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Cry for the moon 〜永遠の愛を求めるジュナと未来から来た青年カグヤの竹取物語  作者: 雪月花


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32/38

32:section of ジュナ 【拉致】


 結局、買い物にはセレネがついて来てくれた。

 未来人は色素の薄さと美しい顔立ちが目立つからか、セレネは長い髪を帽子の中に隠しメガネをかけていた。


 それはそれで可愛いかった。


 ただ私の腕にピッタリくっ付いて歩く様子は、逆に目立ってしまっているように感じる。

 ……周囲の視線が痛い。


「……セレネは私を守ろうとしてくれているの?」

 私はすごく遠回しに今の状態について聞いてみた。

「そうよ。ジュナが転けないようにね」

 セレネがニコッと笑う。


「……子供になった気分だよ……」

 私は無邪気に笑う彼女を見て、この状態を改善してもらうことを諦めた。




 しばらく買い物をして、人通りの少ない道を2人で歩きながら喋る。

「久しぶりに女の子2人でショッピングしたよ。普段はだいたいRin(リン)-com(コム)で済ませられるんだけど、今は住所が不定だからね……でも、楽しいね!」

「フフッ。私もジュナと2人で楽しいよ」

 セレネが嬉しそうに言った時だった。


「キャッ!!」 

「セレネ?」

 ピッタリとくっ付いてくれていたセレネがいきなり崩れ落ちた。

 私から離れてしまった彼女が地面にペタンと座り込む。

 

「動くなよ」

 いつの間にか、私の背後には知らない男がいた。

 背中に何か固いものが突き付けられている。


 ……銃?


 私は一切動かず、目だけを必死に動かした。


 視界の端に、男の青い軍服がうつった。


「そのまま歩け」

 その男が背中の固いもので私をグイッと押す。

「…………」

 私は男に従い、歩き出した。



 セレネが座り込んだまま、なんとか顔をあげる。

「待ちなさいよっ!」

「お前には用はないからな。筋肉が電気信号をしばらく受け付けないから動けない。そこで這いつくばっておけ」

 男は振り返りながら捨て台詞を吐いているようだった。


 銃を突き付けられている私は、後ろを見ることが出来ないので音でしか判断出来ない。

 ちらほらいた通行人たちも、いきなりの出来事に動けず、ただ成り行きを見ているだけだった。




**===========**


 大通りに出ると、男が適当にひろったオートタクシーに私は押し込まれた。


 そこで初めて横に座った男を見ることが出来た。

 うっすら茶色がかった髪に、カグヤに似た薄いグレイの瞳、そして余り動かない表情。

 1000年後の未来人だ。


 その彼が行き先を指示すると、音声認識Aiが返事をし、オートタクシーは滑らかに動き出した。


 私は男の方を向き、意を決して口を開いた。

「私をどこに連れて行くの?」

「…………不用意に喋るな」

 男が私の額に銃を突き付けた。

 継ぎ目なんかない滑らかな曲線の小型な黒い銃だった。

 セレネに言ってたことが本当なら、動けなくなってしまう銃なんだろう。


 何を考えているのか分からない、光を宿さない瞳を向けられている私は恐怖で青ざめる。


 ーー怖い。

 不老不死になってるらしいけど、本当か試したことなんかないし。

 撃たれたら、どうなってしまうんだろう?


「…………」

 私が男に言われた通りに、黙ったまま揺れる瞳で見つめていた。

 すると代わりに男が喋り出した。


「お前は何でカグヤといるんだ?」

「……??」

「カグヤはずるい。罪を償いに流刑されたのに、お前と幸せに過ごしている。自分がしたことなんか忘れている。そんなの罰にならない」

 男は私に銃を向けたまま、前を向いた。

「別人のように感情が強くなって生き生きしてるし。あいつのせいで感情を失くされて、戦争で死んでいった俺の友人はどうなるんだ」

 

 男の横顔は相変わらず無表情だったが、眉間に少し皺を寄せている様子は怒っていることが感じ取れた。


「……カグヤは罪を償ってるよ。自分がしたことに毎日心を痛めてる」

 私は恐る恐る喋った。

「そんなの信じられない。……だから、カグヤにとって大事な人を失えばいいんだ。俺が友人をなくしたように」

 そう言って男は前を向いたまま目だけを動かして私を見た。

 瞳の奥に深い深い闇を感じた。


 ーー私を殺す気だ!

