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追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ~なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが?~  作者: 月城 友麻


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54. 二人の門出

「い、いいんですか?」


 シャーロットの声が震えた。

 瞳から涙が溢れ出す。


「よ、良かったぁ……」


 全身から力が抜ける。


 長い、長い戦いが終わったのだ――――。


「その代わり……」


 美奈の琥珀色の瞳が、まるで魂を見透かすようにシャーロットを貫く。


「自分の地球は、自分で管理しな!」


「へっ!? か、管理ですか!?」


 予想外の条件に、シャーロットは目を丸くした。


 地球を管理? システムも分からない自分に、そんな大それたことが――。


「そ、そんな……私にできるわけが……」


「『できない』じゃ済まないわよ」


 美奈はダン!とジョッキをテーブルにたたきつける。


「復活させるのはいいけど、誰かが管理しなければならないのよ? 地球は放っておけば回るようなもんじゃないわ」


 確かにそうだ。万界管制局(セントラル)の仕事の様子を見て来た自分にはその大切さが良くわかっている。


「わ、分かりました」


 シャーロットは震える声で答えた。


「仕方ないですよね……やるしかない……」


 ここで断る選択肢など、あるはずもない。

 たとえ無理難題でも、受け入れるしかない。


「分かんないことはレヴィアに聞いて」


「へ? わ、我ですか!?」


「文句……あるの?」


 美奈は琥珀色の光をギラリと光らせる。


「そ、そんなことないです! やらせていただきます!」


 レヴィアはガタン!と立ち上がると、冷や汗を流しながら直立不動で敬礼をした。


「うむ、よろしい。それでも……一人じゃ大変よね?」


 視線が、ゼノヴィアスへと移る。


「魔王も協力してやって!」


「へっ!?」


 ゼノヴィアスがビールを吹き出しそうになった。


「わ、我もですか……?」


 目を白黒させながら、シャーロットと美奈を交互に見る。


「当然でしょ」


 美奈はニヤリと笑った。


「だって、シャーロットが辛い目に遭うのは嫌でしょ? あんたも」


「そ、それは……そう……だな。分かった!」


 ゼノヴィアスはうなずいた。


 だが、困惑した顔でシャーロットを見つめる。


「でも、『地球の管理』って……何?」


 その無邪気な質問に、シャーロットは苦笑いを浮かべた。


「後で……後で説明するわ」


 大きく息をつく。


 システムの知識ゼロ。

 プログラミングも分からない。

 そんな自分たちが、一つの世界を管理する。


 レヴィアがいたとしても途方もない話だ。


 でも、シャーロットは顔を上げた。


「二人で……何とかやってみます」


 ゼノヴィアスと目が合う。

 彼も戸惑っていたが、優しく頷いてくれた。


 ぺこりと、二人揃って頭を下げる。


「うむ、よろしい!」


 美奈は満足そうに頷いた。


「細かいことは後でレヴィアに聞きな。とりあえず今日は……」


 ジョッキを高く掲げる。


「祝杯ね!」


 全員がジョッキを手に取る。


「シャーロットの大活躍と、新管理人二人の門出に……カンパーイ!」


「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」


 ガチガチガチッとジョッキのぶつかる音が部屋に響き渡った――――。


 シャーロットは、ちらりとゼノヴィアスの横顔を見つめる。


 大丈夫――――。


 二人でなら、きっと何とかなる。


 新しい挑戦が始まろうとしていた。




       ◇



「それで……」


 シャーロットはゼノヴィアスに寄り添いながら、そっと小声で尋ねた。


「さっきは何を……揉めてたの?」


「あっ、そうだ!」


 ゼノヴィアスが憤慨したように声を張り上げる。


「こ奴が我の肉を盗ったのだ!」


 震える指先で、極上カルビがジュージューと音を立てている焼き網を指差す。

 表面には美しい焼き色がつき、脂が宝石のように輝いている。


「何を人聞きの悪い」


 シアンは涼しい顔で肩をすくめた。碧い瞳には悪戯っぽい光が踊っている。


「こんなの早い者勝ちに決まってんじゃん」


 そう言い終わるか終わらないかのうちに――。


 シュッ!


 まるで稲妻のような速さで、再び箸が伸びる。

 狙うは、ゼノヴィアスが今度こそはと守っていた、最後の極上カルビ。


「うわっ! またか!」


 ゼノヴィアスは慌てて自分の箸で守ろうとしたが――大天使の身のこなしは、まさに光そのものだった。


「いただきまーす♪」


 あっという間にカルビを奪い取ると、勝ち誇ったような笑顔で口に放り込む。


「き、貴様ぁ……」


 ゼノヴィアスの額に、青筋が浮かぶ。


 ブワァッ!


 次の瞬間、彼の全身から赤黒い怒気のオーラが噴出した。

 まるで地獄の業火のような、凄まじい圧力。


「キャァ! ちょっと! ダメよ!」


 シャーロットはゼノヴィアスの腕にしがみついた。


「ちょっと、ゼノさん! 落ち着いて!」


 部屋の温度が急上昇し、壁のポスターがめくれ上がる。


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