21:section of ジュナ 【シエラ編】
私とカグヤは、次の目的地である国に着いていた。
そしてその国の、とある大きなお屋敷の門の前に立っていた。
「立派なお屋敷だね」
私は門から続く壁が長く伸びているのを、ため息をつきながら眺めた。
壁から考えられる敷地面積がとてつもなく広い。
「この国1番の資産家の、エルガー家だからね」
カグヤが涼しい顔で言った。
「…………」
たまにこの未来人は、ことの重大さを分かってないんじゃ……と不安になることがある。
本当に、こんな資産家が私たちなんかを相手してくれるのかな?
今回の目的の物は、この資産家が持っている隕石のカケラだった。
それをどうにか譲ってもらえないか交渉に来ていたのだった。
しばらく門の前で待っていると、執事のような初老の男性が出てきた。
「ツキシロ様ですね。どうぞ」
私たちはその従者に連れられて、屋敷の中に入っていった。
一応、相手はしてもらえるようだ。
私はホッとしながら、屋敷の廊下を進んでいった。
従者に通された部屋には、白髪のダンディなお祖父様が威風堂々とソファに座っていた。
資産家のエルガーさんだ。
王様への謁見みたいな雰囲気だ。
私たちは彼の前に立った。
すると王様がゆっくりと口を開く。
「カグヤ……とか言ったかな?」
「はい。ツキシロ カグヤです。こちらは妻のジュナです」
世界共通語でお互い喋っていた。
紹介された私は、ペコリと頭を下げてみた。
……礼儀として、合ってるかな……
こんなすごい人と対面なんてしたことないから……
私の緊張をよそに、エルガーさんが話を続けた。
「たしか、隕石のカケラが欲しいんだったな? 譲ってもいいが、私の孫娘が1番欲しいものを、与えることが出来たらにしよう」
エルガーさんがそう言うと、部屋の奥から可愛らしい女の子がピョコッと出て来た。
そして、エルガーさんの近くまで歩いてやってきた。
エルガーさんが、その女の子の頭を撫で撫でする。
「7歳になる、私の孫のシエラだ」
優しいお祖父さんの顔になったエルガーさんが、目を細めてシエラを見た。
シエラはフワフワウェーブした金髪に、緑の瞳をした愛らしいお人形さんみたいな女の子だった。
彼女はエルガーさんの視線に気付かず、ジーっとカグヤを見つめていた。
そしてカグヤを指差した。
「私、あの人が欲しい!」
…………
カグヤの容姿は、幼い女の子をも魅了してしまうらしい。
私は思わずカグヤに聞いてしまった。
「え? 1番欲しい物がカグヤ? ……どうする?」
「そういうのは無しで。……シエラ、他に欲しいものは?」
カグヤはシエラに近付き、彼女と目線を合わせるためにしゃがんだ。
「あなたカグヤっていうの? カグヤ以外欲しいものは無いわ」
シエラがニコニコしながらカグヤに抱きついた。
「僕はもう結婚してるから、ジュナの物なんだよ」
「えー。そんなのつまんないー」
シエラはジト目になって頬を膨らませた。
「だったら私とデートして!」
そして愛らしいお嬢様は、カグヤを見上げてニッコリ微笑んだ。
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シエラの願いを叶えるために、私たちは車に乗って移動していた。
私のブームスランには2人しか乗れないので、エルガー家の手配してくれた車に乗る。
運転はディルという、私より年下の男の子がしてくれた。
彼はシエラの護衛兼世話係らしい。
カグヤとシエラは後ろの座席に乗り、私は助手席に乗っていた。
「すみません。シエラお嬢様がワガママを……」
ディルが助手席の私に謝って来た。
どちらかと言うと幼い顔立ちで、気弱そうに見える優しい表情のディルは、本当に護衛が出来るのかな? という感じだった。
「ううん。大丈夫だよ。それより、シエラちゃんの1番欲しいものって何かなぁ?」
私はディルに笑いかけた。
「うーん……思いあたるものはあるけど、お嬢様にあげるのは難しいというか……」
