23:section of ジュナ 【シエラ編】
翌日、シエラのご両親がエルガー家に帰ってきた。
連絡が取れなくて、すっ飛んで帰ってきたらしい。
けれど、誘拐されたと思った愛娘がエルガー家にいると分かると、安堵の表情を浮かべていた。
「シエラ!」
エルガー家の一室で対面したシエラが、駆け寄ったパパとママに抱きしめられていた。
「パパ! ママ!」
シエラは突然のことに驚いていたが、涙を浮かべて喜んでいた。
しばらくして親子の再会が落ち着いてから、私とカグヤはシエラのご両親に謝った。
「すみませんでした」
私は潔く頭を深々と下げた。
「……シエラの1番欲しいものを与える約束を、エルガーさんとしていたんです。それでシエラが1番欲しがった貴方たちを、彼女に合わせようと誘拐したフリをしました」
カグヤがきちんと説明してから「すみません」と頭を下げていた。
「…………」
シエラの両親は、私たちを見てからお互いの顔を見合わせていた。
「顔を上げて下さい。確かにここに帰ってきてシエラの顔を見るまではずっと気が気じゃなかった。……けれど改めて大事な存在だと気が付きました」
シエラのパパが、シエラを抱き上げながら優しい眼差しで娘を見つめ、なかば彼女に言い聞かせるように私たちに言って聞かせた。
ゆっくりと顔を上げた私は、同じぐらいの目線の高さにいるシエラに伝えた。
「シエラ。大好きな人って、いつ離ればなれになるか分からないんだよ。一緒にいられる時間を大切にしてね」
「…………」
「私は6歳の時に、両親と兄を交通事故で亡くしたの。シエラには素敵なパパとママがいる……どうか素直になってね」
私は眉を下げてニッコリ笑った。
「…………うん。ジュナありがとう」
シエラもニッコリ笑ってくれた。
それから私たちは、シエラと両親の様子を少し離れた所から見守っていた。
シエラが本当に幸せそうに笑っている。
「…………」
私も、両親がもし生きていたら、あんな感じで笑えてたのかな……
シエラに、6歳の時の私の影が重なった。
けれど、私の影は泣いてばかりだった。
「ジュナ? どうしたの?」
隣から優しいカグヤの声がした。
様子が少しおかしい私を心配して、そっと手を繋いでくれた。
私はその手を握り返し、カグヤを見つめた。
「何でも無いよ」
そして穏やかに笑い返した。
ーーそうだ。
今の私にはカグヤがいる。
あの頃の独りぼっちの私とは違う。
「……バイバイ」
私は、6歳の私の影に向かって小さく呟いた。
すると影は見えなくなった。
大切な家族を無くしてしまった悲惨な出来事に、長いあいだ囚われていた私は、少しだけ歩み出せる気がした。
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それからシエラと両親はよく話し合い、シエラも両親が暮らす海外へ一緒に行くことになったようだった。
私とカグヤは、シエラのお祖父様であるエルガーさんと、初めに会った部屋で対面していた。
エルガーさんは相変わらず威風堂々とソファに座っていた。
そんな威厳を振り撒くエルガーさんが、重々しく口を開いた。
「……私とシエラが離れることになってしまって寂しいが……シエラの1番欲しい物を用意したことを認めよう。約束の隕石のカケラだ」
エルガーさんが従者に目配せすると、その男性が両手サイズぐらいのケースを持って来てくれた。
それをカグヤが受け取ってケースを開ける。
うっすら発光している薄灰色の小さな石が、ケースの中に数個並んでいた。
「ありがとうございます」
中身を確認したカグヤがケースを閉めた。
「……そうそう、何者かが我が家の管理システムを書き換えて不具合を起こしていたそうだが……今は直っているので気のせいだったと思っておこう」
エルガーさんがニヤリと笑った。
「……物騒ですね。でも、これからは起こらないと思いますよ」
カグヤも何食わぬ顔で答えていた。
ーーこうして、私たちは4つ目の材料を手に入れた。
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それから宿泊先のホテルに戻った私たちは、この国最後の夜を過ごしていた。
ルームサービスでワインを頼み、ソファで隣り合って座って寛いでいた。
私はワインが入ったグラスを、カグヤのグラスにそっと当てた。
「無事に手に入ったね。おめでとう」
「ありがとう」
2人で喜び合って微笑みながら、ワインを飲んだ。
「シエラちゃん、とっても喜んでたね。デートの途中で恋人役じゃなくてパパ役に切り替えたのは……シエラちゃんが欲しい物を探ってたの?」
「そうだよ。シエラと喋ってると、会話の節々に寂しがってる様子が見えたから……それから両親の話も聞いて、おそらくこれかなって」
「……そっかぁ。誘拐作戦も上手くいって良かったね」
「うん。ジュナが思い付いてくれたおかげだね。本当に両親がすぐに戻ってきたね」
「フフッ。私もあの速さにはビックリしたよ」
そんな感じでいろいろ喋っていると、お酒も進んでほろ酔い気分になってきた。
すると、私の肩を抱きながらカグヤが聞いてきた。
「ジュナは僕との時間も大切にしてくれてる?」
シエラに〝大好きな人と、一緒にいられる時間を大切にしてね〟のようなことを言ったから、そのことをカグヤは言い出したんだと分かった。
「あれ? 私、カグヤに『好き』って言ったけど『大好き』って言ったっけ?」
私は意地悪な笑みを浮かべた。
「……僕のこと大好きでしょ? 態度で分かるよ」
「どんな?」
「…………してる時に、初めはそんなことなかったのに、最近はーー」
「わー! わー! その分析は、こっ恥ずかしいやつだから辞めて!!」
私は慌ててカグヤの口を押さえた。
彼にジトっとした目を向けられる。
「言うから。……1番大切にしてるよ」
私が目線を逸らして照れながら言うと、口を押さえてる手を掴まれて、グイッと引っ張られた。
そしてその反動で彼の胸にくっ付くと、抱きしめられた。
「可愛い」
嬉しそうに笑うカグヤに繰り返しキスをされる。
酔ってるフワフワした頭の中が、嬉しさや喜びで埋まっていく。
そのまま夢中でカグヤに応えていると、いつの間にかベッドに移動させられていた仰向けの私は、カグヤに上から覗き込まれていた。
「シエラのパパとママ役やったから、子供がいるのもいいなって思ったよね」
「思った。けどしばらくはカグヤと2人で過ごしたいなぁ」
「……じゃぁそのうちだね」
穏やかに笑うカグヤを見ながら、私はキュンとしていた。
好きな人に、2人の間に子供を望まれて嬉しいタイプの人間だったんだ。
私は。
そして、そう言えばピルが無くなるから、そろそろ補充しないと……海外にいるから面倒だな。
と薄っすら思った。
一応、薬剤系はツキシロ財閥お抱えの医師を通さないといけないのだ。
「何か考え事してる?」
「…………してない……よっ……」
「じゃぁ大好きって言ってみてよ」
そう言ったカグヤが手を止めて笑った。
「……いじわる」
私は思わず彼を睨んだ。
カグヤは酔うといつもより意地悪だ。
そんな彼に、余裕がない時をわざと狙われた私は、このあと『大好き』をいっぱい言わされたのだった。




