28:section of カグヤ 【永遠の証明】
強い感情を表すようになった僕は、1000年後の未来で犯した罪に対する罪悪感からか、よく悪夢を見るようになっていた。
幸せに暮らすこの時代の人たちをこの目で見ることで、より一層、罪の意識に苛まれている。
僕が未来の戦争で、その命の連鎖を奪ってしまうからだ。
デア様はこのことが分かっていたのだろうか。
さすが長年、最高裁判官に君臨しているお方だとしか言いようがない。
そしてこの日も、酷い悪夢をみた。
ーーーーーー
僕は戦争の激戦区をなぜか彷徨っていた。
いたる所で連邦星府の軍隊と、現地の住民が戦いを繰り広げている。
宇宙船の中からしか見たことがなかったはずなのに……
夢だと薄っすら分かっていながらも、沢山の命が奪われていく様子から顔をそむけた。
連邦星府の兵隊たちは、僕の感情を消す機械でそれを失っており、無機質な物を扱うように次々と命を奪っていく。
それはとても残忍な光景だった。
「…………うぅ」
僕は気分が悪くなったので、しゃがみ込んで思わず口元を押さえる。
「大丈夫?」
その時ジュナが現れて、僕と同じようにしゃがんで背中を撫でてくれた。
なんでここにいるの?
危ないよ。
……そうか、僕が連れてきてしまったんだ。
一瞬の思考の中、後悔だけが残った。
「きゃぁ!」
次の瞬間、ジュナが何かに撃たれた。
未来の戦争では主流の、遺伝子の働きを止めてしまう光線銃だった。
『ドサッ』
動かなくなったジュナが、僕のそばに倒れ込む。
「ジュナ!?」
僕は彼女を抱き起こした。
何も反応が無い彼女を僅かな奇跡にすがって見つめる。
虚ろな瞳は、僕を2度とうつすことはなかった。
握った手も、握り返してくれなかった。
少し開いた唇は、僕の名前を呼んではくれなかった。
ジュナは、生命全てに等しく訪れる、死を迎えていた。
「わぁぁぁぁぁぁ!!!!」
夢だとは分かっていたが、あまりにもリアルな感覚に、僕は泣き叫んだ。
分かってる。
分かってはいるんだ。
僕はこうやって、誰かの愛しい人の命をたくさん奪う行為に加担したことを。
ーーーーーー
「…………」
目を覚ますと、いつもの見慣れた天井が見えた。
そして、目の横を流れる涙を手でぬぐった。
隣を見ると、ジュナが幸せそうにスヤスヤと眠っている。
僕は安心して弱々しく笑みを浮かべた。
ジュナを愛している限り、僕はずっと罪の意識に苛まれるだろう。
けれど同時に、彼女がいるから僕は救われている。
……そして、ジュナだけはどうしても護りたい。
僕はジュナを起こさないように、そっとベットから抜け出した。
早く未来の研究を完成させたかった。
**===========**
数日後の夜、僕はジュナをある場所へと連れ出した。
ブームスランを走らせてついた場所は、クラシックな装いの教会。
建物の照明は付いているけど誰も人はいなかった。
僕が貸し切ったからだ。
「綺麗な所だねー」
ジュナが教会の中に入りながら呟く。
彼女の海外での様子を見て、こういうテイストの場所が好きなことは分かっていた。
「こっちに来て」
「フフッ。なんだろう?」
楽しそうなジュナを連れて、本当なら神父が立つ台の前に向かい合って立った。
「ジュナ、前に永遠を証明するって言ったの覚えてる?」
「うん。覚えてるよ」
ジュナが僕にニコッと微笑む。
「……ここで改めて誓うよ。ジュナ、永遠に一緒にいよう」
僕は白い小さな粒を2つのせた手を差し出した。
「……薬?」
ジュナがそれを見つめながら、不思議そうに首をかしげた。
「未来でしていた研究の続きがやっと完成したよ。……僕が研究していたのは〝不老不死〟」
「…………」
「この粒を飲めば、遺伝子に永劫的に働きかけるナノマシンが入っているから不老不死になれる仕組み。……僕と永遠を生きてくれる?」
「不老不死って……」
ジュナが顔を上げて僕を見つめながら続けた。
「死なないの?」
「……ほぼね。体が修復不可能なぐらい粉々になれば分からないけど」
「年も取らないの?」
「うん。理論上は今の遺伝子の状態をずっと保ってくれるよ」
「……ずっと一緒にいれるの?」
「ジュナが嫌じゃないなら」
「……ずっと愛してくれるの?」
「もちろん。ずっとジュナを愛させてくれる?」
ジュナの瞳が潤んで、涙があふれてきた。
僕は〝綺麗だな〟と思いながら穏やかに笑う。
「……本当に……永遠の愛をくれるんだね」
ジュナが囁くように言って、眉を下げて切なげな表情をした。
涙が頬を流れ落ちていく。
ジュナが耐えきれずに目を伏せて、長いまつ毛を震わせる。
彼女が目線を横に向けて瞬きをすると、より一層涙がポロポロ溢れた。
そして意を決したように、泣きぬれた瞳を僕に向けた。
「ありがとう」
ジュナは恐る恐る、僕の手のひらにある小さな粒の1つを取った。
そしてすぐに口に入れて飲み込んだ。
僕もジュナに続いて残った1つを飲み込んだ。
「……これで、カグヤを失ってしまう恐怖から解放されるんだね」
ジュナが涙ぐみながらも僕に笑顔を向けた。
彼女のトラウマ。
大事な人を失ってしまった恐怖。
それから置かれた特殊な環境のせいで、形成されてしまった歪んだ恋愛観。
そんな彼女を丸ごと愛してあげたい。
「僕の気持ち伝わった?」
「うん……ずっとずっと、いつまでもカグヤと一緒にいれるんだね。嬉しい」
ジュナが泣きながら、はにかんだ。
「…………僕もジュナが喜んでくれて、嬉しい」
僕はそんなジュナを抱きしめた。
僕たちは誰もいない教会で、永遠の愛を誓った。
**===========**
ジュナの家に帰った僕たちは、もつれるように抱き合ってベッドに倒れ込んだ。
「……あのね、カグヤ」
ジュナはキスの合間に荒い息をしながら僕を呼んだ。
「なに?」
「……愛してる」
腕の中のジュナが瞳を潤ませて僕を見上げていた。
彼女からの初めての〝愛してる〟だった。
「僕も……愛してるよ」
ジュナの耳元で優しく囁く。
彼女は安心したかのように目を閉じて微笑んだ。
そんなジュナが愛おしくてキスを落とす。
そして僕らは強くお互いを求め合った。
名前を呼び合い、抱きしめ合い、何度も何度も愛を確かめ合った。




