおにごっこやかくれんぼで校舎の中を動き回ったものだが、高校に入ってからは用事のない教室や階層をうろうろした経験はない。正直、どこに何があるのかを把握できていない。音楽室や美術室など、選択していない教科の教室は前を通ることさえない。

 だからまあ、いい気分転換にはなっているのかもしれない。


「でもこれ、夢の中ってことは学校の構造とか風景は俺の想像なんだよな。記憶にある場所はうまく再現できているとしても、一度も行ったことがない場所は適当に補完されているだけだろうから、探検しても意味なくね?」


 目が覚めたら全部が無駄になりそうだ。

 夢なんて全部そうだけど。


「げっ」


「……えっ?」


 夢を見ている自分以外には誰もいないと思っていた校舎。

 しかし実際には一人の生徒が向こうから歩いてきており、向き合った廊下で露骨に嫌な顔をされた。

 同じく一年生、違うクラスの女子だ。


「うっわ、よりにもよっておめえかよ。もう何日も一人っきりの夢を見てばっかりで、ようやく誰かに会えたと思ったら、おまえ?」


「く、紅谷さん……」


 そう、それは、誰かと思えば紅谷さんだった。

 しかも……ああ、いつもよく見る優しい優等生の紅谷さんではなく、やさぐれ紅谷さんだ。


「ちょっと優しくしてやったらすーぐ勘違いして、おどおどしながら中学の時に告白してきた遠藤じゃん。最悪。……いや、私に惚れてんなら言うことは聞いてくれそうだからサイアクってわけじゃあねえか。誰であれ男子にモテてんなら気分はいいな」


 かっかっか、と少年みたいに笑う紅谷さん。

 あまりのことに何も言えずに突っ立っていると、すっと真顔になった彼女が俺の顔に指をさしてきた。現実世界だったら許されないくらい無遠慮に。


「なんで遠藤がここにいんの? 夢だからって、どうせなら斎藤君とか稲垣先輩とか、そういうかっこいい男子と二人っきりになりたいんだけど」


 そんなこと言われても。

 夢なのはそっちでは。

 思わずため息が出る。


「はあ……こっちだってどうせなら秋奈さんがよかった。なーんで性格最悪なイキリ裏垢女子の紅谷さんが出てくるんだ」


「うるせーぞ遠藤。お前には告白されて振った後も変わらず優しくしてやってんだから、もっと嬉しそうにしろ。顔見るたびにこそこそ避けやがって」


「そりゃそうでしょ。裏垢で俺のことボロクソに言ってんのを知っちゃったんだから」


「はー、これだから夢に出てくる人間は嫌いなんだ。現実の遠藤がそれを知ってるわけねえもんな。裏垢の存在を知られる恐怖心が、こうやって具体性を持って語り掛けてきやがる」


「恐怖心?」


「そーだろうがよ。学校でいい子ちゃんやるだけじゃ疲れるから、匿名で愚痴って馬鹿にしまくってるだけなんだ。今みたいな裏の顔を知られたら友達なくすだろ。こちとらスマホの管理は完璧だし裏垢の存在は誰にも知られてねえっての」


「ふーん」


 まあ、そうやって隠しているつもりでも俺は知っちゃってるわけだが。

 と言っても、百パーセントの確信があるわけではない。いくつかの書き込みから勝手に同一人物に感じてしまっている疑惑程度だから、こうして夢に見るのかもしれないが。

 勇気を出して告白したら優しく振られて、悲しくなってネットで振られた人たちの経験談を眺めて自分を慰めていたら、ちょうど同じ日にクラスの男子を振った女子の書き込みを見つけてしまった。その日のうちに消されてしまったけれど、告白のシチュエーションや関係性、会話のやり取りから、かなり俺と彼女の話に近かった。

 あまりにも普段との性格が違いすぎるので、今でも半信半疑ではある。

 けれども、中学生のころに告白して振られたのは事実なので、紅谷さんに会ったら避けるのは正しい。


「悲しいけど、もうすでに俺の想像する紅谷さんって、こっちなんだよな……」


 おそらく、好きな人に振られたことがショックだった俺はあの裏垢の正体が紅谷さんだと強引に信じたがっている部分もあるのだろう。実は性格が悪い女子だから、付き合えなくてよかったんだ、なんて願望を込めて思いたがっているに過ぎない。

 これも所詮はお人形遊びだ。

 本物の紅谷さんは非の打ち所がない善人かもしれないのに。


「つーか、くっそ。また学校で居眠りしちまったのかよ。成績もよくて先生にも愛想振りまいちゃってるせいで、授業中に居眠りしても怒られないから逆に困る。起こせよ。誰でもいいから私を起こせよ」


