37:section of カグヤ 【永遠に愛してる】
僕は真っ白い空間に立っていた。
ここに立つのは2度目だった。
1度目と違うのは、罪人服を着ておらず、手にも拘束具は無かった。
部屋の中のはずなのに、真っ白すぎて境目が分からない空間。
僕は裁判が行われる部屋にいた。
中には軍の最高責任者らしき年配の男や、人類とは違う形態をした生命体。
他の組織のトップらしき威圧感を感じる人物など。
この世界を代表する人々が集まっているように感じた。
どことなくピリピリした空気を感じる。
しばらくすると、最後の参加者〝デア様〟が入ってきた。
ゆったりした縫い目の無い上下の白い服に、仮面のような空間ノイズ。
最後だったことを気にすることもなく、堂々とゆっくり歩き、最高裁判官の席に立った。
…………
あれは、カグヤだ。
〝デア様〟として2203年のカグヤが参加していた。
声も無機質なものに変えており、年齢・性別ともに不明な存在に見えた。
今日は軍の最高責任者が主役だからか、僕はただ聞いてるだけが多かった。
どこからか聞こえてくる人工知能の声が、淡々と裁判を進めていく。
僕の証言の番になると、先ほどの威圧感のある人物が、いろいろ質問してきた。
ほぼ事実を確認してくるだけなので、僕は返事をするだけで良かった。
そして、僕の刑期が終わったという軍の判断は、妥当だったかの話になった。
おそらく、念のための協議だろう。
往々にして大勢での話し合いの場では、分かりきったことを確認しなくてはいけない場面があるからだ。
ひとしきり証言が終わった所で、デア様が僕に向かって問いかけた。
「罪を償えましたか?」
声を変えているため、無機質なデア様の声が裁判室に響く。
「…………」
僕は、どう答えていいのか困惑した。
「誰かを悲しませていませんか? もし悲しませていたら、罪です」
デア様が力強くそう言った。
僕は、置き去りにしてきたジュナのことを思い浮かべる。
「まだ償えておりません」
デア様に向けてハッキリ言った。
「悲しませている人を幸せにして下さい。1人でも多くの人を幸せにして下さい。それが貴方の償いです。…………刑期は続行です」
ーーデア様の判決が下された。
僕には、同じ罪を背負っている1000年先のカグヤからのエールに聞こえた。
**===========**
僕は2103年に帰るために、時空を超えることが出来る宇宙船の乗り場にいた。
今回は前よりも大きな船が手配されていた。
カラーリングは白と薄い灰色で同じだが、前回よりもどっしりとしたボディをしていた。
すでに起動されており、オレンジ色の灯りの筋が光っている。
聞くところによると、リヒトとセレネはこちらのタイプで時空を渡航したらしい。
見送りにはジュナと双子が来てくれていた。
仮面はしておらず、2203年の一般的な無機質な服装をしていた。
誰もモネの一族だとは思わないだろう。
リヒトとセレネが、寂しそうに笑いながら僕を見て、別れの言葉を告げた。
「カグヤが帰ったら、大泣きしているジュナに付き添ってる僕たちに今から会うよ。その時もうお別れをしっかり言ったんだ」
「だから、また会うから……今は簡単にね」
僕も眉を下げて微笑んだ。
「分かった。……いろいろありがとう」
そしてジュナを見た。
「ジュナもありがとう。……カグヤにもそう伝えて」
「うん。2103年のジュナにもよろしくね」
「何か言っとくことはない?」
「うーん……双子の子育ては大変だけど、楽しいよ。頑張ってねって感じかな〜」
ジュナが空を見ながら首をかしげた。
「あ、しばらくブームスランに乗れなくなるから、4人乗りの車を早くから吟味するようにって伝えて。私も未来のジュナに教えてもらったんだった! アハハ!」
ジュナがケラケラ笑った。
「フフッ。伝えとくね」
僕も釣られて笑みをこぼした。
そして宇宙船に乗り込むために足を踏み入れた。
「…………ありがとう!」
最後に3人の方へ振り向き、手を振った。
ーーーーーー
自動操作システムが稼働し、船がゆっくり動き出した。
モニター越しに見送っているジュナたちの様子を見つめる。
こちらを見上げている3人は、どんどん小さくなっていった。
すると、画面の外から白い髪の男性がジュナに近付き、ピッタリと寄り添ってこちらを見上げた。
2203年のカグヤだ。
とうとう彼とは顔を突き合わせることは無かった。
けれどそれで良かったんだと思う。
僕は、画面越しに見える2203年のカグヤをしばらく見つめていた。
そしてキュッと口を結んで、気持ちを引き締めた。
1000年後には、僕もあそこに立たなきゃいけない。
**===========**
宇宙船は無事に2103年についた。
今回は船が良かったからか、1000年の時を超えても体調が悪くなることは無かった。
