3:section of ジュナ 【たくさんの初めて】
私が住んでいる、超高層マンションの最上階の部屋に帰ってきた。
ワンフロア丸々居住スペースで、1人暮らしにしてはとても広々していた。
リビングのパノラマビューのような大きい窓から見える首都の街並みは、無機質な建物の白色と薄い青色の光のコントラストが綺麗だった。
私はなんとなく、この景色が気に入っていた。
「あ、ご飯のこと忘れてた。私は食べてるんだけど、カグヤはお腹空いてない?」
私は玄関横のオープンクローゼットに荷物を片付けながら、玄関に立っているカグヤに尋ねた。
「……空いてるかも?」
彼は、部屋の中をキョロキョロ見渡しながらそう言った。
カグヤは自分のことなのに、あまり分かってないこと多いよね。
「今、うちに食べる物あったかな? 夜遅すぎてコンシェルジュもいないし。あ、一人暮らしだから遠慮しないで、自由にしていいよ」
私はそう言いながらキッチンへ向かった。
それから簡単なおにぎりを作って、カグヤに振る舞った。
ダイニングテーブルの向かいに座っている彼は、物珍しそうにおにぎりを見ていた。
「手で持って、こうガブっと食べるんだよ」
「……すごい原始的……」
カグヤが失礼なことをいいながら、私に言われた通りに、おにぎりを口に運んだ。
食べ慣れないからか、小さい一口だった。
「1000年後の未来は、まさかご飯を食べないの?」
私は両手で頬杖をつきながらカグヤに聞いた。
「……一部のこだわりのある人は、食材を料理して食べるけど、普通はcn-food……薬みたいなものを飲むぐらい」
カグヤはそう言いながら、自分の親指についてしまったご飯粒をどうしようか考えあぐねたあと、ハグっと食べていた。
「……今度、何か美味しいもの食べに行こうか」
私はちょっとだけ未来人が不憫になってそう言った。
「おにぎり美味しいよ」
カグヤは相変わらず無表情のまま、私を見て言った。
真正面からきちんと顔を見たのは初めてかもしれない。
綺麗な目。
鼻もスッと通ってるし、唇も薄くて1つ1つのパーツがとても美しい。
本当に作り物みたいだ。
そんなお人形みたいなカグヤが、ゆっくり口を開いた。
「今度食べに行くって、ここにいていいの?」
「え、いいよ。私こう見えてもお金持ちだから」
私はニッと笑って胸を張った。
「……ありがとう」
カグヤが無表情でお礼を述べた。
ーーーーーー
「もしかして、お風呂も違うの!?」
「…………」
カグヤがコクリと頷いた。
私がバスルームを案内すると、カグヤが中をのぞいてちょっと固まっているように見えたので、思わず叫んでしまった。
「あーもう、一緒に入ろっか」
私はそう言って服を脱ぎ出した。
「その方が早いし、どうせアレでしょ? 未来は泡で洗うとかじゃ無いんでしょ?」
私はジトっとした目でカグヤを見た。
「……うん」
彼は少し目を逸らしながら頷いた。
「ほらやっぱり。最初は洗ってあげるから、カグヤも服脱いで。脱いだ服はこの洗濯機の中に入れてね」
私がそう言うと、カグヤは目を逸らしたまま服を脱ぎ出した。
そんな彼の様子を見て、私は尋ねてみた。
「さすがに照れてる?」
「……多分」
カグヤはずっと目を逸らしたままだった。
カグヤの初めてのお風呂は、シャンプーの泡が目に入ってしまったり、湯船に浸かるという行為に引き気味だったりで、ちょっと大変だった。
お風呂上がりには、もう洗濯と乾燥が終わっていた黒い服を着てもらった。
さっきまで着ていたカグヤの服だ。
私の家には、カグヤが着れる大きな服は無かったからだ。
そして今は、カグヤの髪をドライタオルで拭いてあげて、ブラッシングドライヤーで乾かしてあげていた。
ドライタオルは超吸収繊維で出来たタオルで、水分をすばやく大量に吸収してくれる。
そのおかげでほぼ髪が乾くので、ブラシとドライヤーが一体型になったブラッシングドライヤーで、髪を梳かしながら弱い温風で乾かすだけで良かった。
「カグヤの髪はサラサラで綺麗だね」
私は柔らかい彼の白い髪に、指を通しながらそう言った。
「……そうかな」
カグヤが興味無さそうに答えた。
…………
大きな無愛想な猫を拾ってきたみたい。
フフッ。
可愛げがあるのか無いのか。
私は心の中で苦笑した。
「そろそろ寝よっか」
私はそう言って、カグヤを寝室に案内した。
寝室にはクイーンサイズのベットを置いていた。
広々としている方が好きだったからだ。
その上に2人で並んで横たわり、寝具を被った。
「明かりを落として」
私がそう言うと、声に反応した音声認識A iが室内のメイン照明を消して、ベッドサイドの床付近にある照明だけに切り替えてくれた。
「このぐらいの明かりで寝れる?」
私は横にいるカグヤに聞いた。
「うん」
無表情のカグヤが返事をした。
「良かった。おやすみなさい」
「……おやすみ」
私たちは挨拶し合って目を閉じた。
ーーーーーー
「って、こんな美人が隣にいるのに、何もしないのは失礼だよね」
私は寝具を跳ね除けて、仰向けのカグヤの上にまたがった。
そして両手をベッドにつきながら覆い被さるようにして、カグヤの綺麗な目をのぞきこむ。
「うん、いいね。何も知らないカグヤに対して背徳感を感じる」
私はニコッと笑ってカグヤと唇を重ねた。
顔を離して再びカグヤを見ると、少し眉間にシワを寄せていた。
「……今はどんな気持ち?」
私は思わず聞いてしまった。
「……困惑?」
カグヤがやっぱり自分のことなのに、あまり分かっていない返事をする。
「フフッ。私ね、夜は誰かと抱きしめ合っていないと嫌なの。……だから」
私はそう言ってキスの続きをし始めた。
ーーーーーー
カグヤは私が求めると、たどたどしくも応じてくれた。
最中の彼は、伏し目がちにしかめっ面を浮かべていた。
心なしか頬が赤くなっているようにも見えた。
ーーどんな気持ちなんだろう?
ただ彼のその様子は、私にとって、どうしようもなく扇情的だった。