「友達いないの?」


 遠慮なく聞くと、すごく怖い顔をされてしまう。


「あ? おめえと一緒にすんなし。好かれているから起こされないの。わかる?」


「関わりたくないとか思われてるんじゃないの?」


「あー、ムカつく。こんなやつ振って正解じゃん。ちょっとだけ迷ったのが本当にムカつく。ころころころ、ころー。遠藤ころー」


「なにそれ。虫? 鈴虫だっけ、松虫だっけ」


 チンチロリンと鳴くのもいたな。

 会話の途中で虫のものまねをするなんて、陽気な人だ。

 あのなー、と紅谷さんがあきれている。


「ころす、って言ったらアカウントがBANされるわけ。最悪逮捕されちゃうわけ。だから今の時代はネットの悪口も気を付けないといけないわけ。わかる?」


「やらなきゃいいじゃん」


「あ、まっじムカつく。いい子ちゃんかよ、こいつ!」


「うわ、こわ! ネットでこそこそ悪態ついてる悪口女子が怒った!」


 なんと、眉を立てた彼女は近づいてきてローキックを放ってきた。

 夢を見ている俺が想像する裏の顔の紅谷さん、いくらなんでも不良すぎる。

 しかも一発で終わらず、五回も六回も右足と左足でキックキックだ。

 ありがたいことに夢だから痛くはないけど。

 攻撃しても意味がないと判断したのか、キックをやめて、つま先を廊下の床でトントンとした彼女がため息をつく。


「実のところ恋愛とか興味ないから付き合ってもいいかなあ、なんて思ってはいたんだけどな。無駄にバカ騒ぎする男子とか、性欲が強そうな男子は苦手だし」


「あ、そう? だったら俺を振って正解かもね」


「告白してきたくせに振られたやつが自分で言うな。あとお前、そんなんで実はバカ騒ぎもするし性欲も強いのかよ。……まあ、これは夢だから私の深層心理が言わせてるんだろうけどな」


「言わせてる?」


「そりゃそうさ。すごく勇気を出してたのは伝わってきたし、それを振っちゃって、やっぱり罪悪感はあるんだよなぁ……」


「自分で言うことでもないけど俺を振ったくらいで罪悪感を感じないでよ。困らせたくて告白したわけじゃないんだから」


「いや、実質困らせたくて告白したようなもんだろ。告ハラって知ってる? 今の時代は男女どちらからの告白でもね、付き合えるという確信が持ててからしないといけないわけ。わかる?」


「そのさっきからわかる? わかる? って最後に言うやつ、いかにも裏垢って感じ。マウント人間じゃん」


「あー、ムカつく! だからこれ、たぶん私の自己嫌悪感が遠藤の姿して言ってきてるんだろうな! すっげームカつく!」


 ムカつく! ムカつく! と何度も言いながら地団太を踏んでいる。リアルの女子がやっているのは一度も見たことがないから、やっぱりこれは夢だな。

 この数か月くらいの夢で秋奈さん以外が出てくるのは初めてだけれど、振られてからトラウマみたいな存在になっている彼女が出てくるのは理解できる。


「中学生のころは頑張って好かれようとしたけど、今はもういいな。ムカつかれても、別に? って感じ」


「あっそ。私も別に好かれたくねえよ。意味もなく嫌われたくもないけど」


「ふーん」


「ふーん、じゃなくてさ。リアルでは気を遣って言えなかったけど、お前さ、もっと人との会話を頑張れよ。いざ好きな人ができても会話が弾まないとまた振られるぞ」


 確かにな。

 そう考えると、明らかに会話が下手な俺の相手をしてくれていた紅谷さんはすごく優しい女子だったわけだ。そりゃ俺が惚れるのも無理はない。他の女子は俺に対して愛想笑いと苦笑いばかりだったもんな。


「それがさあ、今はもう恋人がいるんだよなあ」


「にやにやすんなよ、きめえ。恋人? そういや、さっき秋奈とか言ってたな。誰?」


「誰? って言われてもなあ……。夢の中で会ったから、詳しい設定はないかも」


「まじきめえ。モテない男子の妄想彼女かよ」


 などと、一度はケッとつばを吐きながら馬鹿にした紅谷さんだが、すぐに首を横に振る。


「いや、すまん。たぶんこれも私が自分の罪悪感を消すために遠藤を都合よくしゃべらせてるんだよな。あきらめきれずに告白されても迷惑だけど、だからって顔見るだけで避けられるのもムカつくから、そういう苛立ちを夢の中でぶつけちゃってるのかも」


