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追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ~なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが?~  作者: 月城 友麻


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55. 衝撃の根性比べ

「何よ、やるの……?」


 シアンは極上カルビをもぐもぐと味わいながら、挑発的な笑みを浮かべ――――。


 ブワッ!とシルバーのボディースーツに包まれた体から、鮮烈な青いオーラを放つ。

 上位神の持つ、圧倒的な力。


 魔王対、大天使――。


 二つのオーラがぶつかり合い、部屋の空気がビリビリと振動する。

 テーブルの上の皿がカタカタと踊り始めた。


「あわわわ……」「ひぃぃぃ……」


 誠もレヴィアも自分の皿とジョッキを持ち上げて退避する。


 二人の気迫が最高潮に達した瞬間――――。


「やめなさい!」


 美奈の鋭い一喝と同時に、


 ピシャーン!!


 天井から黄金色の稲妻が二本、まっすぐに落ちてきた。


「ごはぁ……」「ふへぇ……」


 魔王も大天使も、等しく感電の洗礼を受ける。

 髪の毛が逆立ち、全身から煙を吐きながら、二人同時に椅子へとへたり込んだ。


「全く! 子供じゃないんだから!」


 美奈は呆れたようにため息をつき、手にしたジョッキをグイッと傾ける。

 琥珀色の液体が、喉を潤していく。


「あぁっ! ゼノさぁん……大丈夫?」


 シャーロットは慌てて、煤だらけになったゼノヴィアスの顔を覗き込んだ。


 そっと手に取ったおしぼりで、彼の頬についた煤を優しく拭き取っていく。

 その手つきには隠し切れない愛情がこもっている。


「う、うむ……大丈夫だ……」


 ゼノヴィアスの頬が、ほんのりと赤く染まった。


「喧嘩するなら、飲み比べでもしてなさい!」


 美奈がふんっと鼻を鳴らし、ジト目で二人を睨みつける。


「の、飲み比べ!?」


 ゼノヴィアスがゴホゴホと煙を吐きながら、首筋を押さえ、身を乗り出す。


「こ奴と?」


「おーう、いいんじゃないの?」


 シアンは電撃のダメージなどなかったかのように、ガタン!と勢いよく立ち上がった。


「じゃあ、一杯目!」


 振り返りざま、サイドテーブルからビールのピッチャーをガシッと掴む。


 そして――――。


 ゴクゴクゴクゴク!


 まるで砂漠で水を見つけた旅人のように、豪快に飲み始めた。


「は……?」「こやつ……正気か?」


 シャーロットとゼノヴィアスは、揃って唖然とする。


 シアンの華奢な体。細い喉。

 なのに、二リットルはあろうかというピッチャーの中身が、見る見るうちに減っていき――。


「ぷはぁっ!」


 あっという間に飲み干したシアンは、盛大にげっぷをする。

 口元を手の甲で拭いながら、挑発的な視線をゼノヴィアスに投げかけた。


「どうよ、魔王さん? ビビっちゃった?」


 煽るような口調。

 だが、その瞳には子供のような無邪気な遊び心が宿っている。


「ふんっ! 誰がビビるものか!」


 ゼノヴィアスのプライドに、火がついた。


 ガシッとピッチャーを掴むと、負けじと傾ける。


 ゴクゴクゴクゴク!


 五百年生きた魔王の意地とプライドをかけて、一気に飲み干していく――――。

 冷たい液体が、喉を駆け下りていった。


「あぁっ! ゼノさん! 無理しないで!」


 シャーロットが心配そうに、彼の袖を引っ張る。


 でも、ゼノヴィアスはもう止まらない。

 愛する人の前で、負けるわけにはいかないのだ。


 ぷはぁ!


 ニヤリと笑うゼノヴィアスは飲み干したピッチャーを逆さまにして、一滴も残っていないことを見せつける。


 しかし、シアンはにやりと笑い返すと二杯目を飲み始め――あっという間に空にしていく。


 くっ!


 負けじとゼノヴィアスも二杯目に挑戦――――。


 ぷはぁ!!


「どうだ! 我も捨てたものではなかろう!」


 少し息が上がっているが、胸を張って宣言する。


「いいね! 本気になってきたじゃん!」


 シアンの瞳が、きらりと光った。


 パチン!


 指を鳴らすと――――。


 ボン! ボン! ボン!


 まるで手品のように、隣のテーブルがビールのピッチャーで埋め尽くされた。

 二十杯はあるだろうか――膨大な量の黄金色の液体が、美味そうな泡をまとい、きらめいている。


「今夜は楽しくなりそうだね? きゃははは!」


 シアンは楽しそうに笑った。


 ゼノヴィアスは真顔になり、隣のシャーロットと目を合わせた。

 その瞳には、明らかに「助けて」と書いてある。


「ゼノさん……無理しないで……」


 シャーロットは心配そうに彼の顔を見つめる。


 ゼノヴィアスのほほがピクッと動いた。


 魔王としてシャーロットを心配させてしまった時点で半分負けである。


 瞳が急に真剣になった。


 そして、大きく息をつくと――――。


「勝ったら……」


 声が震える。


「妃に……なってくれるか?」


 深紅の瞳が、懇願するようにシャーロットを見つめる。

 人生をかけた想いが、その視線に込められていた。


「え?」


 シャーロットは一瞬だけ瞳を見開き、そして――。


「嫌ですけど?」


 氷のように冷たい声で、あっさりと切り捨てた。

 そして無表情のまま、手元のウーロン茶をすする。



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