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追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ~なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが?~  作者: 月城 友麻


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53. 女神の宣告

「いやぁ、悪い悪い、東京の恵比寿(えびす)だったか……」


 レヴィアは小さな足で、商店街の小径をタタタと小走りに進んでいく。


「なんで大阪の新世界なんて行っちゃったんですか!?」


 シャーロットは白いワンピースの裾を押さえながら、涙目で後を追った。


 せっかくの晴れの日なのに、汗だくになってしまっている。


「あそこは恵美須(えびす)町って言うんじゃ! 紛らわしいったらありゃしない!」


「普通、間違えませんって! みんな待ってますよぉ……」


 シャーロットの声が震える。


「せっかくのお祝いなのに……」


 【黒曜の幻影(ファントム)】を捕獲した功績を称える祝賀会。


 まさか主賓の自分が遅刻するなんて――――。


「大丈夫じゃ、焼肉は逃げんよ!」


「そういう問題じゃないんです! もう……」


 角を曲がると、目指す店が見えてきた。


 こじゃれた木造二階建ての焼肉屋。

 黒板にはチョークで丁寧に描かれた、美味しそうなメニューの数々。

 炭火の香ばしい匂いが、通りまで漂ってくる。


 二人は肩で息をしながら店に飛び込んだ。


 古い木の階段が、ギシギシと音を立てる。

 炭火の香りと笑い声が、二階から漏れ聞こえてくる。


 シャーロットは胸の高鳴りを抑えながら、個室の扉に手をかけた。


 その瞬間――――。


「無礼者! お主、何をしてくれる!!」


 雷のような怒号が、扉の向こうから轟いた。


「……へ?」


 シャーロットの全身が、稲妻に打たれたように硬直する。


 この声は――。

 この懐かしい響きは――。


(まさか……まさか……!)


 震える手で、そっと扉を開けた。

 心臓が早鐘を打つ。手のひらに汗が滲む。


「ゼ、ゼノさん……?」


 声が、掠れる。


 そこにいたのは紛れもなく、魔王ゼノヴィアスその人だった。


 見慣れたフードの代わりに、黒いTシャツにジーンズという日本の若者風の装い。

 でも、額から伸びる立派な角。

 燃えるような深紅の瞳。

 圧倒的な存在感。


 間違いない。彼だ。


「うわぁ……」


 シャーロットの瞳から、涙が溢れそうになる。


 あの白い空間での三分間――儚い夢のような再会。

 そして今、本当に、本当に会えた。


「シャ、シャーロット!」


 ゼノヴィアスの顔が、クルッと変化した。


 鬼のような怒りの形相が、一瞬で溶けていく。

 代わりに現れたのは、まるで太陽を見つけた人のような眩しいほどの笑顔。


「シャーロット! 待ちかねたぞ!」


 慌てて立ち上がる。


「さ、ささ、こちらへ! ここだ、ここに座れ!」


 自分の隣の席を、まるで宝物を置く場所のように丁寧に示す。


「えっと、こ、これは……」


 シャーロットは夢見心地のまま、部屋の中を見回した。


 誠が温かい笑顔で手を振っている。

 レヴィアはちゃっかりもうビールを飲み始めている。


 そして――――。


「遅いのよ、あんた達!」


 上座で、美奈が頬を膨らませていた。

 ジョッキを片手に、不機嫌そうにこちらを睨む。


 でも、その瞳の奥には優しさが隠れている。


「ご、ごめんなさい!」


 シャーロットは頭を下げた。


「大阪の恵美須町へ行っちゃって……」


「はっはっは! レヴィアはそういう奴なんだよ」


 美奈の隣から、鈴を転がすような笑い声が響く。


 青い髪を優雅に揺らしながら、美しい女性が愉快そうに笑っていた。

 シルバーのボディースーツが、しなやかな体のラインを際立たせている。


「え、あ、あなたは……?」


 彼女は世界が消える直前、レヴィアとともにカフェに来た人――?


 シャーロットは小首をかしげた。


「僕は大天使のシアン」


 シアンは手を上げ、にこやかに笑う。


「こないだはうちの分身が失礼したね。ゲームの終了なんて、ちゃんと相談して進めるべきだった。ごめんね」


 申し訳なさそうに手を合わせ、頭を下げる。


「ちゃんとキミの世界が復活するように、僕からも女神さまにプッシュしておいたからさ」


 顔を上げ、悪戯っぽくウインクする。


「あ、ありがとうございます!」


 シャーロットは慌てて頭を下げた。

 大天使まで味方してくれたなんて。


「うん、まぁ」


 美奈がジョッキをカツン!とテーブルに置く。


「今回のMVPは、何と言ってもシャーロットだからね」


 琥珀色の瞳が、真っ直ぐにシャーロットを見つめる。


「プログラミング一つ知らないのに、料理でテロリストを捕まえるなんて……前代未聞よ。」


 呆れたような、でも感心したような口調。


「【紅蜘蛛の巣(トマト・トラップ)】だっけ? 笑っちゃうような作戦名だけどバッチリ決まったわね」


 そして、ふっと表情を和らげる。


「いいわよ?」


 女神の宣告が下される。


「あなたの世界、復活させてあげる」


 ニコッと、太陽のような笑顔。



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