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2:section of ジュナ 【出会い】


 私はジュナ。

 カレッジに通っている4年生だ。

 

 趣味は〝ブームスラン〟という白いスポーツカーを乗り回すこと。

 

 私のために特注で作ってもらった。

 

 低い車高に美しい流線型のボディ。

 その中に大きめのタイヤが埋め込まれるように一体化しており、ホイールの真ん中が内側に向けて少しへこんでいるカッコいいデザインだ。

 昔の懐かしいM T車を再現したような魔改造された愛車に乗り、夜のドライブをするのが好きだった。

 

 多分こんな趣味の女の子、居ないんじゃないかな。

 自分でも変わってるなって思う。


 今日は久しぶりに、家から遠くの山道に出掛けると、不思議な乗り物が落ちてくるのを偶然目撃した。


 非日常的な出来事にワクワクしながら車を降りて近付くと、不思議な乗り物からはフラフラしながら綺麗な男の人が出てきた。


 


 白い肌に白い髪。

 薄い灰色の瞳。

 色素の薄い彼は、人間離れした美しい容姿をしていた。


「大丈夫?」

 私が駆け寄ると、その人はフラリとよろけて転びそうになった。


 私は慌てて肩を貸して支えてあげた。

 そしてひとまず車の助手席に乗せた。


 しばらくオートモードで窓をフルオープンにしてゆるゆる走っていると、あまりきちんと覚醒していなかった彼は、目を閉じて寝てしまっていた。


 私はそんな彼を横目で見ながら、長い髪をなびかせて、夜の山道をしばらく楽しんだ。



 

 山道を降りて街に向けての帰り道、助手席の男の人がモソモソ動き出した。 


「あ、起きた?」

「…………」

 私の呼びかけに応じず、不思議そうにあたりを見回していた。


 私は気にせずに話しかけ続けた。

「良かった。もう少しで首都に入るから。君が眠ったままだと高品質のラブドール乗せて走ってるみたいで、職質受けないかとヒヤヒヤしてたよ」

「…………?」

「言葉通じてる? フフッ」

 私は宇宙人を拾ってしまったのかもしれない。

 そう思って笑いながら声をかけた。


 すると、男の人がおもむろにハンドルの横の部分にある、空中ディスプレイに手を伸ばし、そっと触れた。


「……本当に2103年だ」

 無表情の男の人が呟き、手を引っ込めた。


「……じゃぁちょっとスピード出すから、窓閉めるよ」

 私は空中ディスプレイを鍵盤を叩くように指先でいくつかタッチし、フルオープンにしてあった窓を閉じる。

 フロントガラスしか無かった窓が、車体の後ろから競り上がってきた屋根の形状になった透明なガラスとくっつき、境目が溶けるように無くなった。


 そうなったことを横目で確認し、私はオートモードを解除した。

 そしてクラッチを踏んでからギアチェンジし、アクセルを踏む。


「なんちゃって操作レバーなんだけどね。ベースは今のセーフティモデルカーのシステムを載せなきゃ、道を走れないから」

 私はそう説明しながら道路をかっ飛ばす。

 大きめのホイールの周りにある、美しいネオンブルーのライトが線を描く。


『ピピピピピピ!』

 カーブに差し掛かる度に警告音が、けたたましく鳴り響いた。


「あ、警告モード解除するの忘れてた」

 私はそう言いながら、空中ディスプレイの方を見ずに指でタッチして操作した。

 もう毎回のことなので体が覚えていた。


「…………」

 その間も隣の男の人は、無言アンド無表情だった。


 本当に人形を拾ってきたのかもしれない。


「私はジュナ。君の名前は?」

 私は前に顔を向けたまま、視線だけでチラッと彼を見た。

「……カグヤ」

「!! ほんと? 月からきたお姫様じゃん」

 私はケラケラ笑った。

「……月じゃない。未来から来た」

 カグヤが抑揚のない声で喋った。


「えー、そういう設定? まぁ確かにカグヤの見た目は未来人っぽいけど」

「本当。……宇宙船見てないの?」

「確かに不思議な乗り物は見たね……」

 私は半信半疑だった。


 すると、そんな私の様子が分かったのか、カグヤが私の方を向いて口を開いた。

「この車はブームスラン。ジュナにだけ特別作ってもらった。普通の車はオートモードだけど、ブームスランはマニュアルモードも搭載している。走行には関係ないエンジンを乗せてるね。それでこの重低音を出してる」

 

 カグヤがスラスラと私の愛車、ブームスランの特徴を言い出した。

「!! なんで知ってるの?」

 私は驚いて、少しだけカグヤを見てまた前を向いた。

「ディスプレイに流れる電波から、情報が読み取れるから」

 カグヤも前を向きながら言った。


「……本当に未来人?」

「そう。1000年後の」

 カグヤはそう言いながら空を見上げた。


「……あれは……星?」

 彼は呟くように言った。

「そうだよ」

「宇宙からはよく見てたけど、地球からは初めて見るかも。ガラス越しだけどよく見えてるね」

 運転しながらチラリと見たカグヤは、相変わらず無表情だった。


「それはもしかして驚いてるの? 感動してるの?」

「……分からない。僕は感情が希薄だから」

「ふーん。未来人はみんな?」

「そう」

「……なんかつまらなそうだね、未来って」

 私はそう言いながらアクセルを踏み込んだ。




 首都に入ると道路が複雑に入り組み、私はギアを落としながらカーブを曲がり、上へ上へと登っていく道路を進んだ。

 空中に浮かぶ道路の上を少しスピードを落として流す。

 この空中道路を走ると、少しだけ首都の街並みが一望出来て、ちょっと気に入っていた。


「ここから見る景色も綺麗なんだよ」

「…………」

 私の一推しの風景を見せても、カグヤは相変わらず無表情だった。

 ただちょっとだけ熱心に外を眺めていたように感じた。


 その時、違う黒い改造車がブームスランを追い越して、わざわざ前を陣取った。

 そしてテールランプを点滅させた。


 走り屋仲間とでも言うのだろうか?

 たまに一緒に走ってる友達のアトラだった。


「今日はダメかな」

 私はそう言いながら、フロントライトを一瞬だけハイライトにした。


 するとアトラが乗る車は、スピードを上げて走り去っていった。


「……さっきのは?」

 カグヤが興味を持ったのか聞いてきた。

 私はその時、何も反応のない未来人にいたずら(ごころ)が沸いた。


「んー、私とアトラの決めた合図でね、今日やれる? っていうお誘い」

「やれる?」

「うん。セックスのこと。肉体関係。繁殖行為」

「……そう」

 カグヤはそれでも無反応だった。


 なんか肩透かしだな。

 私は思わずジトっとした目で運転を続けた。


「ちなみに、未来人のセックス事情はどうなの?」

「……特にしないかな。子供を残したいと思った人は、遺伝子を操作したデザインチャイルドを作るために人工胚から育てるし」

「……やっぱり、未来ってつまらなさそう!」

 私はそう叫びながらアクセルを踏んで、超高層ビルの間を張り巡った空中道路を走り抜けた。




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