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東京有情  作者: 犬彦
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僕はここにいる

 幼稚園では友達がいなかった。自由時間は、いつも一人でグラウンドをグルグル回っていた。楽しいわけがなかったが、他にすることがわからなかった。


 僕にとって幼稚園は、孤独の苦味を噛み締める場所でしかなかった。ただただ行きたくなくて、毎朝、泣きながらごねて、母親を困らせた。結局、二日に一回くらいしか登園しなかった。


 あの頃のことは、オッサンになった今でもしばしば思い出す。


 今は一応、社会人として支障ないくらいのコミュニケーション能力はある。しかし僕の本質は、幼稚園の頃から何も変わっていない。


 小学校に上がる頃には、教育施設を避けていては、まともな人間になれない、と何となく思うようになっていた。これからは全出席を目標に、とにかく我慢して通学し続けようと決心した。


 健康に恵まれたおかげで、小学校入学から大学卒業まで、全出席はさすがに無理だったが、ほとんど休まず駆け抜けることができた。その間に、少ないながら友達もできた。


 社会人になって、故郷を離れ、身一つで東京に飛び込んだ。初めは案外上手くいっていた。学生時代よりもさらに多くの友人との出会いがあり、彼等とまずまず愉快な日々を楽しんだ。貧しくはあったが、悪くない生活だった。


 しかしそれは十年までだった。


 幸福は僕の手から徐々に零れ落ちていった。友人は皆去ってゆき、気づいたら、仕事場で、仕事の話をする以外に、言葉を発する機会がなくなっていた。


 次の十年の終りには、立派な孤独が完成していた。


 原因は僕にあるのかもしれないし、ないのかもしれない。あの時ああしていれば、といちいち後悔してもキリがない。人生とはそういうものだ、と皮肉っぽく笑って、諦めるしかない。


 長い年月をかけて、幼稚園の頃に戻ってきてしまった。大したことではない。グラウンドが東京になっただけだ。もちろん泣いてごねたりしないが、あの頃と同じ寂しさを懐かしく思いながら、当てもなくさまよい続けている。誰かに見つけてもらいたくて。


 僕はここにいる。

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