22:section of ジュナ 【シエラ編】
シエラのデートプランで、船上デートの次は高級デパートに向かうことになった。
恋人同士で楽しくショッピング気分を味わいたいらしい。
……さっきから7歳にしては、ませてるなぁ。
高級デパートにエルガー家手配の車で移動した私たちは、シエラが行きたい場所について行った。
「カグヤ、あっちを見に行きましょうよ!」
シエラが手を繋いでいるカグヤを引っ張る。
カグヤは苦笑しながらも、楽しそうな彼女についていっていた。
そんな2人を船の時みたいに、私とディルが少し離れて見守っていた。
シエラに言われたからか、ディルが喋らなくなってしまった。
そうなると1人ボーッとしている明らかな観光客である私は、ある意味目立ってしまった。
そして案の定、チョロそうに見えるから声をかけられてしまった。
「ねぇ、君は1人でこの国に来たの?」
私より年上の男性が隣に立った。
「……フフッ。違うよ。ハネムーンで来たんだよ」
「?? 君は1人じゃないか。あぁ、僕が相手ってことだね。僕が好きな所に連れてってあげよう」
男性がそう言って私の肩に手を回そうとした。
それより先に、いつの間にかそばに来ていたカグヤが私の肩を抱いた。
「ジュナの相手は僕だから」
カグヤが相手を睨みながらそう言うと、私の肩を抱いたまま足早に立ち去った。
そして私に少し顔を近付けて、言い聞かせるように喋りかけてきた。
「……ほら、言ったようにジュナも男の人によく狙われるんだから、気を付けて」
「えー、こっちの国の男性は、女性に声をかけやすい気質もあると思うけど」
そんな話をしながら私たちがシエラの元に戻ると、ディルがシエラの隣に移動して警護していた。
「おぉー。さすが護衛だね」
私がディルを褒めると、彼は眉を下げながらニコッと笑った。
嬉しそうにした彼とは対照的に、隣のシエラはげんなりした表情を浮かべていた。
「……カグヤがすぐにジュナの方に行くから、デートにならないわ」
そんなシエラと、しゃがんだカグヤが目線を合わせた。
「じゃぁ、僕、シエラのパパ役でもいい? それでジュナにはママ役としてそばにいてもらう。そうしたら一緒にいれるよ」
「……子供扱いは嫌いなんだけど……仕方ないわね」
頬を赤くしながらジトっとした目をしたシエラが、しぶしぶうなずいた。
その返事を聞いて、カグヤがシエラと手を繋いだ。
「ほら、ジュナも」
カグヤに促されて、シエラと私も手を繋ぐ。
「わぁ! シエラちゃんみたいな可愛い子と手を繋いだら、テンションあがるね!」
シエラちゃんは本当に愛らしい女の子なので、手を繋ぐと楽しくなった。
愛でるってこんな感じ?
これが母性なのかもしれない。
シエラも満更でもなさそうに、頬を赤く染めてツンとしていた。
「次は何がみたい?」
カグヤがそう言いながら、歩き出した。
「……あっちがみたい!」
シエラが頬を赤く染めたまま、喋った。
そうして私たち3人は、歩き回ってショッピングを満喫した。
ーーーーーー
「カグヤ、疲れたから抱っこして!」
「ジュナ、夕食に何か作って〜」
「今日は2人と一緒に寝る!!」
シエラは、あれから楽しそうに私たちに甘えてきた。
ショッピングが終わるとエルガー家に帰った。
そして私は、シエラの要望通り手料理を振る舞った。
ディルを含めた4人で席を囲んだ食事は、思いのほか楽しかった。
そして今日は『エルガー家に泊まっていって』というシエラの要求を満たすことになったので、広いベッドにシエラを真ん中にして、私とカグヤと3人で川の字で横になっていた。
シエラは昼間にはしゃぎ過ぎたのか、すぐに眠ってしまった。
「ジュナ、料理出来たんだね。以外と本格的だったからビックリした」
横向きになって片方の腕で頭を支えているカグヤが、私を優しく見つめていた。
「一人暮らしが長いからね。最近はあんまり作ってないけど」
うつ伏せで、顔と肩だけ起こして頬杖をついてる私は、カグヤを見つめ返した。
「ジュナの手料理好きだから、また何か作ってよ」
「いいよ。私たちの家に帰ったらね」
「…………」
私たちは微笑みながら、お互いを見つめ合った。
そんな甘い雰囲気に水を差す発言が隣のベッドから聞こえた。
「……あの、お嬢様のいる所で教育上よろしくないことは、しないで下さいね……」
私たちとは違うベッドを割り振られていたディルが、顔を真っ赤にして眉を下げながら、弱々しく忠告してきた。
私とカグヤという〝部外者〟と一緒に寝たいと言ったシエラのために、護衛のディルも近くで眠ることになったのだった。
「…………しないよ!」
私はあくまで小さな声で抗議した。
そして、シエラを起こさないように気を付けながら上半身を起こし、ディルを見た。
「車の中でディルとした話の続きだけど、シエラちゃんの1番欲しいものって……パパとママ?」
「……そうです」
ディルが眉を下げて、少しだけニコッとした。
悲しげな表情だった。
そこに、私と同じように起き上がったカグヤが会話に入ってきた。
「シエラの両親は、海外で大使館にいるらしいね。忙しくてなかなか帰ってこないそうだけど」
「はい。シエラお嬢様は、お祖父様であるエドガー様と一緒にいることを、5歳の時に一時のワガママで決めてしまいました。それから強がって口にしませんが、本当はご自身の両親と一緒にいたいのです」
ディルが目を伏せた。
「…………」
私とカグヤは顔を見合わせた。
けれど、いい案を思いついた私は思わずニヤッと笑った。
「誘拐しちゃおうか」
「??」
カグヤが首をかしげる。
「シエラちゃんを誘拐したって嘘の連絡をパパとママにしよう。それですぐに戻ってくるでしょ? そこからは親子で話してもらおうよ」
「……それで本当にシエラのパパとママが戻ってくるの?」
「自分の子供の命がかかってたら、どんな親でも仕事なんてしてる場合じゃなくなるんじゃないかな?」
私は首をかしげながらニッコリ笑った。
ーーそこからは早かった。
今寝ているシエラの写真を撮って、どこにいるか分からないように加工した。
そしてシエラのRin-comから情報を読み取ったカグヤが、彼女の両親に脅迫文と写真を送った。
「……僕は何も見てませんから!」
シエラのRin-comを操作し出したあたりから、ディルは両手で自分の両耳を押さえ、目をギュッと閉じだした。
何かヤバいことを始めたのを感じた彼は、シエラのためなので見て見ぬふりをすることを選んだのだった。
次に、部屋の空中ディスプレイを立ち上げたカグヤが、指先を当てていた。
エドガー家の管理システムを操作するためだった。
そうすることで、シエラの両親からの連絡は一切受け付けなくなった。
操作が終わったカグヤがそばで見守っていた私を見た。
「これでいいかな?」
「バッチリだね」
私はニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「フフッ。ジュナ、悪役みたいだね」
「……遺伝子データを盗んできた人に言われたくないなー」
カグヤと私は悪態をつきながら笑い合った。
そして手筈を整え終わったので、私たちは眠ることにした。
シエラの隣にまた横たわって3人で川の字になる。
「パパとママに会えたらいいね。シエラちゃん」
私はぐっすり眠っているシエラを優しく見つめた。




