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4:section of カグヤ 【自分を拾った人は】


 僕が次にベッドで目覚めると、横にはジュナが居なかった。


「……ブラインドを開けて」

 ジュナの真似をしてそう言ってみる。

 音声認識Aiが作動して、窓の外側にある黒い膜が音もなく消えた。

 

 途端に外の光りが室内に差し込んだ。

 窓ガラスの1番外側に、黒い液体が充満する層があるらしい。


 外はずいぶん明るくなっていた。

 こんなに強い太陽の光を浴びたことは無かったので、しばらく眩しい空を眺めていた。

 



 どうやら僕は、長い時間、眠っていたようだ。


 昨日は何もかも刺激的で、疲れたのかもしれない。

 

 宇宙船で時空を超えたこと。

 ジュナに拾われて、星空を見ながらドライブしたこと。

 おにぎりを食べたこと。

 お風呂に入ったこと。

 ……そして、ジュナと肌を重ねたこと。


 不思議な感覚だった。

 あの瞬間は確かに彼女に夢中だった気がする。

 誰か他人と、こんなに触れ合っているのも初めてだったし、もちろん行為も初めてだった。


 ジュナが切なげな目で僕を見つめ、優しく包み込んでくれるのは心地良かった。


 ……少しだけ、ジュナが毎夜そういった行為を求める気持ちが理解出来た。


 ……理解出来たけど……


 僕はベッドから立ち上がった。




 リビングに行くと、机の上に服が数着置かれていた。

 

 昨日、おにぎりを食べてしばらくした後、ジュナに言われて僕は立たされた。

 ジュナが、人差し指にはめていた透明なリング型の通信媒体を操作して、僕の体に光を当てる。


「そのぐらいのゆとりの服なら、計測出来るから」

 ジュナがそう言って、楽しそうにリングの側面を親指でタッチしていた。

 すると、リングの上に空中ディスプレイが飛び出し、今度はそれにタッチして僕の服を注文していた。


 その服が届いたのだろう。

 僕は有り難く着替えさせてもらった。




 ジュナの家の中には大きなPCルームがあった。


 僕が入ると室内ライトが自動でつく。

 他の部屋よりは薄暗く、様相がそれぞれ違う5つの空中ディスプレイが僕を照らしていた。


 僕は椅子に座って、机と一体化している、四角い大きな透明な窪みに手を置いた。

 どうやらこれで操作するらしい。


 次に空中ディスプレイをそっと指先で触れた。


「…………アナログな回路」

 僕はそう呟きながらも、2103年の地球の情報を集めた。




 ジュナの情報も少しだけ集めた。


 どうやら財閥の娘らしく、本人が言ってたようにお金持ちらしい。


 そして2103年の平均的な価値観、恋愛観などの情報もザッとサーチする。




 ーーやっぱり、少し変わった思考の女の子に拾われたらしい。

 

 僕はジュナに対する違和感の答えを見つけた。

 貞操観念の低さ。

 性に対しての奔放さ。

 そういった人も一定数いるようだし、他人の考え方なんて自由だとは思う。


 けれど恋愛感情も希薄になっている未来から来た僕には、真逆のような考え方のジュナに衝撃を感じているのかもしれない。


 僕は空中ディスプレイから手を離し、PCルームを後にした。




 違う部屋には、ジュナじゃない他の人の部屋があった。

 両親の部屋と、おそらくジュナの兄の部屋。


 一人暮らしと言っていたけど……


 僕はジュナの兄の部屋を見まわした。

 どうやら、ジュナの変わった車好きは兄の影響らしい。

 ジュナの兄の車であろう、改造されたマニュアルモード搭載車の写真が、壁のピクチャーパネルに表示されていた。




 しばらくすると、ジュナの家をコンシェルジュが尋ねてきた。

 リビングの壁にあるタッチパネルが光ったので、そこから情報を読み取りながら操作した。


『頼まれていた昼食になります』

 

 タッチパネル越しに見えたコンシェルジュが、玄関の外と接している壁に設置されたボックスに、何かを入れているのが見えた。


『お食事が済みましたら、またこちらに返却して下さい』

 コンシェルジュが頭を下げて去って行った。

 