ジュナと離れてしまった所から少し遠い場所に降り立ったので、僕は走った。
そのうち、無人のブームスランが遠くに見えて、泣き声がかすかに聞こえてきた。
「うぅぅ……」
ジュナの声だった。
「泣かないで、ジュナ」
「大丈夫だから……」
ジュナに付き添っているリヒトとセレネが、必死に慰める声も聞こえてきた。
僕は早足で歩きながら、呼吸を整えた。
ジュナの座り込んでいる後ろ姿が見え出した。
先にリヒトとセレネが僕に気付き、2人して振り向いた。
「!! ジュナ、後ろを見て」
「カグヤが戻ってきたよ!」
双子が口々に叫ぶ。
地面にペタンと座り込んでしまっているジュナが、ゆっくりと振り向く。
涙でグチャグチャになった顔が見えた。
「カグヤッ!!!!」
ジュナが立ち上がって駆けてきた。
「ジュナ!」
僕は両手を広げて彼女を抱き止めた。
自然と笑みがこぼれる。
「ただいま。未来から帰ってきたよ」
「……本当にカグヤなの? もうどこにも行かない??」
「うん。永遠に一緒にいようって誓ったでしょ」
僕たちはきつく抱きしめ合いながら、再会の嬉しさを噛み締め、笑い合った。
ジュナはさっきまで泣いていたから、笑い泣きになっていた。
そんな彼女の顔を覗き込み、涙を優しく指で拭ってあげる。
けれど、ジュナの瞳からは後から後から涙が溢れてきて、止まる気配が無かった。
「もう大丈夫だよ。僕はずっとジュナといる」
「……うん、うん。……もう置いていかないで」
僕はジュナを慰めるように、優しく唇にキスをした。
そっと顔を離すと、ジュナが僕だけ聞こえるように囁いた。
「カグヤを永遠に愛してるよ」
ーーーーーー
それからしばらく再開を喜び合った僕たちの所に、リヒトとセレネが近付いてきた。
「……じゃぁ無事にカグヤも帰ってきたことだし、僕たち未来に帰るよ」
リヒトが少し寂しそうな笑顔を浮かべる。
「今から、おそらく捕まったカグヤを助けに行かなきゃいけないからね」
セレネも泣きそうな顔をしていた。
僕の腕の中で顔をうずめていたジュナが、2人の方を向いた。
「リヒト……セレネ……酷いこと言ってごめんね。いろいろ助けてくれてありがとう」
ジュナはずっと泣き虫モードなのか、2人との別れが辛くてまた泣きだした。
そんなジュナの頭を、リヒトとセレネは優しく撫でてあげていた。
「ジュナ。泣かないで」
「すぐにまた会えるから」
双子が口々に言った。
「??」
ジュナが不思議そうに2人を見つめる。
「フフッ」
リヒトとセレネが顔を見合わせて笑っていた。
僕は抱きしめていたジュナからソッと離れて、彼たち双子と軽くハグをした。
「リヒト、セレネ。本当にありがとう」
ジュナが僕たちをギョッとしながら見ていた。
「なになに? 未来でそんなに仲良くなったの?」
そんなジュナの様子を見て、リヒトとセレネが笑い出す。
「あはは!」
「ジュナもしとこ!」
双子は嬉しそうに笑いながら、ジュナともハグをした。
「じゃあね。ジュナ、カグヤ」
ジュナから離れたリヒトが言った。
「ジュナをよろしくね。カグヤ」
セレネが僕に目配せしてきた。
僕は力強く頷いた。
そうして2人は、名残惜しそうにしながらも、手を振りながら去って行った。
ひとしきりリヒトとセレネに手を振り、彼らが見えなくなると、ジュナが隣に立つ僕を見た。
「どういうこと? 未来で何があったの?」
「フフッ。何から話そうかな」
僕は、もう泣き止んで元気になってきたジュナを、優しく見つめた。
本当に、彼女に何から話そう。
未来でジュナやカグヤに会ったこと?
リヒトとセレネの正体?
お腹に僕らの子供がいること?
どれも目をまん丸にして驚きそうだ。
僕はそんなジュナを想像して笑った。
「あー、楽しいことでしょ? 教えてよ」
そう言って笑うジュナを抱き上げて、ブームスランの助手席に乗せた。
僕は運転席に乗り込んで車を起動させる。
「家に帰りながら話そうか」
「いいね。夜の海岸沿いをドライブデートだね」
ブームスランがゆっくりと動き出した。
クラッチを踏んでギアチェンジし、徐々にスピードを上げていく。
助手席に座るジュナが、前を見つめたまま喋った。
「未来は相変わらず、つまらなかった?」
「とても楽しそうだった。今から1000年ジュナと生きるからね」
「え??」
ジュナは思わず、食い入るように僕を見つめた。
「僕もジュナを、1000年後も、それ以上先も、永遠に愛してるってことだよ」
僕は笑いながらアクセルを踏んだ。
美しい月が優しく照らす海岸沿いの道を、ブームスランが走り抜けていった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
この物語が、あなたに届いたことを嬉しく思います。




