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追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ~なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが?~  作者: 月城 友麻


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42/56

42. 喜んで!

「レヴィア!」


 女神はツカツカと少女に迫りながら、怒気を放った。


「あんたの仕業ね! どういうこと?」


「ひぃぃぃ! め、女神様!」


 レヴィアは急いで土下座した。


「こ、これには深いわけが……」


「どんな理由があれ、私の個人情報を漏らしたことは重罪よ?」


 女神の瞳が、恐ろしく冷たい輝きを放つ。


「厳罰に処すから、首を洗って待ってなさい!!」


「ごめんなさい!」


 シャーロットは衝動的に叫んでいた。


「私が無理に頼んだんです!」


 膝をついて、必死に訴える。


「私、何でもやります! やりますから……」


 声が震える。


「私の世界を……元に戻してほしいんです!」


「は?」


 女神の眉がぴくりと動いた。


「終わったゲームを再開しろって? あんた、宇宙をなめんじゃないわよ!!」


 怒号が、停止した世界に響き渡る――――。


「ごめんなさい、ごめんなさい!」


 シャーロットはもう理性を失っていた。


「でも、もう女神さまにしか頼れないんです!」


 堰を切ったように、涙が溢れ出す。


 ゼノさんの不器用な優しさ。

 カフェでの温かな日々。

 それらすべてを失った絶望。


 感情の波が押し寄せて――。


「うわぁぁぁぁん!」


 号泣した。


 泣いてる場合じゃないとは分かっている。でも、もう止められない。


「泣いたって変わらないわよ!」


 女神の叱責が飛ぶ。


 でも、追い詰められたシャーロットには、もう何も考えられなかった。


「ごめんなさい、何でもしますからぁ……うわぁぁぁぁん」


 ただ泣くことしかできない。

 子供のように、ただひたすらに。


 はぁ……。


 女神が大きくため息をつく――――。


 そして、レヴィアを睨みつける。


「いったい何なのコレ?」


 呆れと苛立ちが入り混じった声。


「はっ! 実は……」


 レヴィアは震えながらも、事の次第を説明し始めた。


 ペニシリンで高難易度のゲームをクリアしたこと。

 失われた世界に消えていった彼女の大切な人、大切なお店のこと。


 説明が終わると、女神は腕を組んで深いため息をついた。


 そして――。


「あー、分かった分かった」


 根負けしたような声で、泣きはらしたシャーロットの顔を覗き込む。


「『何でもする』って言葉に、二言はないね?」


「はっ、はい!」


 シャーロットは涙でぐしゃぐしゃの顔を上げた。


「それはもう、何でも!!」


 一縷の希望にすがりつく。


「死ぬよりつらい目に遭うわよ? それでもいい?」


「喜んで!!」


 シャーロットはまっすぐな瞳で女神を見つめた。


「ふんっ! その言葉忘れんじゃないわよ!」


 女神は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、人差し指を虚空に滑らせた。


 ツーっと、まるで見えないキャンバスに線を描くように。


 すると――。


 空間が、裂けた。


 現実が割れ、異次元への裂け目が浮かび上がる。


「じゃあ、ついてきな!」


 女神はシャーロットの腕を掴むと――。


 有無を言わさず、一緒にその裂け目へと連れ込んだ。



         ◇



 気が付くとシャーロットは――大宇宙にいた。


 え……?


 思考が一瞬、真っ白になる。


 足元には、まるで氷の彫刻のようなクリスタルの回廊が、ゆったりと星の海を縫うように伸びている。その透明な道の周りには無数の星々が、宝石を撒き散らしたように煌めいていた。


 さらに全天に伸びる天の川は、まるで宇宙が描いた壮大な絵画のよう。


 回廊の先には、漆黒の巨大な構造体がそびえている。まるで宇宙に浮かぶ黒い城塞のような――――。


 そして、恐る恐る真下を覗き込んだ瞬間――。


「ひっ……!」


 思わず声が漏れた。


 そこには、想像を絶する巨大な青い惑星が浮かんでいた。


 深海よりも深く、サファイアよりも澄んだ碧。大気の渦が織りなす模様は、まるで巨大な瞳のよう。


「ま、まさか……これが……」


 震える声で呟く。


 海王星――――!?


 レヴィアが言っていた、巨大データセンターのある星。教科書の写真で見たことしかなかったものが、今、眼下に広がっている。


 美しい。

 恐ろしいほどに、美しい。

 そして同時に、この青い巨人の中で、無数の世界が生成されているという事実に、背筋が震えた。


「何やってんの? 置いてくわよ!!」


 先を行く女神が、苛立たしげに振り返っている。


「も、申し訳ございません! ただいまーー!」


 シャーロットは我に返り、慌てて駆け出した。


 カッカッカッ……。


 クリスタルの床が澄んだ音を響かせていった。

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