「えー、なになに?」
「……多分これかなぁと……」
ディルが眉を下げながら戸惑っていたが、私にコッソリ耳打ちしようと顔を近付けた。
車の運転はオートモードなので、ディルがそのぐらい動いても大丈夫だった。
けれど後ろの席からカグヤの冷たい声が響いた。
「何してるの?」
「あ、すみません!」
ディルが慌てて私から離れ、しっかり前を向いてハンドルを握った。
「もう。大事なお喋りしてたのに」
私は思わず振り返ってカグヤをじっとり見た。
カグヤは不機嫌な表情で私の視線を受け止めた。
……嫉妬だろうな。
私は体を前に向け直して、ディルに話しかけた。
「ごめんね? あとで教えてね。……今からどこに行くの?」
「お嬢様の希望で、まずは運河に行きます。そこでエルガー家の所有する船に乗るつもりです」
「わぁ、船上デート? 素敵だね」
私たちは和やかにお喋りを続けた。
後ろからたまに不機嫌なオーラを感じたけど気にしないことにした。
カグヤとシエラも何かお喋りをしており、案外賑やかなドライブになった。
ーーーーーー
ディルが教えてくれた通り、この国の有名な運河についた私たちは、そこで待っていた立派な船に乗り込んだ。
シエラとカグヤの船上デート組は、船内にある席に向かい合って座り、紅茶とお茶菓子をいただいていた。
たまにシエラにお願いされたカグヤが、あーんで食べさせていた。
必然的に、私とディルが一緒に座って2人を見守っていた。
「ディルはシエラちゃんの護衛になって長いの?」
「そうですね。もう3年になります」
ディルが眉を下げながら笑った。
「ジュナさんも、財閥のお嬢様なんですよね?」
「一応ね。私も小さい時は護衛とかついてたなー」
「……いつまで、ついてたんですか?」
「一瞬だけかな? 護衛の男性が、私に手を出そうとしたから。アハハ〜」
私はケラケラ笑った。
「…………大変でしたね」
ディルが痛ましそうな目線を私に向けた。
おっと。
すごく純情そう。
毒さないように気をつけないと……
そこに席を立ったシエラが近付いて来た。
「……カグヤがジュナを気にして、デートどころじゃ無いんだけど」
お嬢様が、私をジロっと睨む。
私は可愛いなって思いながら笑って答える。
「ディルと喋るなってこと?」
「お嬢様……それは……」
ディルが、シエラをたしなめようとした。
「何なの? ディルもジュナと喋りたいっていうの? 何だかデレデレしてるし!」
「……そういう訳じゃありません。ジュナさんとカグヤさんは結婚してるんで、お嬢様はカグヤさんをあくまで借りてるんですよ」
「そんなの分かってるわよ!」
2人が口論しだした。
長くなりそうだったので私はそっと席を立ち、船べりに出て景色を眺めた。
せっかくの観光だ。
「綺麗な眺めだなぁ。さすが有名な運河。どこも絵になる」
「本当だね」
そこに1人にされていたカグヤも合流した。
私の腰を抱いてピッタリ横に寄り添う。
私は柔らかい風を感じながら、カグヤに微笑みかけた。
「こんなにゆっくり動く乗り物も、たまにはいいね」
「そうだね。でもジュナのことだから、ブームスランにすぐ乗りたくなりそう」
カグヤがフフッと笑った。
「本当は、ここに来るまでも私1人でブームスランに乗って来たかったのに、シエラちゃんに『そんな車はちょっと……』って言われちゃった……カッコいいのにな」
「小さな女の子には分かってもらえないだろうね」
カグヤが私を慰めるかのように、頬にキスを落とした。
そこにシエラが不機嫌な表情で近付いてきた。
「私とのデートなのに、何イチャイチャしてるの!?」
「だって、シエラちゃんがディルとイチャイチャし出すから……」
私は冗談っぽくクスリと笑った。
「なっ!? そんなんじゃないわよ。私はカグヤがいいもん!」
シエラが顔を赤くしながらそう言って、カグヤの手を掴んで元の席に戻っていった。
私は苦笑しながら、手を振って見送った。




