24:section of カグヤ 【レース編】
僕たちは、次の目的の国にブームスランで入国していた。
いよいよ5つの材料集めの最後の国だ。
僕はそう思いながら、ブームスランの窓から見える外の風景を眺めた。
広大な平地がどこまでも続いている。
その大地を走る大きな直線の道路を、ブームスランで走り抜けていた。
変わり映えのない風景の中、時たま道の横に現れる看板が目を引いた。
そこに書かれているのは世界共通語。
この国は世界共通語が古くから使われている国だそうだ。
僕の隣では、スピードを出しているからか、ジュナがとても楽しそうに鼻歌を歌いながらハンドルを握っていた。
そして歌が途切れたと思ったら、彼女が僕に喋りかけてきた。
「次に訪ねるのは、フィルモアさんだっけ? 大富豪の人だよね?」
「そうだよ」
「譲ってもらうの? お金を払うの? エルガーさんみたいに、何か難題を言われるのかな?」
「おそらく、何か求められると思うよ。お金の亡者らしいから、簡単にはいかないと思う」
「へー。次は何だろうね?」
ジュナが楽しそうに笑った。
何事も明るく受け入れる彼女は、今回の旅を楽しんでくれていて僕も嬉しかった。
ジュナが居なければ、目的の材料は集まらなかったんじゃないかなってさえ思う。
「ジュナ、ありがとう」
「? どういたしまして??」
ハテナを浮かべたまま笑っている彼女の横顔を、僕は笑いながら見つめていた。
5つめの材料集め。
スムーズにいけばいいな。
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けれど彼女の重要さを1番痛感するのは、この最後の材料集めだった。
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「へ? 私がですか!?」
ジュナが上擦った声を発した。
僕たちは大富豪のフィルモア氏の邸宅で、彼と立ったまま対面していた。
白髪の50代ぐらいの恰幅のいい男性が、同じく立ったままジュナを見ていた。
「そうだ。君は聞くところによるとスポーツカーに乗っているんだろう? 近々開催されるカーレースに出場して欲しいんだ。私が主体で開催するお祭りのような物でね、盛り上げて欲しいんだよ」
フィルモア氏がニッコリ笑った。
「…………」
ジュナが珍しく冷や汗をかきながら固まっている。
「そのレースで私の息子ルクドに勝って、かつ過去最大の収益を弾き出してくれたら、君たちが欲しがっている古代の通貨を渡そう」
フィルモア氏の両隣には、僕らぐらいの年の男性と女性が立っており、男性の方が息子のルクドだった。
その時、女性の方がフィルモア氏に耳打ちをした。
「ハッハッハッ! 娘のフェリスが、ルクドが勝った場合はカグヤ君が欲しいらしい」
フィルモア氏がそう言うと、フェリスが頬を染めながら僕をじっと見つめてきた。
僕はその視線と目を合わせないようにして、ジュナの方に向いた。
「ジュナ、違う方法を考えようよ」
「…………」
ジュナは少し俯いて何やら考え込んでいた。
そして意を決して顔を上げると、フィルモア氏をしっかり見据えた。
「スポーツカーに乗っていますがカーレースなんかに出たことがない初心者です。車もレース用じゃないですし、整備士とかも居ません。圧倒的に不利だと思います。そんな条件の勝負はしません」
ジュナの訴えに、フィルモア氏に代わってルクドが喋り出した。
「ふーん。とっさの判断力と度胸もあるな。親父、こいつが出るだけで集客力があるから、ここで機嫌を損ねられると大きな痛手になると思うぞ」
「うーん。そうだな。じゃぁルクドにウェイトハンデをつけよう。これでルクドにだいぶ勝ちやすくなるぞ。フェリスは自分で頑張ること」
フィルモア氏の発言を聞いて、娘のフェリスが心底ガッカリしていた。
フィルモア氏はジュナを見てさらに続けた。
「カーレースを見に、大勢の人がこの土地を訪れるんだ。タレント気分で沢山お金を稼いでみてくれないか? 稼いだ金額によっては、ルクドに負けてしまってもオマケできるかもしれないな」
彼はウィンクをしながら悪どい笑みを浮かべた。
そう言われたジュナが、思わず自国語を口から漏らした。
「すっごい金の亡者!」
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僕たちはブームスランを停めていたフィルモア邸の広大なガレージに来ていた。
そこの一角がスタジオのような作りになっており、ジュナはブームスランと共にエントリー映像を撮られていた。
カーレースは3日後らしく、出揃った参加者たちの紹介CMを流す予定らしい。
「ひゃ〜、この映像どんな規模で流れるんだろ? 恥ずかしいな」
撮影が終わりフリーになったジュナが、近くで見守っていた僕の元に赤くなりながら帰ってきた。
そして僕の手を取り少し引っ張った。
「本番のコースを走れるんだって。カグヤも行こうよ」
彼女が向かおうとしている先にはブームスランがあった。
なんだかんだで楽しみな様子のジュナに、僕も笑みが溢れる。
「うん。分かったよ。行こう」
そうして、僕たちはブームスランに乗り込んだ。
コースに向かう道の途中、楽しそうに運転しているジュナが口を開いた。
「もうちょっとでカグヤをかけた戦いになるとこだったね。普通逆じゃない? 私をかけて男性たちが戦う……みたいな? アハハ!」
ジュナがケラケラ笑った。
「ジュナ、巻き込んでごめん」
「いいよ。ルクドによく聞いたら、みんなプロじゃないスポーツカー乗りが、楽しんでコース走るだけって言ってたし」
ジュナがクラッチを踏んでからギアチェンジをし、アクセルを踏み込んだ。
「でもどうせなら、みんなに勝ちたいよね」
ジュナがブームスランのスピードを上げだした。
しばらくすると、工業地帯の中を縦横無尽に空中道路が走っているのが見えた。
「もしかして、あそこ?」
僕はジュナに聞いた。
「そう。今は昼だから普通だけど、夜になると工場がライトアップされて綺麗らしいよ」
ジュナがギアチェンジしてハンドルをきった。
そしてそのコースに入っていった。
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コースの空中道路は、長い下り坂や上り坂、工場の中のプラントをすり抜けるようなカーブの連続など、見ているだけでも楽しいコースだった。
けれど2、3個カーブを曲がった所で、ジュナが青い顔で前を向いたまま僕に言った。
「……どうしよう……前みたいに攻めた曲がり方が出来ない……踏み込めない……」
絞り出すように言われたセリフのあとに、彼女はショックで泣きそうになっていた。
「……ジュナは、ちょっと危ないコース取りをしてたよね。一歩間違えれば事故を起こしそうなぐらい。多分、自分の命に対して無頓着な所があったから」
「……保守的になった。命を大切にしだしたってこと?」
ジュナがオートモードに運転を切り替えて、窓をフルオープンにした。
風を感じて、気分を落ち着かせたかったのかもしれない。
僕はジュナを見つめながら言った。
「そうだね。僕はいい変化だと思うよ。ジュナ自身を大切にして欲しいから」
「けど、速く走れないよ。このままじゃルクドに勝てない……」
ジュナも僕に顔を向けて、揺れる瞳で見つめて来た。
「…………」
僕は何も言えなかった。
すると、ジュナが前を向いて呟いた。
「……違う。方法はあるかも。私が向き合わなきゃいけないんだ」
「向き合う?」
「そう。……お兄ちゃんの〝ナオ〟と」
ジュナがフルオープンを止めて、マニュアルモードに切り替えた。
「ホテルに帰ろう」
何かを決心した彼女は、アクセルを踏んでブームスランを走らせた。




