30:section of ジュナ 【リヒトとセレネ】
私はノウンにそっくりな、白い服を着た青年をしばらく見つめていたが、ハッとして助手席のカグヤを見た。
カグヤも困惑した表情で私と目線を合わせた。
次に遠くのビルにいる青い軍服の男がどうなったかを確認した。
そこには、目の前の青年と同じような白い服を着た女の子がいた。
「セレネが、連邦星府の軍人を追い払ってくれたようだな」
気付くとノウンにそっくりな青年も遠くのビルを見ていた。
そしてブームスランの運転席のドアを開けて、私に手を差し出してくる。
「…………」
青年が敵か味方か分からなかったから動けずにいると、むりやり私の手を取ってグイッと引っ張り出された。
「わわっ」
「おっと」
引っ張り出された反動で私がよろけると、青年に抱き止められた。
そこにブームスランから降りたカグヤが駆け寄ってきて、私と青年を引き剥がす。
「ジュナに触るな」
カグヤが少し怒りながら私を背後に隠した。
「触るなって……カグヤはジュナのこと守れて無かったじゃん」
青年がジトっとした目をカグヤに向けた。
その視線と発言を受けたカグヤが怪訝な顔つきで喋る。
「なぜ僕たちの名前を知ってる?」
「……デアの命を受けたから」
「もしかして、モネの一族?」
「そうさ。僕はリヒト。あっちはセレネ」
リヒトと名乗った青年は、私に向けてニコッと笑った。
私はカグヤの背中の服をギュッと掴んで彼を呼んだ。
「ねぇねぇ」
「何?」
カグヤが振り向いて、背後にいる私を見た。
「未来人なのに表情豊かだよ! 感情薄くないよ!」
「……モネの一族は別枠で考えて。よく分かってない存在なんだ。とても長寿で月に住んでいるから、僕たち人間とはまた別の生き物かも知れない」
「ふーん……あ、そうだ!」
私はブームスランのボンネットに近付いた。
そして、リヒトが飛び降りてきた場所を顔を近付けて重点的に見る。
「やっぱり、へこんでるじゃん……」
私は半泣きでへこんでる部分をそっと撫でた。
「……ごめん」
いつの間にか私の真横に立っていたリヒトが、素直に謝ってきた。
「ジュナ、そいつに近付かないで」
「わわっ!」
警戒しているカグヤが、私の肩を抱き寄せてリヒトから距離を取った。
その時凛とした声が近くから発せられた。
「メレフ曹長が来てたわよ」
見ると、セレネと呼ばれていた女の子が近くに立っていた。
長い銀髪をポニーテールにしてるのに、それでも腰の下まで長さがあった。
瞳はリヒトと同じダークグレイ。
2人ともカグヤと同じように肌が真っ白で、未来人はみんな色素が薄いのかな? と感じた。
「……メレフ曹長か。聞いていた通りだな」
リヒトがセレネに向かってそう答えた。
そこにカグヤが口を挟んだ。
「聞いていたって誰に?」
リヒトとセレネが揃ってカグヤを見つめた。
「……デアに聞いていたわ」
「僕たちは軍の違反行動についての調査にも来ている」
「…………」
カグヤが考え込んで黙ってしまった。
ーーーーーー
そんな重い空気の中、リヒトがおずおずと喋り出した。
「ジュナとカグヤの……Rin-com? だっけ? それを少し見せて。2103年の今からは未来に起こることだけど、1000年後の未来では過去に起こったことになるから……ジュナたちの行動が記録として残るんだ。だから、メレフ曹長たちに居場所がバレバレだ」
リヒトがそう言って、私のRin-comにそっと触れた。
カグヤのRin-comにはセレネが触れる。
カグヤが私の肩に置いている手に力を入れたのを感じた。
私がそんな彼を心配して見上げると、カグヤは真っ直ぐリヒトを見ていた。
「……Rin-comの使用履歴や位置情報の記録を、1000年後の未来で追われてるのか。どおりで地下から地上に出たあとに待ち構えてたわけだ」
「そう。だから、もう記録が残らないように少し弄らせてもらった。普通に使用する分には問題ないよ」
リヒトが私に向かって微笑みながら説明してくれた。
「ありがとう」
私は思わず笑顔で返した。
「……ジュナ、ノウンに似てるからって、ときめかないでよ」
カグヤが私の耳元で囁いた。
「そんなことないよっ!」
「…………」
カグヤがジト目で私を見つめる。
そしてまたリヒトに視線を戻してカグヤは尋ねた。
「リヒトとセレネは味方?」
「ジュナのね。デアからはジュナを守るようにしか命を受けてない」
「何で?」
「それは秘密」
リヒトがニコッと笑った。
「……軍の違反行動については、僕を連れ戻そうとしてること?」
「そう。最高裁判官が下した判決を覆そうとしてるから。ここ最近の連邦星府とモネの一族は対立することも多くてさ。今回のことでやっとこちらも強く出れそうなんだ」
リヒトが「な?」とセレネに視線を向けた。
「そうね。非人道的な行き過ぎた他星の侵略行動。当初からモネの一族は連邦星府に異議を申し立てていたの」
セレネがそう言いながら、カグヤとは反対側の私の横にピッタリ立ち、私と手を繋いだ。
「ジュナ、疲れてない? 大丈夫?」
そして可愛らしく首をかしげて私の顔を覗き込んだ。
「う、うん」
私は動揺しながらも頷いた。
そして興奮しながらカグヤを見上げた。
「すんごい美形のボディガードが2人も!」
「……うん。心強いんだけど、複雑……」
カグヤは相変わらずムスッとしていた。