 どうしよう。

 なんとかして逃げないと……


 オートタクシーが首都の空中道路を上へ上へと進んでいった。

 この道を進むと海岸線を通り、郊外へと抜けていく。


 私はいつ撃たれるか分からない恐怖を感じながらも、違う感情を抱えていた。

 カグヤを一方的に悪く言う男に対しての怒りだった。

 

 カグヤだって苦しんでいる。

 好きでやった訳じゃない。


 私はカグヤがよく悪夢を見ているのを知っていた。 


「……逆恨(さかうら)みだよね。貴方は戦争で誰も不幸にしなかったの? その罪悪感をカグヤに押し付けてるだけじゃない?」

「…………」

 男は銃口を私の腕に向け、銃を握る手に力を込めた。

 すると銃のグリップ部分が一瞬青白く光り、その光が銃口に素早く移動したのが見えた。


「!!」

 痛くは無かったが、私の右腕が動かなくなってしまった。


「次は心臓に向けて撃つぞ」


 男が冷たく言い放った時だった。


 遠くから、ブームスランのエンジン音が聞こえた。




「ブームスラン!?」

 ーーカグヤだ!

 助けに来てくれたんだ!


 私は後ろを振り向いた。


 オートタクシーの後方にあるリアガラスから、後ろを走るブームスランを捉えることが出来た。

 そして次の瞬間にはオートタクシーの右横に並んだ。

 さすが私のブームスラン、速い。


 空中道路が高い位置で、緩やかに左に曲がるカーブを描いている。

 そこを2台の車はくっついてるかのように、横並びで滑らかに走った。


「カグヤ! ……リヒトも!」

 私は、男が座る右側のサイドの窓に必死に目を向けた。

 ムーブスランの中には、ハンドルを握るカグヤと、助手席からこちらを見ているリヒトが見えた。


「……くそっ!」

 男が焦った声を出す。

 

 リヒトが、ブームスランの窓を開けて、こちらに向けて銃を構える。


「うぅっ!!」

 一瞬明るく光ったと思ったら、隣の男が片目を押さえてうずくまった。

 

 未来の銃は光線銃?だからか、撃ったタイミングもよく分からないし、車のガラスぐらいは貫通するようだった。

 隣の男はリヒトが構えていた銃に撃たれていた。

 



「……ふざけやがって!!」

 取り乱した男が顔を上げると、オートタクシー内の空中ディスプレイを立ち上げ急いで指先で触れていた。


『ピピピピピピピ!』

 途端に警告音が鳴り響き、車体が急に曲がりだす。


「何したの!? わぁ!!」

『ガシャン!! ギギギギギー!!』

 強い衝撃を感じた瞬間、私は動く左腕で頭を囲いながら伏せた。


 オートタクシーがブームスランとは逆の方向、空中道路の側面のガラスに無理矢理つっこんだのだ。

 

 ガラスに無数のヒビが走っていく。

 植物の根が急速に張っているようだった。

 そしてオートタクシーを中心に、広範囲に渡って割れ落ちていった。

 

 車が緊急停止したので、私は顔を上げた。

 隣の男は空中ディスプレイに指先を添えたまま、ニヤリと笑っている。

 リヒトに撃たれた右目が真っ白になっており、その周りの皮膚が徐々にどす黒いものに変わっていっていた。


「お前もここで死ね」

 男が冷たくそう言うと、私の隣のドアが自動で開いた。

 側面ガラスに車体が突っ込んでいるから、その先は……

 空だ。


「……やめて!!」

 私は片腕で抵抗するも、男に力一杯、突き飛ばされた。

 

「銃で殺すのは地味だから、カグヤの目の前で無様に死ね」

 

 ーー私の体が宙に舞った。




「きゃぁぁぁぁあ!!!!」




 ーーーーーー


 下へ下へとすごい速さで背中から落ちていく。

 なのに視線の先には、綺麗な青い空がいつまでも見えていた。


 どのぐらいの高さから落ちてるんだろう?

 流石に死ぬのかな?


 ……怖い怖い怖い!

 カグヤ!!



「ーーーー!」


 目を閉じた瞬間、背中に激しい痛みを感じた。

 ぶつかったものが私の全身にまとわりつき、落ちるスピードが鈍くなる。

 冷たい何かに取り込まれ、息が出来なくなった。


 私は海へ落ちていた。


 地面に叩きつけられず済んだのは、幸運だったのかもしれない。

 



 けれど死の恐怖を感じている私の体は、すぐには動こうとしてくれなかった。

 深く深く海の中を沈んでいく。

 目を開けると、どんよりした青色の世界の中を、どんどん暗い部分へ落ちていっていた。


「〜〜〜〜っ!!」

 その感覚が怖くて思わずパニックになる。

 口から出た空気が泡となって、上へと浮かび上がっていった。


(私も上へ行かなきゃ!)

 

 頭では分かっているのに体がついていかない。

 苦しい。

 つらい。




『バシャン!!』


 その時、何かが海に落ちてきた。


(……カグヤだ!)


 周りにまとわりついた(あぶく)が収まると、カグヤは私に向かって泳ぎだした。


 海の中の彼は青い夜空に浮かぶ月みたいだ。

 白く、優しく、私を照らしてくれている。

 

 私は動く左腕を必死に彼に伸ばした。  


(……月に帰らないで。いつまでもそばにいて)


 視界が閉じていく中、目の前の彼に向かってただそれだけを思っていた。


 伸ばした手が握りしめられると、私は安心して意識を手放した。

 






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