表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『視線』

作者: 砂上楼閣

これは私が新しい職場に異動して、初めての夏にあった出来事です。


とある違和感が、私を悩ませていました。


…………。


新しい職場にもようやく慣れ、生活も落ち着いてきた頃。


仕事は忙しかったですが、その分給料もよく、よく相談に乗ってくれる先輩もいて、本当に充実した毎日でした。


ただ一つ、難を挙げるとするなら通勤時間が思ったよりもかかること。


直線だと家から職場までは近いのですが、実際に通勤してみると車両侵入禁止で遠回りしなければならなかったり、信号が多かったり。


それでも自転車ならば抜け道もあり、しばらくは自転車で通勤していました。


しかし夏になると自転車通勤ではさすがに暑過ぎて、別の通勤手段に切り替えることにしました。


電車やバスでは倍以上の時間がかかるということで、思い切っての原付デビュー。


先輩と相談しながらバイクも選んで、万一の事故に備えて先輩にお勧めされたドライブレコーダーもヘルメットに取り付けました。


あまり速度は出せませんが、それでも自転車に比べればずっと速くて楽で、もっと早くバイクに乗っていればよかったと後悔したほどです。


しかし、バイク通勤を始めてから少しして、とある出来事が始まりました。


…………。


バイク通勤を始めて2週間ほどたったある日。


ある違和感を感じました。


すぐ近くから、視線を感じるのです。


ふとした瞬間、こちらに向けられる視線。


最初は路上の運転に緊張していて気づかなかったのかもしれませんが…


いつからかバイクで走っていると、視線を感じるようになったのです。


走行中、ふとした時に。


夕方、車がすれ違った瞬間など。


はっきりと視界の端に、誰かの瞳が浮かんでくる事もありました。


見られてる?


背筋にゾクっとしたものが走りました。


先輩に相談してみましたが、よく視線を感じる辺りには過去お墓があっただとか、ひどい事故があったなんて話はなく。


道を変えてみても、ふとした瞬間に視線を感じるのです。


視線を感じるのは通勤途中だけなのですが、段々と仕事中にも視線が気になるようになり、ちょっとしたミスも目立つようになりました。


お祓いにでも行ったほうがいいのか、そう悩んでいた矢先、ひょんな事から視線の正体が分かりました。


走行中、ふとした時に。


それこそ夕方、車がすれ違った瞬間などに。


浮かび上がっていた瞳は。


対向車や夕日の光でバイザーに反射した、自分の瞳でした…


…………。


私の話を聞いてひとしきり笑った先輩は、安心したように何度も頷きました。


「いやまぁ、よかったよ。何事もなくて」


「あんまり笑わないでくださいよ!私、本当に怖かったんですよ?」


「ごめんごめん。視線を感じるって聞いた時はてっきり…。でもそれで事故に遭ったりしなくてよかったね」


笑こそしたものの、心配してくれていたのは事実なので私も本気で怒ったりなんてしません。


「あ、先輩が相談に乗ってくれたヘルメットに付けるタイプのドライブレコーダー、それと泥棒対策に付けてもらったペットカメラ、違和感なくなってきましたよ」


「お、いいね。メンテナンスとかはいつでもやってあげるから、不調になったりしてもいきなり分解とかしないようにね?」


「いくら私が機械苦手でも、そんな事しないですよ」


「慣れないうちは代わりにバックアップしといてあげるからさ。いずれ覚えるんだよ」


「分かりました」


「視線が気になるって時も注意散漫だったし、帰りも気をつけるんだよ。◯◯の交差点なんか、見通し悪くて危なそうだったからね」


「あー、あそこ確かに急に人が出てきたりするんですよね。気を付けます」


「本当に気を付けてね。君は見てると心配になる時があるから」


「もう、子供じゃないんですから」


「はは、そうだね。ごめんごめん」


…………。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