 どうやらジュナが手配してくれてたみたいだ。

 



 玄関へ見に行くと、ボックスがある壁の一部が青白く光っており、その壁をタッチするとスライドした。

 中には、パンで数種類の食材が挟まれた食べ物や、飲み物が入っていた。



 

**===========**


「ただいま〜」

 夜になると、ジュナが帰ってきた。


 僕はリビングの大きなソファに座って、目の前の巨大な空中ディスプレイを見ていた。

 ソファとセットの机には、PCルームにあったような四角い大きな透明な窪みがある。

 それに手を置いて操作すると、目の前の巨大ディスプレイに見たい物が表示された。


 ジュナは少しフラフラしながら僕に近付き、ソファの後ろから抱きついてきた。

「……誰かが家で待ってるっていいねぇ〜」

 ジュナがそう言って僕の首元に顔をうずめた。


「久しぶりのゼミに行ったら飲み会に行くことになって、遅くなっちゃった……今から締めのラーメンでも食べよっか。カグヤ、ご飯食べてないでしょ? あははー」

 ジュナがケラケラ楽しそうに笑った。

 

 ジュナの言葉から推測するに、お酒を飲んで酔っ払ってるらしい。


「すぐ届くように頼んだから、ちょっと待っててね〜」

 そう言って、またフラフラと歩いてご飯の準備をしにいった。




**===========**


「ここのラーメン、美味しいんだよ。そしてこのホワイトビールがとっても合う!」

 ジュナはそう言いながら、僕のグラスに自分のグラスをカチンとぶつけた。

 

 昨日、おにぎりを食べたダイニングテーブルで、向かい合って食事をとっていた。

 ジュナが住む超高層マンションには、コンシェルジュが何人もいるようで、本当にすぐに持ってきてくれた。


「締めのラーメンだけど、これを食べるならホワイトビールを飲まなきゃもったいないよね……お酒も初めて?」

 ジュナがグラスに口をつけたが、まだ飲むのをやめて僕に聞いてきた。


「うん」

 僕はグラスに入ったホワイトビールを眺めながら言った。


「少しずつ飲んでね。カグヤぶっ倒れそう。外に食べに行くか迷ったけど、家で良かったかも」

「……分かったけど、それより〝箸〟が使えない」

「あ、そうか。ごめん。酔ってるから頭が回らなくって気が付かなかった」

 ジュナがそう言いながら、フォークを取りに行ってくれた。




「美味しい」

 僕は熱々のラーメンを、息を吹きかけて食べることを教えてもらってから口へ運んだ。

「でしょ?」

 酔って頬を上気させているジュナが、ニコニコしながら僕を眺めていた。


 ちょっと変わってるけど、僕は()()()いい人に拾われたと思う。

 未来人と知っても、僕をどこかに差し出そうとしないし、移住食も無償で提供してくれる。

 

 嬉しそうなジュナの様子を見ながら、僕は2103年にもう少し慣れるまで、お世話になろうと思った。


 彼女はピンクベージュの腰まで届く長い髪に、紫がかった黒色の丸い大きな瞳をしていた。

 可愛い分類になるんだと思う。

 

 コロコロよく変わる表情は、見ていて飽きない気持ちになった。




「ごちそうさま〜」

 ジュナは更に酔ってヘラヘラ笑いながらも、食器類などをまとめて玄関へ持って行った。

 コンシェルジュへ返却するために、壁にあるボックスがあるあたりをタッチして開けて、食器を置いた。

 すると、しばらくして自動で閉まった。


 


「さぁ、食欲を満たしたら、次は性欲だよねー。アハハ!」

 ジュナがケラケラ笑いながら僕の方に戻ってきて、椅子に座っていた僕の腕を両手で引っ張って立ち上がらせた。


 そして近くの大きなソファになだれ込むように押し倒された。

 ジュナが覆い被さって僕にキスをする。

 



 本当だ、お酒を飲むと頭が回らない。


 フワフワした思考の中、気分が高揚していた僕は、ジュナと繰り返しキスをしながら彼女の細い腰に腕を回した。


 ジュナを求めて出した僕は、簡単に彼女に(いざな)われていった。




 

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