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追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ~なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが?~  作者: 月城 友麻


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45. 勇気をちょうだい

 やがて――。


 ヴゥゥゥン……


 空間が震え始めた。


 白い世界に、小さな歪みが生まれる。

 それは次第に大きくなり、人の形を取り始めて――。


「あ……」


 立派な角。

 漆黒の髪。

 深紅の瞳。


 紛れもない、魔王ゼノヴィアスがそこに出現した。


「ゼノさん!!」


 シャーロットは叫ぶ。


 考えていたことも、伝えたかったことも、すべてが吹き飛んで、ただ本能のままに彼の胸に飛び込んだ。


「うわぁぁぁぁん! ゼノさぁぁぁん!!」


 涙が止まらない。


 広い胸に顔を埋め、ただひたすらに泣いた。

 彼の温もりを、匂いを、存在を、全身で感じながら。


「お、おぉ、シャーロット……」


 ゼノヴィアスは明らかに戸惑っていた。


「ど、どうしたのだ……? なぜそんなに泣いて……」


 大きな手が、おずおずとシャーロットの背中に回される。


「会いたかったの」


 しゃくり上げながら、必死に言葉を紡ぐ。


「会いたかったんだからぁぁぁ……」


「ふはは、どうしたのだ?」


 ゼノヴィアスは困ったように、でも優しく笑った。


「我も会いたかったぞ? いつもシャーロットのことばかり考えておるのだから……」


 その大きな手が、そっとシャーロットの髪を撫でる。

 不器用で、でも限りなく優しい手つきで。


 シャーロットは耳を澄ます――彼の心臓の音が聞こえてくる。

 ドクン、ドクンと、いつもより速く脈打っているのが分かる。


 思い切り、彼の匂いを吸い込む。

 もう二度と感じられないかもしれない、この匂いを、体中に刻み込むように。


「好き……」


 言葉が、勝手に零れ落ちた。


「へ?」


 ゼノヴィアスが素っ頓狂な声を上げる。

 心臓の音が、一瞬止まったかのような――。


「あっ!」


 シャーロットは慌てて顔を上げた。


「い、いや、これはそのぉ……」


 真っ赤になって言い訳を探す。でも――。


「ふははは!」


 ゼノヴィアスが朗らかに笑った。


「どうやら、ようやく我の魅力が分かってくれたようだな!」


 嬉しそうに、本当に嬉しそうに。


「まるで夢みたいだぞ?」


「そ、そうよ……これは夢よ? 勘違いしないでね? ただの夢なんだから……」


 そう言いながら、また彼の胸に顔を埋める。

 告白したことなど夢としておかないと、次に会うときに困ってしまう。告白するならもっと素敵な場所で――――。


「な、なんだ……夢か……」


 ゼノヴィアスの声に、明らかな落胆が滲む。


「確かにここは真っ白で……現実世界ではなさそうだしな……」


 その無邪気な反応が、胸に突き刺さる。


『ピピッ! ピピッ!』


 突然、終了の合図が脳内に響いた。


「えっ! もう!?」


 三分――あまりにも短い。


「わ、私ね……」


 シャーロットは必死に言葉を探した。


「あなたを取り戻すの」


「へ?」


「もう一度、必ずあなたに会うの」


「夢から覚めたら、また会えるだろ? カフェで……」


 ゼノヴィアスは不思議そうに首を傾げる。


「ううん」


 シャーロットは首を振った。涙がまた溢れてくる。


「ダメなの。会うためには……うっ……うぅぅ……」


 これから待ち受ける試練を思うと、涙が止まらない。


「だ、大丈夫か?」


 ゼノヴィアスが心配そうに覗き込んでくる。


「ねぇ……」


 シャーロットは涙を流しながら、彼の顔を見上げた。


「勇気を……ちょうだい……」


「ゆ、勇気?」


 ゼノヴィアスは戸惑った。


「何だってあげるが……勇気とは……?」


 シャーロットは踵を上げ、一気に彼の唇を奪った。


「んむ!」


 ゼノヴィアスの体が硬直する。


 でも次の瞬間、シャーロットの想いを受け止め、ぎこちなく、でも優しく応えてくれた。


 徐々に不器用に舌を絡め合わせながら、お互いの存在を確かめ合う――――。


 熱い。

 切ない。

 愛おしい。


 すべての想いが、この口づけに込められていく――――。


 やがて、そっと唇を離す。


 シャーロットは震える手で、ゼノヴィアスの頬を包み込んだ。


「待っててね」


 涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。


「絶対に、絶対にあなたを取り戻してみせるから!」


 その必死の形相に、ゼノヴィアスもようやく事態の深刻さを悟ったようだった。


「シャーロット……」


 大きな手が、シャーロットの手に重ねられる。


「お前は、我が生涯で出会った最高の女性だ」


 真剣な、今まで見たことのないほど真摯な表情。


「お前のような人は、世界中どこを探してもいない。何に悩んでるのか分からんが自信を持て」


 そして、優しく微笑む。


「我は……信じておるぞ」


「うん! 待ってて!」


 二人はもう一度、そっと抱きしめ合った。


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