40. 宇宙最大の秘密
はぁ……。
少女は長い、長いため息をついた。
余計なことをつぶやいてしまった後悔と、目の前の必死な人間への同情がせめぎ合っているかのよう。
そして――。
「我が教えたなどと、誰にも言うでないぞ?」
観念したように、真剣な表情で釘を刺す。
「とばっちり食うのはごめんじゃからな」
「うん、約束する!」
シャーロットは涙を拭い、しっかりとした瞳で少女の深紅の目を見つめ返した。
ふぅ……。
少女は再度ため息をつき――。
「話は単純じゃ」
声を潜め、まるで禁忌を語るかのように。
「最高責任者にOKをもらう。これだけじゃ」
「最高責任者……って?」
「女神さまじゃ」
「女神……」
シャーロットは息を呑んだ。
創造主。すべての始まり。
「この宇宙を創られた方……ということ?」
「そうじゃ」
少女の声に、畏敬の念が滲む。
「この無数の地球を作られてきた、数十兆人の頂点に立たれる、我らが母なる存在じゃ」
「なるほど……」
シャーロットは震える声で頷く。
「そんな方がおられるのね」
「で、その女神さまに直談判すればいいのね?」
「馬鹿言うでない!」
少女が慌てたように手を振る。
「我々のような下っ端に、女神さまに会う方法なぞ無いわ!」
「どういうことよ!」
シャーロットは混乱して、再び少女をガクガクと揺する。
「会えない人から、どうやってOKもらうっていうのよ!」
「お、落ち着け!」
少女は周囲を見回し――さらに声を潜めた。
「ここからは極秘なんじゃが……」
まるで宇宙最大の秘密を打ち明けるかのように――――。
「今、なんと女神さまの分身体が東京におられる」
「と、東京!?」
シャーロットは飛び上がりそうになった。
まさか、あの日本に? 自分が死んだあの世界に?
「な、なんで?」
「そんな最高神のお考えになることなぞ、我にはわからぬわ!」
少女は渋い顔で首を振る。
シャーロットは必死に状況を整理する。
「それは、『日本』というゲームを、女神さまの分身がプレイしてるってこと……よね?」
「そうなるな」
少女が頷く。
「応京大学の三田キャンパスで、大学生活をエンジョイなさっておられる」
「じゃあ、そこへ行って直談判すればいいのね?」
「そうじゃが……」
少女は懐疑的な目を向ける。
「どうやって説得するつもりじゃ?」
「分からない」
シャーロットは正直に答えた。
「でも、『何でもやるから、ゲームの続きをやらせてほしい』って頼み込むしかないわよね?」
「うーん……。そんなことで女神さまがOKするとは思えんがなぁ……」
少女は首をひねる。
「じゃあ何よ? 他に何か手があるっていうの?」
「無い」
少女はきっぱりと首を振った。
「ただのちょっと優秀だっただけのプレイヤーに、女神さまが興味を持たれることなぞ無いんじゃからな」
「じゃあ、当たって砕けるしかないじゃない」
シャーロットは立ち上がった。
もう迷いはない。
ゼノさんに会うためなら、何だってする。
たとえ相手が創造主でも。
「まぁ、砕けるのは自分だけにしてくれよ?」
少女が最後の念押しをする。
「我の名は絶対に出すなよ?」
「もちろん!」
シャーロットは深く頷いた。そして、ふと気づく。
「というか、私、あなたの名前知らないんだけど?」
「あ……そうじゃったな! 丁度いい。カッカッカ!」
少女は愉快そうに笑った。
「ありがとうございます、小さなお方……」
シャーロットはそっと少女の小さな手を取り、優しく握る。
「『小さな』って、お主!」
少女はムッとして手を引っ込めた。
「これは仮の姿じゃからな! 一応これでも四千年は生きておるんじゃぞ!」
「よ、四千……歳!?」
シャーロットは目を丸くした。
この愛らしい少女が、そんな悠久の時を生きてきた存在だったとは。
「まぁ、我のことはいい」
少女は腕を組むと、ふんっと鼻を鳴らした。
「女神さまに気に入られる方法を、しっかり考えておけ」
そして、小さく付け加える。
「……祈っててやる」
その言葉に込められた優しさに、シャーロットの目にまた涙が滲んだ。




