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追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ~なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが?~  作者: 月城 友麻


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35/56

35. 嫌ですけど?

 一週間後――。


 夕暮れ時のカフェは、琥珀色の光に包まれていた。


 窓から差し込む西日が、テーブルの上のコーヒーカップを優しく照らす。立ち上る湯気が、まるで小さな天使の梯子のように光の筋を描いていた。


「ねぇ、シャーロットちゃん」


 常連のマルタが、カップを片手に身を乗り出してきた。


「王都での大事件、知ってる?」


 皺の刻まれた顔に、悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。


「え? 何かあったんですか?」


 シャーロットは努めて平静を装いながら、手にしていたカップをそっとソーサーに置いた。


「大聖女シャーロット様が、魔王を従えてドラゴンに乗って現れたんですって!」


 マルタの声には興奮が滲んでいる。


「あなたと同じ名前よ? なんて素敵な偶然かしら!」


「だ、大聖女……?」


 シャーロットの頬が引きつった。まさか、そんな大袈裟な呼び名がついているなんて――――。


「そうよ! 偉大なお方でね、天から授かった奇跡の薬を王都の人々に配って、死の病から救ったんですって! まるで御伽噺の世界のお話だわ!」


 マルタは目を輝かせた。


「へぇ、そんな凄い方が実在するなんてねぇ。同じ名前なので、あやかりたいものです……」


 シャーロットは悟られないように適当に合わせながら、手元のスプーンでコーヒーをかき混ぜた。カチャカチャという音が、妙に大きく響く。


 マルタがずいっと身を寄せてきた。


 年季の入った笑い皺が、いたずらっぽく深まる。


「でもねぇ……」


 声をひそめ、まるで秘密を打ち明けるように。


「魔王を従えてやってくるなんて……あの二人、もしかして……デキてるんじゃない?」


 ブフッ!


 シャーロットは思わず口に含んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。慌てて手で口を押さえる。


「デ、デキてません! た、ただの知り合いです!!」


 声が裏返った。


 頬が熱い。きっと真っ赤になっているに違いない。


「へ?」


 マルタがきょとんとした顔で首を傾げる。


「あんた、何か知ってるの?」


「あ……い、いえ……その……」


 シャーロットは必死に言い訳を探した。額に汗が滲む。


「だ、大聖女様が魔王と付き合うだなんて……あってはならないことですよ!」


「うーん、確かにねぇ」


 マルタは顎に手を当てて考え込む。


「一番神聖な方が人類の敵と仲良しっていうのは、ちょっと心配よね。本来なら悪の権化である魔王を、エイッてやっつけるのがお仕事でしょうに」


「あ、ま、魔王さんも……」


 シャーロットは慌てて弁護の言葉を探す。


「最近は改心……したのかもしれませんよ?」


 なぜ必死に庇っているのか、自分でもよく分からない。


「ん?」


 マルタの眉がよった。観察するような、探るような視線――――。


「あんた、どっちの味方なのよ?」


「えっ!? い、いや、その……」


 まさにその時――。


 カランカラン♪


 救いの鐘が鳴った。ドアベルの澄んだ音が、張り詰めた空気を和らげる。


「いらっしゃいませー!」


 シャーロットは飛びつくようにカウンターから立ち上がった。


 やってきたのはフードを被った大柄な影。夕日を背に受けて、まるで伝説の英雄のようにも見える。


「いらっしゃいませー!」


 駆け寄りながら、これで話題を変えられると安堵した。


「ん? 『魔王』とか聞こえたような……? 何の話だ?」


 フードの奥から、怪訝そうな声。


「い、いえ! 何でもないです! 何でも……」


 しかし――。


「王都に現れた大聖女シャーロットと魔王は、デキてるんじゃないかって話をしてたのよ」


 マルタがあっけらかんと爆弾を投下した。


 シャーロットはぎゅっと目をつぶり。茹でダコのように真っ赤になる。


「はっはっは!」


 ゼノヴィアスが愉快そうに笑い声を上げた。


「我の魅力に、そろそろシャーロットも気づく頃だろうな」


 フードの隙間からシャーロットの顔を、まるで答えを探すように見つめてくる。


 シャーロットはプイッと横を向いた。


 視線を合わせたら、何か大切なものが溢れ出してしまいそうで。


「いや、あんたじゃなくて魔王の話よ」


 マルタが苦笑しながら言う。


「ふはは、我には同じに思えるがな!」


 ゼノヴィアスは意味深に笑う。そして、一歩シャーロットに近づいた。


「それで? そろそろ受け入れてくれる気になったか?」


 優しい声。けれど、その奥に隠しきれない期待と不安。


「え? 嫌ですけど?」


 シャーロットはツンと澄ました。


 でも、心臓が早鐘を打っているのがバレないだろうか。


「これはまた手厳しい……」


 ゼノヴィアスは苦笑いを浮かべる。けれど、すぐに何かを思い出したように懐を探った。


「そうだ、これ。面白いハーブが手に入ったから、シャーロットにもおすそ分けだ」


 ゼノヴィアスはそっと小袋をシャーロットへと差し出す。


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