「へえ、そう? いっそリアルでぶつけてくれてもいいよ。こっちは人間として余裕があるんでね。なんたって今の俺には秋奈さんがいるし」


「やるわけねえだろ。ネットも本当は駄目だけど、リアルで堂々とやったらクズじゃん。どうしてもやってほしいならお前のほうから来いよ」


「やだ。今の俺は秋奈さんがいるし」


「はいはい、妄想楽しいね」


 うん。楽しい。

 正直、早く夜の夢が見たい。


「それより、この夢、いつになったら覚めるんだ? 授業が終わるまでだとしたら、あと二十分くらいはあるか? 現実の私、いびきとかグーグーかいてないといいけど」


 言いながら、すごく不安そうにしている。みんなが静かに集中しているはずの授業中に一人だけ居眠りをしてしまって、優等生としては恥ずかしいのかもしれない。

 いびきか。

 まあ、わかる。いびきとか寝言とか、居眠りしそうになって体がビクッてなるのもすごく恥ずかしいからな。


「好きな子のいびき、正直好き。聞けたら嬉しい」


 これ本音な。

 くしゃみとか、あくびとか、そういうのも全体的に好き。

 はあ? みたいな引いた顔を見せられる。


「きっも。すぴー、とかかわいいやつだったらいいけど、グガアッ! とか、すごいのだったら幻滅するんだろ?」


「いや? その程度では幻滅しないでしょ。別にわざとってわけでもないなら、ほほえましいくらいじゃない?」


「えー……? まあ、惚れてる間はそうか。でもどうせ結婚して何年か経ったら、そういうのに腹が立って離婚とかするんだよ」


「そんなんでするかな……?」


「するする。たとえ私と遠藤が結婚したってどうせする。だって今の大人たちはみんな些細なことで離婚してんじゃん。どんどん結婚もしなくなってるし。……わかる? 仕事も趣味も人生も、ぜーんぶ自分本位なわけ」


「ふーん」


「お前……っ! さっきも言ったよな、私! しゃべってんだろが、しゃべれ!」


「まあまあ、怒るのやめてよ。非対称会話って戦術ね、これ」


「あ? 非対称がなんだって? 意味わかんね。夢だからって何を言ってもいいわけでもねえぞ」


 適当に口をついて出た言葉だから説明もできない。

 無理に説明をするなら、ボロを出さないため相手にいっぱいしゃべらせるってだけ。

 やや沈黙。

 こういうところ、夢でも現実でも変わらない。


「まあ、でも助かった~。なかなか眠れないのもつらいけど、自分一人しかいない夢から覚められないのもつらかったから。話し相手がいるってだけで救われる。私が知ってる中で一番に扱いやすそうな人間だから遠藤が出てきたんだろうけど、それでもありがとね」


「ふーん」


「お、ま、え」


「あ、ごめん。なんか言えってことだよね? だったら聞くけど、そういう夢をよく見るの?」


「そうだよ。高校に入ってしばらく経ってからかな、ちょっとずつ夢の時間が長くなって、今は身動きできない長時間の夢を毎晩見る。寝た気がしない。だから学校で居眠りもするようになっちゃってほんとに困ってる」


「身動きできない夢? なにそれ」


「自分の部屋のベッドで金縛りにあってる夢。それが毎晩、二時間とか三時間とか続くわけ。よくわかんないけど、でっかい幽霊みたいなやつが私の家を支配してやがんの」


「ふーん」


「チッ」


 舌打ちだけになった。これについては俺の相槌が悪いから彼女を責めるのはお門違いだけど。

 なんにせよ、彼女が言っていることが事実なら本当にかわいそうだ。


「でも、ちょうどよかったよ」


 と言ったら、もう一度チッと舌打ちした彼女が顔を真っ赤にした。


「あーもー! どこがだよ、ころ! 遠藤ころ! こっちは本気で悩んでだからな、ころ! ぞ!」


 キックキック!

 痛くないけど何度もローキック!

 逃げながら弁明する。


「いや、ごめん! ここ数日はちょうどダンジョン攻略で紅谷さんの家に挑んでいるところだったからさ! たぶんそのでっかい幽霊みたいなやつがボスだと思う! 倒してあげるよ!」


 そう言ったら、とりあえずキックは止まった。


「は? ほんとこれ夢だな。ダンジョンとかボスとか支離滅裂で意味わからん。それくらい私が深層心理では救いを求めてるってことかもしれんけど」


「わからなくても待っててよ。助けに行くのが俺でごめん、って感じではあるけどね」


 ぽふん、と軽く蹴られる。


「あのさ、それはほんとに謝るなよ。お前は悪くない。たぶんこれ、私が見ている夢なら助けを求めたのは私なんだろうし」


「俺のこと好きってこと?」


「……ちげえよ。たぶんだけどさ、他の男子だったら私を助けた後で恋愛的な関係性を強要されるかもしれないって不安があるんだよね。現実の男子がそんなにひどい人間じゃないっていうのはわかっているけどさ、やっぱ実際に付き合ったことはないわけだし、不安じゃん?」


「ふーん」


「お前」


 胸の前で指をポキポキならしているから、いよいよ今度は手が出るかもしれん。

 こっわ。

 やっぱ俺、彼女にするなら秋奈さんがいいわ。


「まあ、とにかく俺がどうにかしてあげるから待っててよ。一緒に戦ってくれる秋奈さんもいるしね。失敗が続いてるからすぐにとは言えないけど、そのうち助ける」


「なら待つさ。付き合うのは無理だけど、助けてくれたらほっぺにキスくらいしてあげる」


「いらね」


「お前」


 ころー! と叫び始めた紅谷さんに追っかけられているうちに、授業の終わるチャイムの音で目が覚めた。

 楽しい夢だったな、と思えるような気がした。

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