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追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ~なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが?~  作者: 月城 友麻


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20. 逆恨みの炎

「つまり……嘘だったと……?」


「嘘も方便よ。ふふっ」


 くすくすと、鈴を転がすような笑い声。


 その瞬間――――。


「貴様ぁぁぁ!」


 エドワードの理性が、音を立てて崩壊した。


「俺を! 俺を騙したな!!」


「あら、大声出さないで。品がないわ」


 リリアナは眉をひそめた。まるで、汚いものでも見るように。


「それに、あの女だって否定しなかったでしょう? つまり、彼女も破談を望んでいたのよ」


「そういう問題じゃないだろう!」


 エドワードの顔が、怒りで真っ赤に染まる。


「俺を騙すような女と、これ以上一緒にいられるか!」


 すると――――。


「はーっはっはっは! ばーーっかじゃないの?」


 リリアナが突然、大声で笑い始めた。品のない、下卑た笑い。聖女の仮面が、完全に剥がれ落ちた瞬間だった。


「あなた、王位継承権を失うんですって?」


 さげすむような目でエドワードを見つめる。


「な……何でそれを……」


「まぁ、当然でしょう?」


 リリアナは立ち上がった。


「こんな大騒ぎを起こした無能を国王にしたら、それこそ革命が起きちゃうわよねぇ。ふふっ」


「き、貴様……」


 エドワードの額に青筋が立った。


「まさか、お前……王位継承権を失った俺を……」


「もう用なしよ」


 リリアナは髪をかき上げた。その仕草は、娼婦のように扇情的だった。


「権力のない王子様なんて、石ころと同じ。いらないわ」


「お、お前……」


 エドワードの声が、裏返った。


「ベッドでは、あれだけ『愛してる』って……『永遠にあなただけのもの』って……」


「ああ、あれ?」


 リリアナは鼻で嗤った。


「愛してたわよ? あなたの王位継承権を、死ぬほどね」


 そして、汚物でも払うような仕草で、ドアを指差した。


「もう用はないわ。出て行って。シッシッ」


 まるで、野良犬でも追い払うように――――。


「くぅぅぅ……!」


 エドワードの中で、何かが切れた。


 獣のような唸り声を上げながら、リリアナの胸ぐらを掴む。


「貴様ぁ!」


 振り上げられた拳。


 だが――――。


「あら?」


 リリアナは涼しい顔だった。


「『聖女』を殴るの? 教会を敵に回すつもり? ただでさえ崖っぷちなのに?」


 据わった目。まるで、毒蛇のような目でエドワードを見つめる。


「今の私は、まだ一応『聖女』よ? 手を出すならどうぞ? でもそれであなたの破滅は確定だわ」


「こ、この……偽聖女が!」


 エドワードは歯を食いしばった。


「しょぼい神聖魔法しか使えない、ただの飾り物の分際で!」


「あら、無能な王子様に言われたくないわ」


 リリアナも負けじと言い返す。


「国一つ守れない、女を見る目もない、ただのお飾り王子! あなたに賭けた私が馬鹿だったわ!」


 かつて、永遠の愛を誓い合った二人。


 それが今や、最も醜い本性を曝け出し、互いを傷つけ合う怪物と化していた。


 エドワードの拳が、ブルブルと震える。


 殴りたい。


 この女の美しい顔を、グチャグチャにしてやりたい。


 でも――――。


「くっ……くそぉぉぉ!」


 拳を振り下ろすことはできなかった。


 リリアナの言う通り、今手を出せば、完全に終わりなのだ――――。


「くぅぅぅ……。覚えてろ!」


 ドタドタと、まるで敗残兵のように部屋を走って出ていく。


 廊下に響く、狂ったような叫び声。


「ちくしょう! ちくしょう! 全部、全部あの陰気な女のせいだ!」


 赤絨毯の廊下を、よろめきながら進む王子。その姿は、もはや王族の威厳など微塵もない、哀れな男でしかなかった。


「シャーロットめ……最初から、全部計算していたんだ! 病が流行ることも! 俺が破滅することも! 全部、全部!」


 妄想が、狂気が、エドワードの頭を支配していく。


 王宮に戻ると、待ち構えていた執事たちに向かって喚き散らした。


「いいか!? 草の根分けてもシャーロットを探し出せ!」


 血走った目――――。


「国の捜索隊より先に! 必ず、必ず見つけ出すんだ! 金はいくらかけても構わん!」


 こうして人知れず逆恨みの炎がシャーロットへ忍び寄っていくのだった。


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